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『きんとうか』感想② 渡利愁ルート

十数年ぶりに会う幼馴染とひと夏のアバンチュールを過ごす名作『きんとうか』のネタバレ有り感想です。
未プレイの方は是非アニメイトゲームスでDL販売をしているのでご購入ください。ネタバレの有無で素晴らしさが変わるほどやわな作品ではありませんが、あなたの(初見で感じた)ことを知りたい。


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渡利愁を一言で表現するならば、そう、おもしれー男(笑)
主人公である鈴村颯太も十分におもしれーヤツ(笑)なのだが、飄々としている彼から紡がれる意外性抜群のギャグセンスに驚いたプレイヤーは多いだろう、いや、多いね。……ここ、笑うところだぞ。

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共通ルートでの初対面時に冷血鬼畜眼鏡っぽい彼から面白ギャグが飛び出して来たときは驚いた。と同時にかなり愛してしまった。
恭が”花おばあちゃん想いの超いい子”と判明した時から愛してしまったように、愁のこともかなり大好きになってしまった。そもそも、きんとうかには嫌いなキャラがいない。皆勤勉で良い人なので。


愁の面倒見のよさを人は良く知っているが、手を取ろうとすれば煙のように立ち消えてしまう。そんな取っ掛かりのない彼は信仰や憐憫といった感情を遠巻きにしている人々から向けられている。
なぜ愁は人に深く関わろうとしないのか?その根底にある苦悩を癒していくのが愁ルートだ。

愁ルートは告白する前からキスやらエッチなことをしてしまう非童貞同士の恋愛なのだが、不思議とモラルの欠如は感じない。なぜなら二人が超絶お互いのことが大大大好ッきなのがプレイヤーには筒抜けだからだ。

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颯太の好きなっちゃうからだめとかいう殺し文句、本当にどうした???という感じ。それを聞いて抱かない男いる???愁さんはなんだかんだ人恋しいタイプだからもう颯太沼にズッボリ。
愁の背中に手をまわして「島の神様がいる?」「邪魔しないでって、言っておいてよ」というセリフもとてもとても好き。こんなん荒々しく抱くしかない。そもそも愁ルートの颯太、殺し文句が多すぎないか???

人の心のままならさ(光)を愁ルートでは丁寧に描いているのでとても好きです。ちなみに人の心のままならさ(闇)は宗定ルート。

あの夏の後、生活が一変した颯太が過ごした地獄のような日々を愁は知る。予想以上に壮絶な虐待を受けていたことが判明して絶句しました。食事もまともに取れない、泥棒ごっこ、リハビリ(事故由来と思われる)が七年かかる…。極めつけは何らかの事情で入院せざるを得なくなった、ということ。病気を拗らせたのか怪我なのかはわからないけれど、虐待強いるような家庭が入院させたということは相当な状態だったはず。そこから小川さん夫婦とかいう聖人に出会うので一安心ではあるが、もう、辛くて辛くて。愁さんも怒りを通り越して悲しくてたまらんかったんじゃないんだろうか。
それでも自分を追い詰めた人々を庇う颯太に優しく語り掛ける。

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「人はもっと、当たり前に優しいもの……」
このセリフがあまりに好き。愁さんの性根のあたたかさや、彼は普段から”人にあたりまえに優しくしている”のだろうとわかる。人間が好きで、思いやる心を持っている。それをにおわせる秀逸なセリフだと思う。

少し前後するけれど、「だから、アルバムを何度もめくって、思い出と空想で遊んでた」「あなたの子どもの頃の顔、俺の方が見てると思う」と颯太が笑って話すシーンも切ない。颯太にとって幼い頃の思い出は自分の根幹を成すもの。颯太は幼馴染と誰とも付き合わなくても、今回の帰省をきっかけに島へしばしばおとずれ、愚痴をきいたり子どものように遊んだり時には弱さを見せ合ったりして、彼らの人生を見守り愛したんだろうな。幼馴染たちもそんな颯太を愛したはずだ。愛には色々な形がある、恋や性愛、家族愛や友情という言葉は愛の一側面でしかない。


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それからの猫の霊の除霊(隠語)にはめちゃめちゃ笑った。都志見先生がインタビューでお話していた『禁忌』ってこれかよ!そしてこのお話を経て浅倉仁美のことがとてもとても好きになってしまったのだった……(宗定ルートに続く)


そして逢己のくそばばあ、ね

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このセリフがなかったら宗定ルートを越えられなかったんじゃないかと思うほど心の支えになった。逢己は滅ぶべし……となる度に愁の涼しげでお綺麗なお顔からくそばばあという単語が出てきたことを思い浮かべ、心を静めた。
後述にはなるが愁ルートで逢己タカをいい感じで取り扱ってくれたおかげで、宗定ルートの彼女にも多少の情をもって見守ることができたのだった。推奨攻略順を教えてくれた集合知、ありがとう。

そしてくそばばあは愁が神隠しの真相を打ち明けるきっかけを結果的に与えてくれたのでした。あとこの名台詞。

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面白名言製造ルートである愁のお話の中でも、屈指に好き。こんなもおしゃれなセリフを生み出してしまう都志見先生、あまりに天才。


神隠しの真相は、秘跡を得るようなものではなかった。愁は神様に愛されて隠された子でもなんでもなく、ずるくしたたかに、大人を縛った。そして幼い子ども故の思慮の浅さが自分を大切にしてくれた人を裏切って、傷つけた。”お父さん”と呼んで慕ったこともあった人を死に追いやってしまったのではないかと。そのことを今でも後悔し続けている。また司の魂を留まらせてしまったことで、地獄の苦しみを与えているのかもしれないと。
愁は大切な人を裏切り見捨ててきたから三人目を出さないために人と距離を置いていたのだ。
正直、大丈夫だよとか許すよとか生易しい言葉をかけられない重さがある。しかし颯太は「幸せに、幸せでいてくださいって、愁さんは思っているんだろう」「だから、みんな、あなたが好きなんじゃないか……」と彼を抱きしめ優しく語る。ハイパースーパーストレングス受け。攻めは抗えない。

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アットホームな雰囲気で蹴りがついた後は、危篤となった逢己タカに会いに行く。

愁ルートはの善悪の基準で誰かの人生を語ることのおこがましさを描いている。颯太が虐待を受けた家族を嫌うことができないように、浅倉仁美が実母を自殺まで追い詰めた逢己に育ててくれた恩として忠孝を尽くすように、柏木泰博が激動の人生を決して不憫だと卑下しなかったように。道徳どころか刑法や民法で裁けて罰を与えられてしまうようなことですら、当人たちには愛すべきものであったのだ、人には違うものさし(価値基準)があるのだから、と。
正直、私の感想だけではストックホルム症候群やーん!みたいなツッコミができる浅さだが、このルートは膨大なテキスト量で柏木泰博の不運としか呼べない人生を、幸福に満ちていたものだったのだと肯定する。
だからこそ、タカは多くの人を傷つけ憎まれ生きてきたが同時に愛されてもいた、という事実すら肯定する。『そうなんだ。共に生きれば、それだけで情が生まれる。知らずに絆が生まれて人は結びつく。』『どんな人間とも、出来ることならばうまくやりたい。許す、許さないなど、考えたくはない。』『当たり前のように、人は、人の和を望むから。』『愛してしまう。』『人は弱いものだと、みんな知っているから。』人のこころのままならなさを、颯太はそう表現した。
うまく言葉にはできないけれど、なんてあたたかくて切ないんだろうと。世界の全てが颯太達に優しいものであって欲しいと願いました。泣いた。

そして「あやとり」が流れる一連のシーンも号泣。もはや嗚咽した。このゲームをプレイする中で一番激しく泣いたかもしれない。柏木さんの人生の孤独さに、慎ましさに、酷い苦労に。それを幸福だったんだと笑う彼に。愁と手を繋いで街を歩き、自分を父と無防備に慕う子と過ごし、自分の知識を請われ語る時間の楽しさは、何に変えても大切なものだったんだなと。また愁は不幸を与える存在ではなく、柏木さんにとって幸福のかたちだった。その事実にも泣いた。もう登場人物全員に感情移入して泣いた。号泣。

愁ルートは人のこころの不思議さを丁寧に描く。愁ルートがあってこそ、司ルートも輝くのです。あんなにも不幸な生い立ちで、不運としかいえない死に際であったとしても、司は幸せだったんだなあと心からそう思えるから。

バッドエンドも最高ですよね!神様………。

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逆おくりに成功したとしても、颯太は司のように現われるんだろうか。記憶を失った颯太ともう一度恋をして死に至る話、不謹慎だがちょっと見たい。もう一つのバッドエンドも、噂話のように次の輪廻で双子や夫婦として生まれなおせたらいいね。


愁がおもしれー男という出だしからこんなにもしんみりとした締めになるとは思わなかった。エッチシーンの言葉攻めが暗に彼の承認欲求をあらわしているところが巧みすぎる、とか、暗殺者のような恋愛をしているという評だが情が移る前に別れるのだろうし何なら愁のほうから寂しくて手を伸ばしたことすら考えられるとか、語りたいことは沢山ある。
司√の愁はかなりの頻度で涙ぐんでいたのも印象的で、顔がおイケメン過ぎて冷たく感じるだけで、脆く柔らかな心の人なんだなあと思いました。

次は宗定ルートの感想が書きたいです。いやー、アルコール片手にしかプレイできないくらい結構きつかったです。でも浅倉仁美の例シーンが狂おしいほど好きで語りたいので絶対に書きたいです。

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