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とあるキジのお話(桃太郎)

キジは縄張り争いが好きじゃなくて
弱虫だと評判が広がり
今ではどこを通ってもみんな知らんぷり。
話しかけても知らんぷり。

ああ、寂しくてたまらない。
キジはいつもひとりぼっちでした。

そんなキジでしたから
桃太郎から仲間に誘われて
すっかり舞い上がってしまいます。
どこに行くのか聞いてなかったけど
僕にも仲間ができるんだ!
こうして二つ返事で
キジは桃太郎一行の仲間になりました。

いっしょに行動するうちに
気が弱いことはバレていましたが
しょうがないなあと笑うだけで
のけ者にされることはありません。
キジにとって最高に幸せな日々が続きます。

しかし最近どうしたのでしょう。
少しみんなピリピリしています。
キジはみんなの様子をうかがいながら
聞くこともできません。

おや、ボートに乗るようです。
いよいよ鬼退治に島に渡るのです。
キジは大丈夫でしょうか。

なんか怖いよ。
どこに向かっているんだろう。

怯えながらみんなについていったキジは
鬼の姿が見えた瞬間
その恐ろしさにびっくりして
近くの岩陰に逃げ込んでしまいます。

一緒に戦う勇気なんてあるはずがなく
だけどせっかくできた大切な仲間を
置いて逃げることもできず
キジは岩かげから動けずに
そっと見守ります。

ああ、怖いよ
でもみんなが死んでしまったら…
余計に怖くてたまりません。

善戦もむなしく
サルはたたきつけられ
犬は振りとばされてしまいました。
たおれた桃太郎に鬼が迫っています。

みんなが危ない
怯えているしかできないなんて
こんなのもういやだ!

ケーン!!
生まれて初めての大声で自分を奮い立たせて
キジは全速力で走り出しました。

急に聞こえた声にびっくりして
桃太郎をたたきつぶそうと
振り上げていた腕を止めた鬼に
ぐんぐん上っていきます。
そう、キジはものすごく足が速かったのです。

必死であちこちつつかれて
これはたまらないと
鬼は必死に振り落とそうとしますが
キジはすばしっこく逃げ回ります。

驚いていたのは
桃太郎たちも同じでした。
あっけにとられたまま
キジの奮闘を見ていましたが
ついに振りとばされてしまったのを見て
あわててキジのところに走り寄ります。

みんなだいじょうぶ?
そういってキジは気を失ってしまいました。
キジの勇気に触発されたのか
桃太郎たちは奮闘の末
ついに鬼を降伏させました。

なんだか体中が痛いや…
ああ!みんなが大変だ!
飛び起きようとしたキジに
笑いながら桃太郎が話しかけてきました。

頑張ったな、もう全部終わったよ。
みんな無事だよ、ありがとう。
心配ないからまだゆっくり寝てろ。

ああ、よかった。
みんな無事でよかった。
キジは安心して
再び眠りについたのでした。

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