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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『新型コロナと平均寿命』」鈴木貞夫

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)
Web医事新報登録日: 2021-07-26

米国疾病対策センターは7月21日、米国人の平均寿命が昨年1年間で1.5年短くなったと発表した【1】。これは第2次世界大戦以来最大の下げ幅らしい。人種格差も深刻で、ヒスパニック系男性で3.7年、黒人男性でも3.3年短縮している。最大の原因は間違いなく新型コロナ感染で、3年以上の短縮は極めて憂慮すべき事態である。ここでは、昨年のコロナ死亡を評価する上で、最も正確で妥当性が高い平均寿命をはじめとする生命表解析について概説する。

欧米の流行地で過剰死亡が問題になるや、日本でも各種データから過剰死亡を検出する動きが過熱した。しかし、爆発的な死亡の増加がある欧米はともかく、データとしての過剰死亡は、コロナ感染非流行地で同定できるようなものではない。人口の増減や移動、高齢化の影響を受けるし、比較対象となるべき「例年」の定義すらない。平均寿命であれば、そのような要因の影響を受けず、任意の年との比較が可能である。生命表解析は、平均寿命のみならず、生存曲線を描くことで詳細な記述も可能である。記事から昨年の米国の年齢別死亡率データ【2】をたどり、生存曲線を描いて、過去のものと比較すると、平均寿命がこれだけ短縮した背景が見えてくる。

過剰死亡がすべての死亡を1件と評価するのに対し、平均寿命は、生きた時間の長さを評価するものなので、若年者死亡があると寿命の平均値は大きく低下する。米国で、特にマイノリティで平均寿命が大きく低下したのは、非高齢者の死亡が長く続いているからで、上記生存曲線の2020年と過去のものとの差が、30代から開き始めていることと対応している。また、米国の公開個人データ(2000万人超!)の解析でも、全コロナ死亡者に対する30代の割合が1.5%程度ある。日本のコロナ死亡での30代の割合は0.4%程度なので、米国はコロナ死亡者の全体数が多いだけでなく、若年者の死亡者に占める割合も高い。平均寿命が大きく低下したのはそういう背景がある。

過剰死亡報道が華やかだった頃、日本はこういうデータが出てくるのが遅くて、きちんとした対応が取れないという意見が出た。しかし、過剰死亡で今までわからなかったものが見えてくるということは基本的にはない。指標やデータは適切なものを適切な場面で使うべきだ。もっとも、日本は平均寿命の結果が出るのも遅いのだけれど。

【文献】
1)BBC News:Covid-19 pandemic drives US life expectancy fall.[日本語訳
2)Arias E, et al:Vital Statistics Rapid Release. No.10 Feb 2021. 

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