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#4 the monogatary | 快晴

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人は忘れる生き物だ。忘れることで、僕たちは前に進む事が出来る。それは人間に与えられた当然の権利である。

舞台は神奈川。僕は高校で、野球に励んでいる。今日は朝練だ。片道2時間かけ、ぼくは今日もグラウンドに足を運ぶ。

昨日の試合はボロ負け。控えの捕手として出場した第二試合。盗塁を刺せなかった。悔しい。本当に悔しい。

試合後は壮絶な筋トレ。腕立て・腹筋・背筋・ダッシュ・バービー。無理にでも笑うしかない。でも、これだから野球は辞められない。このノリがあるからこそ、ぼくは今日も今日とて練習に励む

神奈川にある僕の学校はとにかく臭い。近くに養豚場があり、その匂いが校舎にまで届く。広々としていて立地は良い。が、臭すぎる。困ったものだ。この学校を選んだ理由は色々とあるが、この匂いについては知らなかった。知っていたところで受験校を変えたかどうかは分からない。でも事前に知っておきたかった。

朝練を終え、身支度を整える。使っていた用具を部室に入れ、整理整頓をする。授業に間に合うように急いで着替える。忘れ物がないか確認し、グラウンドに一礼する。これがいつものルーティーンである。感謝の気持ちを忘れることなかれ。監督の言葉である。野球はスポーツであり、基本的には実力主義である。しかしそれ以上に、野球に携わる指導者には大きな使命がある。その使命とは、野球を通して周りの人々に感謝する習慣を身に着け、常日頃から誰かのために行動する癖をつけること。試合で勝つことだけが野球の全てではない。過酷なスポーツゆえ、周りの理解が必須なのである。ゆえに感謝の気持ちを持つこと。そしてその恩を返すこと。これに尽きる。授業に遅刻するなど、論外である。

クラスルームに到着する。いつも通り、この時間は多くの生徒でにぎわっている。

近藤:「おはよう。」

森泉:「おはよう。」

近藤:「今日もタッパー持ってきたか?」

森泉:「もちろん。野球部だからね。」

近藤:「感心感心。頑張って食えよ。」

森泉:「おう。」

野球部は最近、監督が代わった。球を遠くに飛ばすためにはパワーが必要である。ゆえによく食べること。それはどんな球児にとっても、喫緊の課題である。ゆえに新監督は部員に対しある命令を下した。それはタッパーを持参すること。タッパーの中身は基本的に米である。数多のふりかけを駆使し、僕は今日もその米を食さなければならない。大変な作業である。食べ過ぎると授業に響く。色々と難しいことだらけではあるが、命令が下されている以上、やるしかないのである。野球部の悲しき運命である。

チャイムの音が聞こえる。どうやら授業が始まるらしい。近藤と軽く別れを告げ、自身の席に着く。