2050年 世界人口大減少 ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン著

世界は人口爆発によって、食糧不足になり、環境も悪化する。一度は聞いたことのある未来予想である。これまでの世界は、出産率が高い反面、乳幼児などの死亡率も高かった。それが、産業革命後、様々な技術発展のもと、医療や公衆衛生環境の改善で死亡率のみが、劇的低くなった。農業の発展によって、食糧供給も増加するものの、人口の増加は、食糧増加の比ではなく、最終的には食糧の争奪戦になってしまう。

超高齢社会に住む日本人や先進国では、人口は減ってしまうものの、発展途上国では、まさに人口爆発の未来が待っている。それが国連の報告であり、私もそのように認識していた。

その定説と思われていた世界規模の事象に異議を唱えたのがこの書である。2050年以降、人口は大減少すると。

それを象徴する言葉が、「脳はもっとも重要な生殖器である」。つまり、都市化、女性の教育水準の向上によって、出生率は、世界のあらゆる地域で減少しており、特に人口爆発の舞台と想定されている途上国で、その現象が顕著になっているという。著者はその事実を、詳細なデータとともに、出席率の主役である各国の若者の聞き取りを通じたフィールドワークから明らかにする。そこには、信仰心の希薄化やテレビなどの現代的な要素も加わる。

人口爆発に課題もあれば、人口減少にも多くの課題が付きまとう。医療費や年金問題、国内経済活動の縮小、まさに課題先進国日本が直面している諸問題である。著者が、若者が減ってしまうことによるイノベーションの欠如を懸念する点は新鮮だった。

では、人口減少にどう対応すれば良いのか。このまま国内人口が減っていくことを是として、それに応じた社会システムを構築していくことも一つの手ではある。しかし、著者のスタンスは、減少を食い止めるためにはどうすれば良いかを提示する。その一つの形をカナダの移民政策に見出す。それが、条件付きであるが「脱国家的国家」だ。カナダの国家の根幹をなす民主主義(英国)、自由・平等・博愛(仏)、宗教的寛容(欧州)という大枠を守りつつ、多様な国・地域からの移民を受け入れる。さて、日本国民は、どういった対応を取っていくのか。

本書で、一点気になる点があるとすれば、人口減少の視点から見た環境問題の考察。これは、本書の主題ではないものの、筆者の予測通りに2050年頃に人口減少が始まったとして、それは環境問題にとって良しと言えるのか。それまでに現状の経済システムを継続していく場合、人口減少が減る頃には、既に取り返しのつかない状況になっているのではないだろうか(最近であれば斎藤幸平著「人新生の資本論」が詳しい)。






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