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【識者の眼】「わが国のコロナ対策をマクロの目で見る」浅香正博

浅香正博 (北海道医療大学学長)
Web医事新報登録日: 2021-07-05

新型コロナウイルス感染が世界中に蔓延し、多くの死者を出している。6月21日の時点で、全世界で386万人が新型コロナウイルス感染により死亡している。最も多く死者を出しているのは米国で、60万人が亡くなっている。これは南北戦争の50万人、第二次世界大戦の40万人、ベトナム戦争の5.8万人を上回っており、まさしく国難と言ってよい数字である。

2020年、新型コロナウイルス感染によって米国では34.5万人が死亡しており、死因として心血管障害、がんに次いで第3位に位置している。わが国でも新型コロナウイルス感染は大きな問題となっており、毎日、感染者数、重症患者数、死者数がメディアによって報告されている。しかし、わが国では2020年に新型コロナウイルス感染で亡くなった人の数は3500人であり、38万人が亡くなっているがんからみると、百分の一に過ぎない。高齢化によりわが国の死者数は2015年以来、毎年2万から3万人程度増加してきているが、20年は死者数が2009年以来11年ぶりに減少を示した。

最も減少したのは、新型コロナウイルス以外の肺炎とインフルエンザであり、死者は合わせて約1万4000人減少した。これは新型コロナ対策のため、マスクの着用、手洗いなどが全国的に励行され、他の細菌やウイルスによる感染症が流行しなかったことによると考えられる。明らかに増えている死因は老衰であり、約8000人も増加している。自殺数も11年ぶりに増加した。新型コロナ対策により自粛生活が余儀なくされたことにより、ストレスが増え、会話も減って認知症が進行し、運動不足も手伝って、老衰死が増加した可能性が考えられる。2020年、欧米諸国が、新型コロナ感染によって98万人の超過死亡を抱えていたのに対し、わが国では超過死亡は発生しなかったのである。

そうなるとわが国の新型コロナ対策は一見成功したかのようにみえるが、新型コロナ対策による国民の自粛により、発生しなくても良い疾患がいくつも発生している。これはまさにわが国の新型コロナ対策が過剰である可能性を示唆するものであるといえないだろうか。感染症対策の専門家のみで重要な施策を判断することが続いていけば、新型コロナ対策のみに眼が行き大局を誤りかねない。国策で最も重要なことはわが国の年間死亡者数を如何に減少させるかである。したがって新型コロナ時代においては大局に立った施策を行いうる司令塔が絶対に必要であろう。

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