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『保護者からの質問に自信を持って答える!吃音Q&A』note連載 第0回:はじめに

はじめに ”吃音研究を始める人にも読んで欲しい”

2020年初め,新型コロナウィルス(COVID-19)が世界中で大流行し,東京オリンピックが延期されました。当初は治療薬もワクチンもなく,学校を3カ月間休校し,1カ月半緊急事態宣言が出され,私たちの生活が一変しました。新型コロナウィルスが原因で著名人が亡くなり,不安と恐怖が苛まれました。
しかし,この感染症の特徴をつかんだ情報が分かってくると,この不安と恐怖は軽減していきました。若者の感染者は重症化しにくいことが分かり,マスク着用,人と人の距離を取る(キープディスタンス),ステイホームが感染者数を減らすことが分かってきました。また,ワクチン接種により,新型コロナウィルス感染症を減らす将来の見通しの希望が持てるようになりました。

この未知な感染症と,本書のテーマの「吃音症」の共通点は「情報量不足」です。吃音を悲観する保護者の不安を聞くと,「私のせいだ。治らなかったら,小学校に入学後いじめられ,就職できず,引きこもりになるかもしれない」など,吃音に対する情報量不足から不安になっていることが多いです。


”吃音って,治るものですか?”

この最もよく聞かれる質問に対して,
「だいたい小学生に上がるまでに治ると思いますよ」
「うーん,治る人もいるし,治らない人もたまにはいるんじゃないかな」
などといった答えでは,保護者は納得しないかもしれません。

しかし,「発症後3年で男児は6割,女児が8割自然回復するデータがあります」と客観的な数値で答えると,新しい吃音の知識を提供できるので,納得感が得られるかもしれません。本書の目次をまず見ていただき,どう答えようか,興味のある所から読み進めてみてもいいのかもしれません。


もう1つの本連載(ゆくゆくは書籍になります)の目的として,

わが国で吃音研究者が増えて欲しいと考えています。

「吃音のエビデンスを増やす」「科学的に吃音を見る」とは,どうすることでしょうか?

科学=計測することです。
吃音の場合,聴力検査のように普及している定量的な検査はほとんどありません。とても研究しづらい疾患ですが,最新の英語論文を50編ほど読めば,各自が研究のアイディアが浮かぶのではないでしょうか。
「海外で行った研究を,日本人を対象にして再現性を確認した」というだけでも世界に向けて発表ができると思います。


本連載は,2012年に私が執筆した『エビデンスに基づいた吃音支援入門』(学苑社)の続編的な位置付けになるかと思います。
内容は,①エントリー編,②ベーシック編,③アドバンス編,④巻末資料の4部構成としています。

①エントリー編では,2010年以前のエビデンスで,今でも使えるものと実用的な合理的配慮の話を書かせていただきました。

②ベーシック編では,わが子に吃音が始まった保護者がまず疑問に思うこと,不安に思う原因,自然経過,いじめとカミングアウト,教師の役割などを主に2010年以降の英語論文で発表されたエビデンスを基に解説していきます。

③アドバンス編では,ベーシック編と同様に2010年以降の英語論文で分かったこと,世界の吃音研究はどこまで進んでいるのか,遺伝学的,脳科学的,吃音軽減法,社交不安症,薬物療法,社会経済学的研究を紹介したいと思います。

④巻末資料として,保護者が先生などに吃音を伝えるのに役立つプリントを入れます。また,ベーシック編,アドバンス編で使われた問診票の一部を日本語訳にしています。研究にも役立てていただけると幸いです。


本連載を通して,吃音診療・相談に自信を持つ医師・医療従事者,正しい理解のある福祉・教育関係者が増え,その結果として吃音に悩む当事者と保護者が減ることを期待しています。

また,吃音研究の大切さが広まり,協力していただける研究者が増えることも期待しています。



菊池良和(九州大学病院耳鼻咽喉科 助教)


続き(note連載第1回)はこちら



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