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『サムライのおしゃれ―印籠・刀装具・風俗画―』展 @静嘉堂文庫美術館

単に「サムライ」というと人によって様々な時代を思い浮かべると思うのだけど、『サムライのおしゃれ―印籠・刀装具・風俗画―』展における「サムライ」の多くは江戸時代後半。
この時代がどんな時代かと言えば、大きな戦がなくて比較的平和な時代。
刀を腰に差していても抜くことはあまりない時代です。
そんな時代のサムライたちが身につけていたファッションのうち、小物にスポットを当てたのが今回の美術展。

みんな持ってる刀だけど、スペックの良さを自慢するには抜かないとならない。
けど刀装具みたいに刀の外装であれば、刀を抜かずとも良いものを持っているとアピールできます。
個性の主張という点では、スマホのケースみたいな感じでしょうか。

黒蠟色塗鞘桐紋金具打刀拵(一文字信包太刀付属)
黒蠟色塗鞘桐紋金具打刀拵(一文字信包太刀付属)

「黒蠟色(くろろいろ)塗鞘桐紋金具打刀拵(一文字信包太刀付属)」は江戸時代前期(17世紀)に作られたものとされています。
黒蠟色の漆を塗った鞘に桐紋の金具があしらわれたもので、比較的シンプルです。
この時代、登城する際には黒蠟色の拵が正式とされていたそうです。
図録では「江戸前期の武士の美意識を伝えている」と書かれています。

展示ではまずはこの拵を見ることになります。
そして展示室を移ると、この渋さから一転、蒔絵に螺鈿といった超絶技巧を凝らした印籠の数々を見ることになります。
多くは18世紀から19世紀に作られたもので、先に見た17世紀の拵とはだいぶ様子が違います。
戦のない時代の殿様たちが身につけていたもので、これが高価なものというのは見ただけで分かります。

戦がないからこそサムライたちは身だしなみに注意し、財力のある殿様たちは高価な工芸作品を好んで身につけたのかもしれません。
戦場にこんな高価なものを持っていけるでしょうか。
それよりも実用的でシンプルなものを持って行ったのではないでしょうか。
私のような庶民の考えることなので、もしかしたらすごい高価なものを持って戦場を駆け抜けた人もいたかもしれませんけど。

刀装具も同じで、江戸時代後期のものは比較的デコラティブなものが多い印象です。
刀を差したサムライが他人と向き合った時に一番目立つのは鍔ではないでしょうか。
鍔には当時の金工技術がふんだんに取り入れられています。

鞘以外の刀装具も印籠も、手のひらで収まるサイズです。
そんな小さなものに蒔絵に螺鈿、象嵌などの様々な技法を用いています。
展覧会リーフレットにも使われている「花鳥図大小鐔・三所物」を見ると、小柄にあしらわれた大きな金の花はおよそ1cm程度、周りに散らされた花の茎などはそれよりも小さい線のような細さです。
金や赤銅を点描画のように使って鳥の尾羽を表現しているのも圧巻の細かさ。
とはいえ、これは実際に持ち歩いたのでしょうか。
商人がインテリアとして刀の拵を発注していたという話も聞きますので、最初から美術品として作られたものも展示の中にはあったかもしれません。

実際にどんな刀装具を使っていたのかが垣間見えるのが風俗画です。
描かれた人々が差している刀や印籠を見ると、少しだけ実用されていたものがどんなものだったのかが見えます。

今回の展覧会での最大の目玉は「サーベル形儀仗刀 後藤象二郎拝領」。
後藤象二郎がヴィクトリア女王から拝領したサーベルと、その外装です。

サーベル形儀仗刀 後藤象二郎拝領
サーベル形儀仗刀 後藤象二郎拝領
サーベル形儀仗刀 後藤象二郎拝領
サーベル形儀仗刀 後藤象二郎拝領
サーベル形儀仗刀 後藤象二郎拝領

ニュースにもなりましたが、最近になって静嘉堂文庫にあったのが再発見されたそうで、今回のお披露目となったようです。
なぜ後藤象二郎の持ち物がここに?と思われますが、静嘉堂創設者で三菱財閥2代目の岩﨑彌之助と後藤象二郎の長女が結婚した縁で、と考えられています。
平たく言えば、義理の親子だからということですね。

こちらは儀仗用で、刃はありません。
特徴的なのは、刀身全体ににエッチングが施されていて、そこにヴィクトリア女王からの感謝の印である旨が書かれています。
なんという誉高い逸品か。

外装も展示されていますが、日本刀の拵とは全く趣が異なります。
太いベルトやストラップもセットになっているのは、太刀拵とはちょっと違います。
けど、鞘に装飾を施す点は日本の儀仗用の太刀拵と同じ。
柄には糸巻などせず、象牙と思われるものが剥き出しで、柄頭にはライオンと思しき彫刻が施されています。
日本刀の場合は、柄頭にも工芸技術が使われた刀装具が嵌っています。
イギリスも日本も柄頭に装飾を施すのは同じ。
刀の作り方も装具も違うけど、飾りたいところは似ているようです。


ミュージアムショップでは冊子という名の図録とグッズが販売されています。
噂の曜変天目茶碗ぬいぐるみも在庫ありました。
「おお、これがあの……」と、感動を覚えながらサンプルを手にする事もできました。
私は今回はピンズのみ。
かねてより刀装具のグッズが欲しかったワタクシ。
ピンズを目にして買う以外の選択肢はありませんでした。

図録とお土産の鍔のピンズ

今まで印籠のことをよく知らなかったのですが、刀装具と同じような技術が使われていると知れて大満足です。
小さなサイズに丁寧に施された工芸の粋、じっくりと味わうことができました。


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