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管釣りノベル『レッツ!ぷあ~フィッシング!前編「貧釣りやろーよ!」』

プロローグ

自称ファミリーフィッシングジャーナリストのグリーンは、家族で楽しく釣りをしてもらうための啓発活動に尽力していた。

家族で楽しく釣りをするためには3つの要素があるとグリーンは考えている。

一つは「釣れること」、二つ目は「お金がかからないこと」、そして三つ目は「食べられること」である。

まず一つ目の「釣れる事」。これが最も重要なのは言うまでもない。家族で釣りに行く。釣れない。二度と釣りなんてしない。これが最も序盤で訪れる釣り界全体を脅かす最大の危機である。

二つ目の「お金がかからないこと」。これに気付いていない男性アングラーは意外に多い。

なぜ「お金がかからないこと」が必要なのか。それは自分のためだけではない、妻対策のためなのである。

「釣りはお金がかかる」。これを妻に悟られてしまったらおしまいだ。釣りはこの世の害悪とみなされ、二度と払拭することはできないだろう。

同様に三つ目の「食べられること」も妻や子供への対策と言える。魚が食べられる。夫が進んで料理をし、後片付けもしっかりする。ここまで行えて初めて円滑なファミリーフィッシングライフが送れるというのがグリーンの持つ「ファミリーフィッシング論」なのである。

この物語はその理論を広めるため全国を行脚しているグリーンと、偶然出会った貧しくも卑しい、そしてたくましい少女との熱い熱い物語である…。



【主な登場人物】(前編後編共通)
金菜 品子(かねな しなこ)
海なし県にある公立高校の三年生。貧乏だが明るく良い子。ひょんなことからグリーンに弟子入りする。

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グリーン
自称「ファミリーフィッシングジャーナリスト」。反則系ルアーの使い手。品子の釣りの師匠となる。

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オーナー
管理釣り場「プアレストガーデン」のオーナー。品子に親切にしてくれる。

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ユッケ
グリーンの弟子のネズミ。経済面でグリーンと品子を助ける。ユッケの兄は独身釣り貴族。

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富田 幸(とみた こう)
品子の同級生。姉は人気アングラーズアイドル「みーみょん」だが、本人は釣りに興味なし。

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豊川 加奈子(とよかわ かなこ)
品子の同級生。グリーンのことを恩人だと思っている。大金持ち。富田幸にキャラと人生を変えられてしまう。

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【主じゃない登場人物】(前編後編共通)
バンダナの似合うおじさん
品子の近所に住んでいるというバンダナの似合うおじさん。

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鱒柿 陽子(ますかき ようこ)
品子の担任。釣り部の顧問となる。富田幸の姉みーみょんとは釣り仲間。

レディース釣り軍団
品子たちと熱き戦いを繰り広げるレディースアングラー達。それぞれに痛い必殺技を持つ。



レッツ!ぷあ~フィッシング!

前編「貧釣りやろーよ!」


【釣りとの出会い】


「おっ、もう朝か…。」

男は起き上がり、体を伸ばす。

この男の名はグリーン。色んな橋の下で生活を続けている自称ファミリーフィッシングジャーナリストだ。昨日は治水橋で夜を明かした。

「さーて、今日はどんな普及活動をしようかな…。」

グリーンは毎日のようにファミリーフィッシングの普及に勤しんでいる。勤しんでいるが報酬はもらっていないので貧乏である。

グリーンが河川敷の辺りを見回すと、遠くに人がいるのを見つけた。

学生服を着た女性である。川面を真剣に見つめている。

「(どうしたんだろう?うーん、逮捕されそうでいやだけど声をかけてみるか…。)」

「どうたんだい?川に何かいるのかい?」

「ヒッ!」

女子高生は一瞬ビクっとなった。それもそのはず、男は全身緑づくめ。デパートの屋上でしか自然感を醸し出せない特異な格好である。

「あ…、あー。いやいや、怪しい者じゃないんだよ。」

100人に聞いた怪しい者の言いそうなセリフランキングトップ5に入りそうなセリフを吐き、さらに不審感に拍車をかける。

「あなた…、誰なんですか…!いや、何なんですか!」

女子高生は近くにあった石を握りしめた。これを投げられたら相当痛い。死ぬかもしれない。

「…!ああ、私はファミリーフィッシングジャーナリストのグリーンという者だよ。決してホームレスとか強姦魔とかではないよ。」

女子高生は握っていた石をゆっくり手放した。

「ファミリーフィッシングジャーナリスト…?それって、釣りの人ですか…?」

女子高生は「釣り」という言葉に妙に反応したようだった。

「ああ、世にファミリーフィッシングの素晴らしさを伝えているんだよ。まあファミリーはいないけどね。」

「それはわかります。あなたなんかに家族がいたら世も末です。そんなことどうでもいいんですけど、釣りをやってるんですか?」

「そうだが。少々嗜んでいるが。」

「へぇー。私、釣りをやってみたいんです。でも釣り道具って高いんですよね。私、とっても貧乏だから…。」

「いやいや、釣り道具は高いものもあれば安いものもあるよ。お嬢ちゃんのお小遣いでも十分買えると思うよ。お小遣いを貯めてみたらどうだい?」

「100円でも…?」

「ひゃ、百円か!?毎日かい?」

「毎月です。」

グリーンは一瞬異世界転生をしてしまったかと疑った。物価が著しくかけ離れた世界に。今日びの高校生なんて1か月1万円は余裕にもらっていそうであるが、1か月100円しか小遣いをもらっていない高校生なんて存在するのだろうか。

「そうかー、しかしまあ不可能なわけではないよ。拾うとか貰うとか黒魔術で生成するという手があるからね。ちなみにどんな釣りがやりたいんだい?」

「何でもいいんです。食べられれば…。」

「食べる釣りかー。そうするとここらへんの川や池ではなかなか難しいだろうね。食すのに適した魚はなかなかいないだろうから。」

「じゃあ無理ですか…?」

「テナガエビとかは美味しいね。でも魚じゃないし数釣るのは結構大変かもしれない。ここらへんで手に入れることができるという点ではこの魚が一番美味しいだろうけど。」

グリーンはテントの中から燻製にした魚を取り出してきた。

「食べてみるかい?」

「いいんですか…?でもあなたのような人が汚そうな場所から持ち出してきた魚だから正直食べたくないです。毒とかより菌が怖い…。」

「そうか、私はお腹が弱いけどこの魚を食べても全然平気だよ。騙されたと思って食べてみなよ。」

「でも騙されたと思って騙されることもあるわけですよね。」

「あるね。」

「私食べます。食べたら何かが始まる気がする…。お腹の中で菌の増殖が始まるかもしれないけど…。」

女子高生はその魚を食べ始めた。

「お、おいしい…!すごく汚いお皿で出された料理でも案外美味しかったみたいな感じ…。こんな汚そうなシチュエーションでもこれだけ美味しいんだからこれは本当に美味しい魚だと思います。」

「これはニジマスという魚なんだけど、この魚はその辺の川や池で釣ったものじゃないんだよ。管理釣り場っていう有料の釣り場で釣ったものなんだ。」

「えっ?じゃあお金がかかるっていうことですか?それじゃあ無理ですね…。」

「そうだね…。でもなんでそんなに食べられる魚が釣りたいんだい?」

「私の家は貧乏だからなんとか食料の足しにしたくて…。魚って栄養があるんですよね?野草とかよりもお腹いっぱいになりそうだし。」

「まあ、野草よりかはいいだろうね。川魚でもDHAやEPAを含有しているし。うーん、お金をかけずに美味しい魚を手に入れる方法かー。ちょっと考えてみようか?」

「何か策があるんですか?それならぜひお願いします!私は金菜品子と言います。」

「金菜さんね。分かった。3日後の土曜日にまたここに来てくれるかな。お金が一切かからずニジマスを手に入れる方法を見つけ出してみせるよ。」



3日後。

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