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[映画感想2024-2]哀れなるものたち -大人の絵本


 アカデミー賞の数々の部門にノミネートされている映画「哀れなるものたち」を見てきた。

「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが再びタッグを組み、スコットランドの作家アラスター・グレイの同名ゴシック小説を映画化。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金獅子賞を受賞し、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞ほか計11部門にノミネートされた。

https://eiga.com/movie/99481/

全体のあらすじ

 大人の体・子どもの心を持つ女性が世界を旅する。自分や周りを取り巻く男性の性欲や数々の出会いを通して自分自身を作り上げていく物語。

【総評】主人公女性が性と生を通して知を深め、自立する様を描いた大人のピノキオ。

 自分には合わなかった気がしているのだけれど、何が合わなかったのか考えていこうと思います。

1.人に勧められるかどうか → 3(私にはよくわからない)
・自分のこの映画に対する感情がよくわからないので判断できない。
・R18であるため、そもそも子どもは見られない。初々しいカップルは気まずくなりかねないので注意。ポスターのオシャレさに騙されそう。
・情事はまさに獣。コメディ感が凄い。セクシーシーンを求めている人もニーズが違うのかも。
・SF感やシュールな笑いも含まれているため、映画を見て色々考えたい人向けか。私には難しかった。

2.脚本・セリフ・演技 → 3 (凄まじい気がするが、よくわからない部分も多い)
・主人公役のエマ・ストーン氏の演技は素晴らしいと思う。
・心の成長と知性の成長は必ずしもリンクしないという表現が凄い。彼女は信じられないくらい性と知の面で純粋なまま探求していき、美しい貴婦人へと成長する。アンバランスさの表現が恐ろしかった。
・最初のガラス玉のような瞳から、最後の理性的な瞳への変化、機械的な序盤の歩き方から人として自立した歩き方への変化。語彙すらとっても気を使っているのが分かる。

・しかし、男性たちの感情が全く理解できなくて気持ち悪くなって…。あまりにも変態しかいなくて無理だったが、この感情も監督の手のひらの上なのだとは思う。

・助手の男性、主人公の美しい容姿に惹かれているのであれば、内面の成長を待つはずで、結婚にすぐは繋がらないと思う。序盤の彼女の幼児的な内面に惹かれているのであれば、かなりロリータ・コンプレックスを抱えていそうでそれはそれでキツイ。彼女の境遇に同情するのであれば、それこそ結婚なんてある種の拘束を選ばないだろう→どう考えても彼の人間性が詰む気がして辛い。
 最後、理解ある伴侶みたいな感じでエンディングの庭にいるのが解せない。

・変態弁護士もほぼ同様の嫌悪感。最後に破滅してそうなのが良かった。一番最初。会ったことがない人に会うために、少なくとも2階以上の高さのバルコニーまで登ってくる原動力は何なのか。

・博士は知的探究心に満ちていて、行動の理解が自分にはできたので好感。ただし、人体実験部分がやはりマッドサイエンティストすぎる。

・船にいた紳士は割りかしいい人そうだったが、子どもにポルノをぶつけるような嗜虐性を感じて嫌。

・将軍。だめこの人。

・救いは主人公が最後まで男達のことを、快楽をくれる道具か、観察対象としてしか見ていないところ。育ての親には情を持っているが、それぐらい。彼女を縛り付けることは誰にも出来ない。

・なお、彼女は旅で沢山のことを学んだが、結局貧困の人々を直接的に救うことは出来ず、一旦自分も貧困 poor になってしまうところがあまりに皮肉。

・哀れなのは誰なんだろうと思ったのだが、全員なのかなと思う。

・意味として含まれていないのは重々承知だが、日本語で単に「あわれ」と聴くと、趣があるといった古語を思い出す。個人的には古語的ニュアンスをこの映画からは感じた。
 Poor Things。

・後半の成長した主人公は、理性の面で一般的倫理観の存在を観察・理解してそうだったけど、最後まで本人自身は自分の考え方とそれとは全く別個に考えているように見えた。自分が良い環境と思えば、夫はあっさり捨てられると思う。まさに自立した女性。主人公と性的接触をしていた友人女性が、エンディングの庭で夫よりも近い位置に一緒に居るのはかなり不穏。恐ろしい。

3.音楽 → 5 (独特)
・物語が進むにつれて不協和音からの和音。最高に気持ち悪くていい音楽。
・映像や脚本にとてもあっていると思う。

4.映像 → 5 (グロテスクな絵本)
・魚眼レンズやピンホールカメラを使用しているのか?狭い視界の場面が多く、何処か本を覗き込んでいるような、挿絵を見ているような感覚がした。
・白黒の場面からカラーの場面の変化がすごい。
・全体的に色相が独特でアーティスティック。
・ポスターや場面場面のカットに人を惹きつけるものがある。
・空の情景が幻想的。オーロラのような。
・食事中、博士の口から出てくる泡が気になる気になる。
・髪の毛の長さや髪型が非常に比喩的。特に髪型は彼女が知性に目覚めているとき等分かりやすい。
・主人公の衣装の丈がドンドン長くなっていくのが、彼女の内面の成長とリンクしてて良い。 
・衣装が可愛い。
・最初、主人公の太く黒い眉毛とふわふわ淡い色のドレスの不調和が印象的。
・主人公の初めての外国。衣装の色合いが不思議の国のアリス。
・場面転換時の白黒の画像の不安感。なんか赤血球みたいなものも落ちてたので、体の中とか、下手したらへその緒とか胎盤的なやつなのかも。不安になるフォントもいい。
・情事場面は、女性も男性も美しく撮影する気がなく、コメディのようで面白かった。
・エンドロールまで楽しませようとしているところ素敵。何処か性や生を感じさせる、意味深な背景。

5.実際より体感時間が短かったか → 1 (ものすごく長く感じた)
・性シーンが多すぎてしんどい。
・ふわふわとした画像にグロテスクな性描写、頭が疲れてしまって自分には苦しかった。
・もっと船の上のチャーミングマダムみたいな人が清涼剤として出てきてほしかった。

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