のびのびTRPG×忍殺TRPG「トゥ・アナザー・サーキュレイトリー・システム」

これは何?

これは、のびのびTRPGというボードゲームを用いてシナリオの大筋を決めてニンジャスレイヤーTRPGのシステム…というか雰囲気を使って肉付けしたものです。



~前回までのあらすじ~
ストリートニンジャのアイアンアイドルは、モータルの友達3人といつも楽しく活劇を繰り広げていた。繰り広げているうちに、モータル3人は死んだ。
アイアンアイドルは次の友達を探そうと日常に戻った。死んだモータルの内2人、マユとマリーは別々のタイミングでニンジャとして復活した。
ニンジャ達3人は、お互いの生死を知らずに互いを探したり探さなかったりしている。



登場人物之絵


アイアンアイドル


マユ


マリー



一つ前のエピソード。読まなくていい。たぶん。



以下本編



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ジゴクめいた通勤ラッシュが終わった時間。ネオサイタマを蠢かす血流が落ち着いた頃、モギ・マユは目を覚ます。一人暮らし。アパート。侘しさ。

彼女も大学生の頃は社会の構成員として活動をしていた。メガコーポに就職なんて考えもしていなかったが、どこかの組織には納まるだろうと漠然と考えていた。ところが今は、血流の循環から体外に飛び出てしまった赤血球の様に、無価値な存在だ。

大学生の頃は課外活動もしていた。死の危機もかなりあったが楽しかった。友達がいた。絆があった。
今は危険など無い。絆も無い。安定だけはある。ニンジャだからだ。


適当に身支度をし、小豆色の薄いドアを開けツチノコストリートへ出る。
自分の事務所兼作業場へ向かう道中、金を持ってそうなモータルに近づき、気絶させる。この手段は大抵手刀か、LAN直結か、HMDハックだ。助けるフリをしながら財布を抜き取って、金を取った後財布を戻す。
このような非合法なことをしても安定がある。ニンジャだからだ。

数歩歩くと、腕毛のよく生えたスモトリ崩れに絡まれる。

「オイ、ネーちゃん。今財布盗ってたよなぁ?俺、マッポに知り合いがいるンだわ。その金寄越せや。言われたくねえよなぁ?マッポに。」

男はマユの尻ポケットに毛むくじゃらの腕を突っ込み、素子をまさぐる。

「持ってんじゃねえか。ヘへッ良いモンをよぉ…アイエッ!?」

男の手首はマユに握り潰され、バルーンアートの関節部めいて細くなっていた。
手を抜き悶絶するスモトリ崩れ。マユは男の尻ポケットに手を突っ込み、高価そうなサイバーサングラスを抜き取る。

「良いもの持ってんじゃん」

うずくまってバルーンのようになってしまった彼を助ける者はいない。むしろ弱った強者を囲んで棒で叩くために近づこうとする者ばかり。ブッダも目を背ける光景。これが彼女の住むツチノコストリートだ。



マユはオイランドロイドや重サイバネの者を無償で直す仕事をしている。その対価に情報を貰う。どこかにいるはずの友達、アイアンアイドルの情報を。この仕事を続けているのも、いつかアイアンアイドルと出会うためだ。

彼女の店は治安の悪いストリートにある為、繁盛していない。まともな判断力のある者なら合法な整備屋に通おうとする。彼女の店は開業届を出していない。来る客が事情のある者ばかりになるのも当然だった。

しかし彼女にとってはそんなもので良かった。ニンジャであれば日銭はいくらでも稼げる。こんな仕事は流行っていなくていい。もっと言えば、する必要も無い。
なぜならアイアンアイドルと再会したいという希望の火もとうに消えているからだ。それでも探すフリをしているのは、そんなものでも無ければ自分が生きている意味が見出だせないため。自分を騙すためのフリを続けるだけの毎日。

客もいないので、手慰みにスモトリ崩れから抜き取ったサイバーサングラスを弄る。内部記憶領域に一つだけデータが入っている。それを展開しデスクの上のモニターに映像を繋げると…。

「アイエッ!?これ…どういうこと…!?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

一方その頃。
同時期にニンジャとして蘇っていたアイアンアイドルとマユの親友、マリーは代謝の良い肉体を手に入れたのを良いことに玉石混交のドラッグを試すパーティを1人で開催していた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「アイエッ!?これ…どういうこと…!?」

モニターに映っているのは、ツチノコストリートの雑居ビルの断面図。地上部はどこにでもある雑居ビルだが、地下には広い空間があり、そこにはアイアンアイドルの自作エンブレムが荒いポリゴンで回転していた!

思いもよらぬタイミングでアイアンアイドルの手がかりを得たマユ。急いで事務所を出て来た道を戻る。
早足は駆け足となり、ニンジャの速度でスモトリ崩れとあった場所へと戻ると…。そこにあったのは男の骨だけだった。持ち金も臓器もサイバネも全て盗られカートゥーンめいた骨が転がっているのみ。その骨さえアンタイ・ブディズムのバンドマンが楽器作りに拾おうとしている程だった。

「あ~!手がかりが!」

また事務所まで戻り、雑居ビルの場所を特定!再び事務所を飛び出ようとすると…

「おうマユ=サン。ちょうど良かった。ちょっと俺のサイバネ直してほしいんだ…廉価版を入れたらサポート外でよ。」

「後でね!やったげるから!」

足早に去るマユを見て男はサイバネアイを擦る。

「なんだぁ?あんなハキハキ喋るマユ=サン見たことねぇぞ。ま、中で待っとくか…。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

一方その頃。
1人ドラッグパーティを開催していたマリーは、目が覚めたらタマチャン・ジャングルにいた。
「あ~、ここどこだ?………蚊!デカ!」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


タングステン・ボンボリが数個灯るのみの、だだっ広い地下空間。埃まみれのベルトコンベアの陰にしゃがみ身を隠すニンジャあり。モギ・マユことドールフレンドリーだ。

雑居ビルを特定しガムを噛む警備員を排除しビルにエントリー。
ニンジャ観察眼とハッカーの観点から掛け軸裏のダイヤルを発見。
解錠し出てきたエレベータから地下へ移動。
雑居ビルの断面図からアイアンアイドルのエンブレムのあった空間まで移動。
そこまで来ると、この空間が何なのか突き止めるのは簡単だった。
アイアンアイドルのコピーグッズ製造工場だ。

ネコネコカワイイなどとは比べるべくもない地下アイドルニンジャの偽造商品を作る理由はなんなのか…と思考を巡らせていると、話し声が聞こえ咄嗟にベルトコンベアの影へ身を隠した。


「…ですからセンセイ。これらグッズを作っていれば向こうから来るッてわけです。」

「フン、なるほどな。で、いつ来るんだ?」

「エ?それは…そのう、待っていれば…」

「チェラッコラーッ!」

「アイエエ!」

「俺の気は短い。24時間以内に何か結果を持って来い。でなければ次は左腕も切り落とすぞ。」

「スミマセン!」


ドゲザをする音が聞こえる。
センセイと呼ばれている明らかにニンジャと思われる方は去っていった。ドゲザを続けているモータルと思しき方をインタビューするべくドールフレンドリーが背後から接近すると…。

「誰だ?」

ナムサン!気付かれた!眼が背中に付いている人間はいないはずではないのかと衝撃を受けていると…モータルの全方位監視アイが緑色に光りだす!ドゲザの体勢から慎ましやかに立ち上がるそのモータルは、両膝下と右腕を重機めいたサイバネに置換している!その体躯は10フィートはあった!

張り詰める殺気に意を決し、ドールフレンドリーは物陰から出た。


「なんだお前?どこから入った…?もしかしてアレか?アイアンアイドル=サンのツレかなんかか?ア?だとしたらセンセイに良い土産だ…!」

「ドーモ、ドールフレンドリーです。君、アイアンアイドル=サンとどんな関係…ンアーッ!」


重機ピストンキックがアイサツ中のドールフレンドリーの顔面を直撃!モータルの特権が彼女の脳を揺さぶる!


「なんだこいつ、ニンジャだったのか?センセイとえらい違うじゃねえか…」

脳震盪でフラつくドールフレンドリー!そこへトドメの右腕爆薬ピストンパンチが炸裂!天井に蜘蛛の巣状にヒビが入り、崩れ始めた。
読者諸氏の中にニンジャ動体視力をお持ちの方がいればお分かりだろう。ドールフレンドリーはパンチが到達するコンマ数秒前にその腕を膝で蹴り上げ上に逸らしたのだった。10フィートを越える巨躯の腕は天井を殴り破壊した。

ガラガラと音を立てて地下空間が瓦礫で埋まっていく。重サイバネモータルは瓦礫をもろに食らい沈む。その隙に彼女は常人なら死に至るほどのブロックの雨を浴びながら地上へと脱出した。

息を吐き、ドールフレンドリーはその場に座り込んだ。
崩れ行くコピーグッズ工場から一つ掴んで来たアイアンアイドルおすわりぬいぐるみを眺めて独り言つ。

「ふふ、顔パンパンすぎでしょ」

ぬいぐるみで額の血とこびり付いた粉塵を拭い、立ち上がって事務所へと帰って行った。
センセイと呼ばれていたあのニンジャは何者なのか、アイアンアイドルとどのような関係があるのか。辿ればわかるが、辿る事は死出の旅路となることは明白だった。今の彼女一人の力量では到底。到底一人では…。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

一方その頃。
マリーは腰蓑と巨大な葉で作った服でマジックマッシュルームを探し、苔むした木の根に登っていた。
「グエーッ!これは毒!…か?いやでも”効いて”るような…」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


事務所に戻ったマユは血の付いたアイアンアイドルぬいぐるみをデスクの端に置き、服を脱ぎ、傷の応急処置をしようと大型のホチキスを手に取ったところで…

「お、俺は出て行ったほうがいいかな…?」

後でサイバネを直すと言って放置していた客が奥の作業場から出てきた。下着姿のマユはバチンと傷口をホチキスで固定して、

「いいよ。直そう。」

立ち上がり、服を着直す。

「で、でもマユ=サン、その傷は…。何かあったんだろ?やっぱり俺帰るからよ」

「いいから。でもその代わり教えてもらいたい情報があるの。もしかしたら少し危険かもしれないんだけど…」


安定して停滞していた生活が崩壊し、再び刺激のある日々が訪れようとしていた。
秩序立って社会を循環していた赤血球は、ケオスの濁流を成す愚か者として生まれ変わった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



本編おわり


使ったのびのびTRPGの場面カード(今回はスチームパンクを使用)

場面カード「スリにあう」
スリを罰するなら光カードを、見逃すなら闇カードを得る。
→光カード「高機能ゴーグル」

場面カード「秘密の武器製造工場」
悪の工場
信じがたいことに、○○の紋章が刻まれていた

場面カード「がれきの下の希望」


あとがき

  • 本当は「秘密の武器製造工場」と「がれきの下の希望」の間に「せまりくる警官隊」があった。「秘密の武器製造工場」のカードテキストは巡回兵に発見されるという終わり方だったので、そこから何か低級な自律攻撃存在に囲まれる…という展開にしようと考えていた。それを丸ごと瓦礫の下に沈めてストーリーエンドなら気持ちよく繋がるし終われるじゃん!と思ったが、その展開書くのめんど!と思い、カットできそうなのでカットした。

  • 今思えば、いくら重機のようなサイバネを付けているとはいえモータルのパンチで天井を崩すことは無理。でも「がれきの下の希望」は瓦礫でめちゃくちゃになることが条件だから…。なんとか天井を崩させた。あと、彼をモータルじゃなく普通のサンシタニンジャとすることもできたけど、それだとマユは絶対勝てないし逃げ切ることもできないと思ったから、モータルにしました。

  • 最初に通勤ラッシュのことを社会を構成する血液の循環という比喩をしたのが、我ながらカッコいいじゃんと思い、最後もそれとの対比をやろうと思ったが、あんま上手く行かなかったね。

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