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『保護者からの質問に自信を持って答える!吃音Q&A』note連載 第2回:利き手矯正と吃音の波

エントリー編

2:利き手矯正と吃音の波


母親
左利きを矯正することが吃音の原因となることがあるという情報を見ました。私の子も左利きです。
利き手は矯正していないのですが,左利きの方が吃音になる可能性が高いことはありますか?

1930年代の吃音の原因論として,「利き手矯正説」が考えられていました。

その説ができた経緯としては,1920年代に吃音は左利きの子,両手利きの子が多いのではないかという話と,左利きを右利きに矯正された子を左利きに戻すと吃音が治ったという事例があったことが関係しています。

ただ,元々右利きだった子でも吃音が始まり,右利きに矯正された子を左利きに戻しても吃音が治らないことがありました。


母親
「利き手矯正説」はどうやって否定されたのですか?

仮説を否定するときは、科学的なエビデンスに基づきます。


母親
「科学」とはよく聞く言葉ですが、どんな方法になるのですか?

科学=測定することと同じ意味です。
Johnsonらは,吃音のある人46名と吃音がない人46名を集めて,利き手を比較しました。
表に示すように左利き,両手利き,右利きに矯正された人たちを比較しても,吃音群が特別多かったことではないことで「利き手矯正説」は否定されました。

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母親
なるほど、1人や2人の吃音のある人の特徴だけを見るのではなく、大勢の吃音者の共通点を抜き出すことが科学なのですね。

吃音を科学的に見ることで、多くのことが分かってきました。ただ,解明がほとんど進んでいない部分があります。


母親
それは何ですか?

吃音の波についてです。とても吃音が多くなる日もあれば,もう吃音が治ったのではないかと錯覚するほどの調子が良い日があります。
私も40年くらい吃音者ですが,いまだに自分でもいつ調子が良くなるのか,悪くなるのか分からないです。


母親
そうなのですね。
子どもの吃音がまた悪化したらどうしようか?と心配します。

まず,言葉遣いを変えることが大事だと私はいつも伝えています。

「吃音が悪化する」「吃音がひどくなる」という言葉ではなく,「吃音が増える」という中立的な言葉が良いと思います。
また,「吃音が改善する」ではなく,「吃音が減った」という言葉を私は使うようにしています。

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表面上の吃音の状態に保護者の心理が左右されるのではなく,話すという行為の内面にある「話したい気持ち」を育てることを重要視すると良いと思います。


菊池良和(九州大学病院耳鼻咽喉科 助教)

続き(note連載第3回)はこちら



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