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『みねそう先生の免疫学はじめの一歩』note連載 第1回:Extra!序章の前に・・・免疫学の「勉強」への誘いと,ブックガイド

序章が……はじまらない!!?







1:お決まりの言い訳から始まります…!

連載1回目です……?……が,連載1回目からイレギュラーなことに,計画とは違うものを書きたいと思います(しかも期限をかなりすぎてしまっているうえに,編集者さんと相談もしていません…そういうことが許されるのかどうか,この原稿を送ってみないと…なのですが)。


編集「・・・・・・」



よかった!👶


当初の計画では,第1回は「免疫とは何だろうか」というおそらく連載でもっとも難しい原稿を書かねばならなかったのですが,まだ完全には書いていません(書いている途中というのが正しいのですが…難産です)。
「免疫とは何か」という免疫学の第一歩に,普通の教科書と同じように踏み込む,そこから無難に始める計画だったのですが。。。

さて,これから連載で扱っていこうとしている「免疫」(immunity)というのは非常に複雑で動的であり,かつ「美しい」システムです。
多細胞生物の中において,外敵となりうる病原体をはじめとする異物の侵入を防ぐことに始まり,異常細胞の制御を含む生命システムの総合的なメンテナンスをも行う,そんな重要なシステム,それが免疫系です。

免疫というシステムは生命体のシステム全体を維持するためにも欠かせないのものなのです。

免疫が正しく働かないと,容易に感染症になりえますし,先天性の免疫不全があると多くの合併症が起こってきます。がんについても免疫系の働きによって,発症や治療にも影響があることはかなり広く知られてきていますね。
今大流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる感染症(COVID-19)においても,様々な免疫がその予防・発症・症状にかかわりますし,対策の切り札となるワクチンはまさに免疫を使った対策であることは言うまでもありません。

そのような「免疫」について,丁寧に解きほぐしながら説明するのはかなり時間がかかりますし,様々な視点から「うまく」お見せしていくことが非常に重要になってくるのは確かです。
そういったこともあり,書きあぐねているということもあるのです…が,それは1つには言い訳で,もう1つに以下の理由があって,今回は連載内容を変更しました。


2:免疫について学ぶのが免疫学

免疫についての学問分野が「免疫学」(immunology)になりますが,免疫学を学ぶにあたって,どのような順序で,どのような教材を用いて行くのがよいだろうか…というのは学習者にとって重要なことになると思いますし,何より,この連載をどんな感じで読んでいけばよいのだろうかということも大事だと思っています。
というのは、免疫の「本当の面白さ」に触れる前に挫折してしまったり,この先どこに連れていかれるのかわからず,不安なままに雑学収拾のようになってしまっては,折角読んで頂くのに,あまりよくないなぁと思うのです。
そこで,そういう「勉強法」に関することを、先に述べておいた方がよいのではないか,と思うに至りました。どのような順序で何を読み,どのようなものを参考にしながら進んでいくのか,そういった指針のようなものがあるとよいのかなと思ったのです。


3:おすすめ本と勉強法のさわりをまとめる回に!

そこで今回は特別に「免疫学の勉強」に有用であると考える書籍と勉強の方法,今後書いていくこのシリーズの方向性の概要を指し示す,このようなことをまとめてみたいと思います(書籍ではこのような内容は,大抵一番最後の参考文献コーナーに押しやられてしまいますよね)。
というわけで,免疫学の「勉強」への誘いということに,今回は相成りました。
他の基礎医学分野などにも共通するところは多いと思いますが,勉強法は重要です。いえ,超重要です。闇雲に一つの教科書に決め打ちしてただガリガリ読んでもダメなことは多いですし,目標・目的を定めたもののそこにたどり着く道筋を考えない勉強「計画」(無計画?)も,簡単に破綻や挫折に結びついてしまいますね。飽きてしまっても行けませんし,燃え尽きてしまってもいけない,これも当然です。

というわけで,お勧めの教科書・参考書,おすすめの勉強の仕方などを紹介し,そして少しだけさわりの部分にはなりますが,勉強法そのものについてもみてみたいと思います。

免疫学に関連した良書はたくさんあります


4:比較的簡単な本から読んでみよう!

さて,今回の連載企画の主旨でもあるのですが,第一に免疫学に「親しんで頂くこと」,これがとにかく重要だと思っています。免疫ってどんなものだろう,というのを少しでも多くの方が少しでも正確に,基本的な部分から理解してもらえること,それができればとてもうれしいなと思うのです。

そこで,順番に本を紹介する一歩目として,まずは手軽に手に取って読める免疫学に関連した「読み物的な本」を紹介していきたいと思います。

突然,本格的な教科書に入るのは結構大変ですし,難しさが壁になってしまって,挫折してしまっては元も子もありません。そして何より学習というのは,全体像をまずは大まかに把握し,そしてその詳細を確認し,また全体像を眺めなおし…を繰り返すことで,全体も詳細もよくわかっていくものですよね。そういう意味では,読み通せて,かつ全体をつかませてくれる,そういうものは第一歩としては,非常に大事であると考えています。

というわけで,まずは読み通して,免疫学の全体像をなんとなく把握できる,そういう本を数冊紹介させて頂きたいと思います。

・『からだのしくみを学べる!はたらく細胞 人体のふしぎ図鑑』(講談社)

まずは親しんで頂くことが何より重要,という観点から紹介です。みなさんご存じのマンガ『はたらく細胞』(講談社)とコラボしている人体のふしぎ図鑑です。
え,この本を紹介する??的なことを感じた方もいるかもしれませんが,全体像の把握は非常に重要です。お子様にも勧められるこの1冊は,身体の中でどのような細胞がどのように働いているかをマンガで分かりやすく解説してくれています。
身体には32兆個以上ともいわれる細胞があるのですが,細胞は様々な種類にわかれて様々な機能を担っています。『はたらく細胞』というこの人気マンガで活躍する細胞(登場人物?)としては,白血球や赤血球,血小板などの血球系,すなわち血液の細胞が多く,主人公的な位置を占めていますよね。

白血球などは免疫を担う「免疫細胞」です。マンガの主要キャラクターになるぐらい,免疫細胞というのはダイナミックかつ様々な活動をしてくれます。そして,身体を正常に保つことに非常に貢献しているのですね。そういったことを感じさせてくれる,簡単な身体の仕組みをみるために,お子様から,まったくヒトの身体の仕組みについて知らない,という方までの初学者の方にお勧めできる1冊になっています。


・『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』(講談社)

さて,免疫関係の読み物ということになると…これがオススメ!の新書です。ブルーバックスより『新しい免疫入門』。特に「自然免疫」というシステムについての研究で非常に御高名な審良先生,黒崎先生の共著による免疫の全体像をわかりやすく解説した1冊です。
特色としては「自然免疫」というシステムについても非常にわかりやすく盛り込まれており,現在の免疫学の大枠をとらえるにはとても良いと思われます。

免疫学の「読み物」的な本は結構ありますが,この本は自然免疫に多めに焦点を充てながらも,全体像が把握できるように,最近の免疫学の知見も盛り込んで非常に分かりやすくまとめられているんですね。
ちょっと前の世代までは,獲得免疫というのが免疫の大部分,のような本が多かったのですが,最近は「自然免疫系」もわかってきていることが増え,このような「新しい」入門書が出ているということなのですが…それは連載で追々触れていきたいと思っています。是非,すぐに読み通せると思いますので,免疫学の本格的な勉強を始める前の段階として,お勧めしたいと思います。


・『Dr.新妻免疫塾 正しく知る!ウイルス感染と免疫の基礎』(東京図書)

スタンフォード大学で免疫学の研究をされている新妻耕太先生(私のお友達で,私よりずっと若い)による,主に初心者・初学者むけに書かれた、免疫学の基礎とウイルス感染症の基礎がまとめられた1冊です。
免疫のシステムにでてくる「登場人物」が基本的なところについてよくおさえられており,どのような仕組みで免疫がはたらくのか,イメージがつかみやすく書かれています。記載も前半の非常にわかりやすい入門部分とちょっとしっかりした後半部分でメリハリがついていて,構成的にもすばらしいです。

非常にわかりやすくまとまっています


現在流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)についても解説されており,非常にためになる1冊です。
余論ですが,新妻先生といえば,YouTube で免疫学の講義シリーズ動画を配信されています。こちらも基本的な理解のためになり大変に面白く,非常にお勧めです。


さて,次はちょっと教科書の範疇にも入ってくるような免疫学の本にいっていみましょう。

・『休み時間の免疫学 第3版』(講談社)

この『休み時間の免疫学』は大変にお勧めです。おおむね1~2ページで免疫学のトピックスを読めるようになっており,解説も非常にわかりやすく,図も良いです。

カラーで非常にわかりやすく練られています

まず,本当に免疫学について何も知らない状況から読み始めるのであれば,先の『Dr. 新妻免疫塾』と並んでお勧めしたい1冊です。さっと,細菌に対する免疫から入り,ウイルスに対して…という形で獲得免疫までを説明,リンパ球などについて解説し,アレルギーや自己免疫疾患に触れていきます。そして分子生物学へのブリッジへの章があります。
 
最後の章は,医師,歯科医師,看護師,薬剤師の国家試験からの関連問題がまとまっており,これも非常によいです。
医学部・歯学部・薬学部の学生さん,また,看護学生さんや,生物学系の基礎の基礎の生物学講義などでも役に立ってくれると思います。

・『好きになる免疫学 第2版』(講談社)

この本も「休み時間の免疫学」と同じように非常に読みやすく,図もわかりやすく書かれている入門書です。この本にはワークブックという別冊もでており,看護学生さんや基礎学年の医学部生さんなどの学生用の勉強にもいいかもしれませんね。

説明が丁寧でわかりやすい

例えやアナロジーも面白く,漫画もかわいいですね。
免疫学の全体像をさっととらえるにはかなりよい1冊です。

・『免疫ペディア 101のイラストで免疫学・臨床免疫学に強くなる!』(羊土社)

少しレベルがあがり,専門用語などがバシっと出てくる本です。免疫学の様々なテーマごとに,非常にわかりやすくまとめられている1冊です。
基礎的な免疫学の部分も,治療等と関わる臨床免疫学の部分もしっかりと書かれていて秀逸です。免疫の研究者が分担執筆しており,テーマ・トピックごとに内容もかなり深いものもあり,新しい概念なども分かりやすく説明されています。
図も非常に理解しやすいイラストであり,秀逸です。引用文献もしっかりついているので,後から参照するのにも,辞書的に使うのもアリかなと思います。

二段カラムで読みやすい。図も綺麗,引用もしっかり

個人的には最初のほうの免疫学の歴史や成り立ちなどの項目も読み物として優れていると思い,嫉妬していることと,イラストが綺麗で羨ましいなと思ったりしています。


・『もっとよくわかる!免疫学』(羊土社)

単著で丁寧にかかれた免疫学についての解説本です。同じ河本先生監修の「マンガでわかる免疫学」もよい本ですが,この本も講義を受講しているように感じられ,通読していくのに良い構成になっており,非常に理解がしやすく工夫されています。
最後のT細胞製造工場のイラストがなんとも素敵であったりもします。

講義を受講するような感じで進むので読みやすい


5:本格的に免疫学に入る前にチェック!


ちょっと一息いれて,視野を広く。
ここまで,つらつらと免疫学の読み物から入門教科書を紹介してきました。では,本格的な免疫学の教科書を!…とはまだ行かず,ちょっと立ち止まりましょう。

ここで,ちょっと免疫学を離れて,免疫学を本格的に理解するために必要な関連分野について触れておこうと思います。


大事なのはやはり生物学・分子生物学

免疫学は生物学の一部です。もちろん生命科学という分野ともいえますよね。

そういう意味においても,基本的な生物学のバックグラウンドの知識はやはり免疫学について学ぶ際にはあった方がよいのは間違いありません。
免疫学だけ,で学ぶことはとても困難です。

そこで,まずは簡単に生物学の基本を学べる本を紹介したいと思います。


・『カラー図解 アメリカ版 新 大学生物学の教科書シリーズ』(講談社)

講談社ブルーバックスから出ているシリーズですが,このシリーズはしっかりとした生物学の教科書になっています。分子細胞生物学や生化学から始まり,どのように生物が成り立っているか,ということがとてもわかりやすく書かれています。

生物学の概要がわかっていることは免疫学の理解には欠かせませんので,生物学についてのバックグラウンドを身につけるには良いシリーズであると思います。
まったく生物学のバックグラウンドのない方は,読んでみることをお勧めします。

さらに本格的に生物学をしっかり基礎からやって,免疫学というある意味「個別の」「応用的な」分野について,と進むことを考えるならば,腰を据えて,まずは細胞に関わる生物学の基礎をしっかり勉強するのもこの際お勧めです(ちょっと本題の免疫学に入るまでに大きな回り道というか,時間がかかるプロセスにはなってしまいますが…)。

その場合には,次の1冊,またはその抜粋版の『Essential細胞生物学』(南江堂)を読むことをお薦めします。


・『細胞の分子生物学 第6版』(ニュートンプレス)

言わずと知れた,原著は 『Molecular Biology of the Cell』 (W.W. Norton)ですが,分子生物学から細胞をみていくには一番の本といってよいでしょう。細胞だけでなく,生物学へとつながっていく本にももちろんなっていて,免疫学についても基本的な部分を結構しっかりと扱っています。
この1冊をしっかりと学習しておけば,免疫学の各論に入っていった際に出てくる様々な分子機構の基本や考え方にも恐れることなく向かい合えると思いますし,理解も深くなると思います。


生化学も少し知っておくのがお勧め!

生化学(biochemistry)は生物学と化学の架け橋となる部分です。免疫学においては,様々な化学反応が実際に細胞内外で用いられていたりして機構に組み入れられています。生化学についての基本部分はおさえておくことが理解の助けになると思われます。

『細胞の分子生物学』などまで取り組むのは……ちょっと(?)ハードルが高すぎるという方には,こういった生化学の教科書を一度読んでおくことをお勧めしたいと思います。

・『集中講義 生化学』(メジカルビュー社)

生化学について非常に端的にまとまっている1冊。さっと全体像を俯瞰するのにはよい1冊です。


6:免疫学の「教科書」

さて,ではいよいよ,本格的な免疫学の教科書を見ていきたいと思います。

・『基礎免疫学 原著第6版』(エルゼビア)

後に紹介する『分子細胞免疫学』の抜粋本といえるのがこの本で,基本的な部分の免疫学について分子機構などもしっかり説明しながら書かれています。本格的な教科書の読み始めによいと思われますし,医学部の学部レベルの学習であれば,この1冊でも十分であると考えられます。

基本的なコンセプトから,免疫細胞の役割,それぞれの細胞におけるシグナル伝達の概要など,基本的に全体を俯瞰しながら,ある程度の深さまで学ぶことができるように書かれています。用語集は非常に役に立ち,端的な解説として役に立ちますので,免疫学を学びながら辞書的に使うのもお勧めです。

医学部生などの教科書として,1冊持ちでも十分お勧めできるレベルと思います。

カラー,二段組み,翻訳本ですが読みやすい


・『免疫生物学 原著第9版』(南江堂)

免疫学のスタンダードな教科書といってよい 『Janeway's immunobiology』 (GARLAND SCIENCE)の翻訳本です。この本は正確かつ丁寧に免疫学について,丁寧に紐解いていく教科書です。
免疫とは何かということからはじまり,獲得免疫,自然免疫に関わる成分やそれぞれの機構について説明していきます。図も非常にわかりやすくかかれています。全部を読み通すのは少々量が多いかもしれませんが,免疫学の王道ともいえる教科書であり,免疫学の学習には最適な1冊といえると思います。

実際私が薬学部学生をしていたときに初めて手に取った免疫学の教科書はこの古い版のものでした。順序よくまとめられていて非常に学習しやすかったことを覚えていますし,今の新しい版を読んでみても整然とまとまっていて非常によい教科書であると思います。

・『分子細胞免疫学』(エルゼビア)

分子機序を含めしっかりと免疫学を理解して,次の一歩である論文読みにつなげていくのに最適であろうと思われる1冊がこの『分子細胞免疫学』です。
かなり新しい知見を含む,詳細な事項についてまで書かれており,どういった機構がどのような細胞にあり,どのように免疫システムが動いているのかを細かく説明しています。
この1冊を読み通せば,相当免疫学には詳しくなれると思いますし,細かい機構までの全体像が見えてくるでしょう。一方,始めからこの1冊に取り組むことはお勧めしません。というのは,全体像をつかむにはとにかく微に入り細に入りうがっているからです。簡単の教科書や読み物との合わせ技をお勧めしたいところです。

ようは「原稿を書く書く」と言って,参考図書を読みふけってしまい原稿が1週間も遅れたという話(私事)。


7:免疫学の教科書 洋書編

免疫学の教科書,気合を入れて洋書で取り組んでみようというのも,日本語の教科書での勉強後に,よいステップであると考えます(跳躍して突然英語から…もたくさん時間のある学生さんなどであれば,お勧めはしませんが,挑戦してもよいとは思います)。
論文を読み進めるには,英語に慣れておくこともよいのは間違いないですし,より早く新しい情報の盛り込まれた版がでるのも,洋書の良いところですね。
『Janeway's immunobiology』『基礎免疫学 原著第6版』,『分子細胞免疫学』がとても良い本ですので,原版で取り組むのもとてもよいと思います。
ここでは別の本を紹介します。

・『Kuby Immunology』(WH Freeman)

基礎から臨床免疫学までをしっかりと記載している『Kuby immunology』はお勧めできる1冊です。944頁もある本ですが,内容は本当に充実しています。基礎的な免疫の仕組みから,細かな免疫細胞内でのシグナリングカスケードの解説,どれもしっかりした引用,綺麗な図版,お薦めできる1冊です。


本のまとめ

免疫関連の本を紹介してきました。難易度的には以下の図のようになるかなと思います。

免疫学のおすすめの本,読書ステップ


お勧めの勉強法は次回に述べますが,まずは入門的なものや全体を俯瞰・鳥瞰(オーバービュー)できるようになることをめざして,読み通せる本から読むのがよいと考えます。

そして,繰り返しの部分は出てきますが,少しずつ難度の高い本に挑戦して全体をしっかり把握しつつ,詳細も理解していけるようにしていくのが良い戦略でしょう。

(連載第2回に続く)


峰 宗太郎




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