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『みねそう先生の免疫学はじめの一歩』note連載 第2回:Extra!序章の前に・・・免疫学の「勉強」への誘いと,ブックガイド(続き)

1:免疫学の勉強の仕方・ポイント

さて,前回は免疫学に関わる書籍を何冊か紹介してきました(実際にはまだまだたくさんありますが,私が読み通してみてお薦めできるものに絞りました)。


ここからは免疫学をどういう感じで勉強していくか,お話をしたいと思います。

・まずは目的と目標を明確に

大切なことは目標や目的です!

・大学の講義の単位を取りたい。
・試験を通過したい。
・国家試験対策や専門医試験。
・実地にでて基礎を学び直したくなった。
・自分の研究領域に関係しているのでしっかり学びたい。
・免疫学の基礎的な研究を行いたい。
・趣味として免疫学を楽しみたい。

など勉強にはさまざまな目的がありますよね。

目的に応じて,どういったポイントをおさえておくか,これも非常に重要なことになるのは間違いありませんね。一度そこを明確にして,一緒に連載を楽しんでいただければと考えています。
もちろん読むのが楽しいからという理由も大歓迎です!!

・勉強の原則

一般的に私はこんなことを勉強する際には考えています。

勉強をするときは・・・

①まず,概念を俯瞰しておさえる

②原理原則を学ぶ

③実例で原理原則を確認する

④例外やピットフォールを学ぶ

⑤例外の理由や原則の限界を振り返る

⑥概念を再俯瞰する

⑦関連分野との繋がりを見る

このような順序で進めていくのがよいと思っています(免疫学に限らず,どんな分野でもある程度通用するのかなと考えています)。
というわけで,今回の連載もそう言う「感じ」に従っていきたいと思っていますし,ぜひ第1回で紹介した教科書などを用いて勉強される場合にも意識的に行ってみていただければと思います。

この連載では,まずは全体を把握ということで免疫学とは何だろうか,免疫学の歴史,といったことを触れてみたいと思いますが,その後も各論の中で繰り返し,全体像や全体の中での位置というのを確認したいと思います(多少くどくなる可能性はありますが,繰り返しは非常に重要と考えます)。
全体像の把握と同時に重要なのは,詳細を確認しながら再度全体をながめていくことです。詳細をばらばらに各論的知識として覚えたり,細切れに理解するというのは,はじめはよいのですが,統合していくことはとても重要な学習過程でもありますので,「詳細をみながら,さらに全体をみる」これも繰り返したいと思います。

もちろん,詳細を読む,ここも大事にしたいと思います。免疫学ではさまざまな「登場人物」「キャラクター」が各々「機能」を担っています。それらを丁寧に見ていくことも大事であると考えています。


・用語や概念は正確に

なんとなくではなく,用語はしっかりと正しく覚え,概念もしっかりつかみましょう。
特に専門用語については,何を指している言葉であるかきっちりと把握することが学習のはじめの一歩になります。意識的に専門用語を記憶し,内容を確認していきましょう。
これは常に繰り返して行くことが大事ですし,免疫学に限らず,どんな分野でも重要になってくることですね。


・免疫学特有…というかポイントとなるところも意識して

また,免疫学の勉強では,次のようなポイントを上記の流れの中でも常に意識していただきたいと思います。 

①システムとしてみる

②登場人物(構成要素)を知る

③登場人物の動き方をみる

④システムとして再び働きを考える,具体例から考える

⑤例外や応用を考えてみる

免疫は非常に複雑なシステムです。システムを理解するには全体像と細部とを交互に理解しながら把握していくことが必要なのです(繰り返しですね)。連載では結構大変な流れにはなるかと思いますが,順番に見ていきたいと思っています。
というわけで,ごくごく簡単に述べましたが,勉強法も一緒に習得しつつ,ご一緒できればと思います。

2:そして論文を読む

連載を読んでいただく,一緒に進んで行くにあたっては,上記までの内容で十分かなぁと思います。ここから先はさらなる応用編です。

全体像を読み物でつかんで免疫学になじんでいただく,教科書を読んで細かいところまで見ながら全体像を整理し直す,洋書も読みながら用語なども含めさらに詳細を詰めていく,このようなことを繰り返した後は,いよいよ論文を読んで,最先端・今まさに議論となっているところなどを学んでいくことになりますね。
学ぶにあたり,ここからはさらに様々な技能が必要になります。一言で言うと,学ぶリテラシーがより強く求められてくるのです。ここからは実践的になるので,実際には研究室などで実際に研究をしながら進めていくのが良いのですが,簡単にこういった学術雑誌 (Journal) があるんだよ,という紹介をしていきたいと思います。


・お勧めの免疫学関連のジャーナル

『Immunity』
https://www.cell.com/immunity/home

『nature immunology』
https://www.nature.com/ni/

『Science immunology』
https://immunology.sciencemag.org/

『Journal of Experimental Medicine』
https://rupress.org/JEM

ここに挙げたのは,あくまでも免疫学の専門誌としての少数例です。
総合誌(『Nature, Science』『Cell』『PNAS』)などにも多くの免疫学の論文が発表されますし,『Nature Medicine』 などの医学総合誌にも,もちろん多いですね。
 
専門誌のよいところはその分野づくしであるところですよね。非常に精緻で専門的な内容が扱われていることが多いのも特徴ですね。

論文はさまざまな読み方があります。我流にならないように,研究室などで読み合わせをするなどもよいと思います。最新の情報を検討する方法として,論文には是非いずれトライしていただきたいと思っています。


3:学会に参加してみよう

勉強して論文を読んでみるようになってきたら,是非「プロ」が参加して議論するなどしている学会に参加してみることをお勧めしたいと思います。

免疫学において,日本には基礎領域では日本免疫学会という学会があり,学術集会を定期的に開催しています。関連する学会も複数あります。

・日本免疫学会HP:https://www.jsi-men-eki.org/

学会に参加するとその分野のことをずっと考えているような,その道のプロがたくさんいますので,どういうことをやっているのか,どういうことを考えているのか直に見て聞くことができます。討論する素地ができていれば,ディスカッションして,さらに知見を深めることもできますね。
 
医学部生など学生の方であれば,是非,各大学等の免疫学教室等に顔を出して,そして学会に連れて行ってもらってみてください。勉強のモチベーションを保つのにもよいですし,なにより将来,研究をしたいということであれば,そこが第一歩になることはよくあります。

4:研究して論文を書く…とまで行けばもはやプロ!

書籍で「勉強」し,論文を読んで,学会などで意見交換をする。そして自分で免疫学の研究をするようになれば,もはやプロの領域です。しかし,プロといっても全てを完全に把握して,詳細をどの部分でもわかっているということは当然ないわけです。

免疫学のように研究者が多く,研究領域も多岐にわたり,進展も早い分野となってくると,新しい情報をキャッチアップしていくだけでも精一杯になります。

そういうなかでも常に先に述べたように,全体の俯瞰と詳細の把握,これを繰り返し,バランス良く学び続ける姿勢を持ち続けることが重要であると考えています。
昨今,非常に優れた総説雑誌(review journal)も多く発行されています。こういった雑誌は結構購読料が高いのですが,組織に属していたり大学にいるならば,図書館などで契約をしていないか確認してみることをお勧めします。


・お勧めのreview journal

『nature reviews immunology』
https://www.nature.com/nri/

『Annual Review of Immunology』
https://www.annualreviews.org/journal/immunol

『Immunological reviews』
https://onlinelibrary.wiley.com/journal/1600065x

『Trends in Immunology』
https://www.cell.com/trends/immunology/home

これらは免疫学に特化したレビュー雑誌であり,最新情報を得るのにも非常に役に立ちます。ちなみに,初めて読む「論文」はわかりやすいレビュー記事が良い場合もあるかと思います。多くの「原著論文」の引用もあり,勉強になることが多いですね。

もちろん,他の雑誌,特に総合誌などに素晴らしいレビューが出ることはよくあります。免疫学で気になったキーワードで定期的に検索することは非常によいことであると思っていますし,色々な人とのディスカッションで新しい情報が出ていないか確認されるのはとてもよい情報収集法であると思います。

5:そして小さいながらも非常に重要なポイント

免疫学は非常に複雑な免疫というシステムを扱うものですが,実は学問分野自体も複雑になっている面があります。

その中で気にかけていただきたいことがあります。それはどんなことかというと,ヒト以外の動物の免疫学と、ヒトの免疫学がごっちゃになっているところがあるということです。

多くの免疫学の研究・仕事は,マウス等の実験動物を用いた仕事でなされてきました。優れたモデルが多いこともあり,いまでもマウスを使った免疫学の仕事が非常に多いのも特徴的ですね。

ここに一見当たり前ながら,実は非常に複雑な問題が生じます。

それは,マウスはマウスであって,ヒトとは全く違うことがあるということです。これは結構大きな盲点になり得ます。

ヒトの免疫学は,ヒトの研究でないと正確にはわからないわけですが,多くが動物実験でつくられてきた免疫学によっているのです。かなり慎重に検討をしていかないと,ヒトについて何処まで今語ることができるのかは難しいことがあるのですね。

なので,これから勉強をしていく方も,論文をドンドン読んでいる方も,実際に研究をされている方も,是非,どの動物種でどういう実験で証明された事項なのかを意識して取り組んでいただけるとよいと思います。本当にちょっとしたところで,マウスとヒトの知見がごっちゃになっていて何をみているのかわからなくなることがあったりするのですね。


6:脱線ですが…怪しい方向に取り込まれないこと

さて,そろそろ勉強法やブックガイドをお話するのを終わりにします。

この連載を読んで下さっている方の多くは,医学分野としての免疫学をしっかりと学んでいきたいという方がほとんどと思います。
免疫とはどういうもので,どういう仕組みがあるのだろうということから始まり,免疫にかかわる病気や,免疫の仕組みを使った臨床応用などにも興味がある方がきっと多いのではないかと考えます。

一方で,ご自身の健康を考えるために,免疫について知りたいという方もおられるかもしれません。そういう場合には,是非とも注意していただきたいことがあります。それは,怪しい「免疫」界隈の言説にだまされないようにする,ということです。

「免疫力」。こんな言葉がありますよね。これは結構「どぎつい」言葉で,免疫学の研究をしているはずの私にもその言葉の定義がわかりません。しかし,メディアでも非常によく使われている言葉でもあります。これはちょっといただけないですね。

※参考:「免疫力」という言葉が不適切な理由…「トンデモ」健康情報に踊らされないために
https://news.yahoo.co.jp/byline/minesotaro/20200707-00186949/


同様に,「●●すれば免疫力アップ!」「●●食で免疫を整える!」などなどよくわからない,一見免疫が関係していそうな書籍やテレビ番組なども見かけます。しかし,こういった怪しい健康系情報は「免疫学」とはほぼ関係ないことが多いです。というかほとんどないです。

こういう言葉を使うようなものについては,「免疫学」の概念などを借りてきたり,それらしいことを言っていることも多いのですが,実際には「免疫学」ではない場合がほとんどです。ここまで見てきたように多くの真っ当な本が出ており,しっかりした本を数冊読んでも全体像がようやく見えるかどうか,という大きな学問体系をなしているのが「免疫学」でもあります。「超」簡単になんとなく,わかるようなものではないんですね。

是非,医学・医療系分野として免疫学を是非しっかりと学んでみて,怪しい健康系の情報などに絡めとられないようになさっていただければとも思っています(これもわかりやすい医学・医療解説を書く目的の一つなのです)。


★免疫学の「勉強」への誘いとブックガイドのまとめ

というわけで,予定を大幅に変更して,第1回と第2回では免疫学の勉強にお勧めの書籍の紹介と,勉強法について簡単にまとめてみました。

①書籍選びは勉強の進み具合にしたがって,入門→中級→上級 へ

②無理せず,何度でも繰り返しながら,少しずつ学んでいくこと

③全体像と詳細とをいったり来たりしながら理解を深めていくこと

④関連分野の勉強もしっかり行い,他の分野とのつながりを意識すること

⑤基礎から応用までのつながりを意識していくこと

⑥何より楽しむこと,楽しいことであることを忘れないこと!

このようなことが大事であるということでした。そして,くどいですが,それぞれのペースで学びを楽しむことがとても重要なのは,ここでもう一度強調しておきたいと思います。

この連載では(読者の方は予想していると思いますが)時に脱線したり,分量が多くなったり(少なくなる可能性はあまりない…)しながら,予定表にだいたい沿ったかたちで,「免疫」を見ていきたいと考えています。その際には,多少くどくなる部分もあると思いますが,常に全体から見た立ち位置を再確認し,免疫全体を俯瞰することを忘れないようにしたいと考えています。

次回からはいよいよ予定通り,免疫学の基本的な部分の解説から始めていきたいと思います。


峰 宗太郎


(note連載第3回に続く)



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