花火と海、少しのビール
最悪な1日だった。
大学2年の夏、当時付き合っていた彼女と花火大会に行く予定を立てていた。彼女は気が強く、気分屋なところがある。
よく振り回されることが多かった。
その日も突如
「私、浴衣きていくからあなたも着てね」
と言われた。
一人暮らしの私はそんなもの持っていない。
朝から友達に聞き周り、やっと貸してくれる優しい友達を見つけたのは昼をすぎてからだった。
花火大会の会場に着くまでに、お酒とおつまみを買っていく。会場の周りのコンビニはもう混み合っていた。海岸から見ることのできるこの花火大会は、市だけではなく県中、あるいは県外から来るひとも多かったのだろう。早めに行ったにも関わらず、場所を取るのに苦戦した。
日が沈み、買ってきたお酒はすでになかった。二人はいい感じに酔い、花火は打ち上がり始めた。中盤に差し掛かった頃、協賛の名前が呼ばれ始めた。
綺麗な花火が打ち上がり「五十周年おめでとう。〇〇会社」といった具合に、打ち上がる。大きくて綺麗なものもあれば、少し個性的なものもあった。
色んな想いで花火を見ている人がいる。色んな想いで花火を打ち上げている人がいる。どの人もこの一瞬の輝きを大事にしているのだ、
そんな中、明らかに小さい花火が打ち上がる。これまでと違い、歓声はあがらない。
少し間を置いて
「〇〇さん、今まで一緒にいてくれてありがとう。これからも一緒にいよう。結婚してください」
と、スピーカーから流れた。
静寂から一転、これまでで一番の歓声と、拍手に包まれた。
僕たちはじっと見つめ合う。
「素敵だね。」と彼女はいった。
浴衣の彼女。
頬は赤らんでいる。
僕はなにも言えなかった。なにも言わなかった。
まだ打ち上がっている花火は、だんだん遠くなっていくような気がした。
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