高田

楽しめる小説を目指して書いています。なかなかうまく書けませんが、読んでいただけると嬉し…

高田

楽しめる小説を目指して書いています。なかなかうまく書けませんが、読んでいただけると嬉しいです。

最近の記事

果樹園の秘密

緑豊かな山々に囲まれた田舎の村。春になると、梅やぶどうの果樹園が一斉に花を咲かせ、村全体が甘い香りで満たされる。中年女性、佐藤美香子は、夫の健二と中学生の娘、由美との三人家族で、この村に暮らしている。美香子は40歳。日常は平凡で、梅やぶどうの収穫を手伝いつつ、家事に追われる毎日だ。

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    • バスを降りた男

      田舎道をゆっくりと走るバスの中、気の弱い男、佐藤は座席に深く腰掛けていた。バスのエンジン音が単調に響き、窓の外には広がる田園風景が流れていく。涼やかな風が窓から入り込み、彼の顔を撫でていった。乗客はわずかに三人。彼は市役所に向かう途中だった。 しかし、彼の平穏は突然の尿意によって破られた。出発前に飲んだコーラが今、彼を苦しめている。次の停車までにはまだ10分もある。彼の額には冷や汗が浮かび、手のひらはじっとりと汗ばんでいた。 佐藤は内心で葛藤しながらも、勇気を振り絞って運

      • 失われた灯火

        一人暮らしの男、山崎修一は、都会の狭いアパートで静かな日々を送っていた。彼の唯一の同居人は、真っ白な毛並みを持つ猫のミルクだった。ミルクの柔らかい毛皮は暖かく、触れるたびに心が和んだ。ミルクの小さな鼻がかすかに動くたび、修一は安心感に包まれた。夜、ミルクの喉をくすぐるようなゴロゴロ音が、修一の孤独な心を癒していた。 しかし、ある朝、修一が目を覚ますと、ミルクの姿が見当たらなかった。いつもなら彼の足元で丸くなって寝ているはずのミルクが、どこにもいない。修一は不安に駆られ、部屋

        • コーヒーカップの中の過去

          オフィス街の一角にある喫茶店「カフェ・サンク」。その店内は、木の温もりが感じられる家具と柔らかな照明で満ちており、朝の光が窓ガラスを通して穏やかに差し込んでいた。窓際の席に座る若い男、佐藤健太は、手に持つカップから立ち上るコーヒーの香りに心を落ち着かせていた。新しい職場での忙しさから解放され、この瞬間だけは心の平穏を取り戻していた。 カフェ・サンクの店内には、コーヒーミルの音が静かに響き、カウンター越しに見えるバリスタたちの手際の良い動きが、健太の心を和ませた。カップを口元

        果樹園の秘密

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          コーラの夜(2)

          俺はやったぞ。やり遂げた。俺はコーラを飲むことができるんだ! 彼はコンビニの明るく照らされた自動ドアの前に立った。中の冷気が一瞬彼の顔に触れ、心地よいと感じた。 雨がっぱを脱ぎ、ずぶ濡れのポロシャツの袖で顔を拭くと、店内に足を踏み入れた。自動ドアが閉まると同時に、外の嵐の音が遠のき、静まり返った空間が彼を包んだ。 彼は真っ直ぐに飲み物のコーナーへ向かった。冷蔵庫のガラス扉の向こうに、一列だけコーラがあるのを見つけ、胸が高鳴った。彼はその中から一番手前の五百ミリリットルのペッ

          コーラの夜(2)

          コーラの夜(1)

           彼の生活の所作は完全にルーチン化されている。不文律なマニュアル化と言ってもいいだろう。やや強迫神経症気味を彼は自覚しているが、しかしこれを外れて不安になるよりはいいとも思っている。 毎朝彼は、七時半スマホのチェロの音色で目を覚ます。毎朝と言っても月曜から金曜までだが。そしてベットから這い出ると、まずトイレに行く。用を足した後寝ぼけ眼で顔を洗う。ここは必ずお湯である。水でもいいんだろうが、最初にお湯でやったから、ここはお湯に決まってるのだ。  そして顔の洗い方もパターンが決ま

          コーラの夜(1)