熱いのと冷たいの
「おなか減ったぁ…」
「何か食べるもの買おうか」
前の住処から少し離れたところへ引っ越したばかりだ。ダンボールもまったく開けていない。
しとしと小雨が舞い降りる夜更け。
昼間の暑さとはかけ離れた空気のぬるさにうんざりしながら、いつもの灯りを目指す。
「今日くらい払ってよねー」
「なんだよそれじゃ俺がいつも払わせてる
みたいじゃねーか」
「いつもでしょう?
どんだけ私が出してると思ってるのぉ」
「…そうだな…」
勝手に開くドアをそそくさとくぐり、レジカゴを手にする。こんな時間に腹が減るのはきっと昼の仕事でコキ使われたからだ。それも誰かさんのために…
「今日はおなか減ったから親子丼かな」
「いいね、俺は牛丼にする」
「えーっ牛丼なら吉野家行きなよー」
「お前こそなか卯いけよ」
他愛もない会話にレジの人の堪えきれない笑みが溢れている。
丼2つとパックのリンゴジュースを2つ買った。
『温めは?』
「お願いします。あ、熱めにしてください!」
「お前なぁこんなとこで熱めなんかないんだぞ」
「いいの。あなたは仕事で体冷えてるんだから」
「…ったくもぅ」
『熱いのと冷たいの、袋分けますか?』
「あ、一緒で!」
「(えーっわけてもらえよ…)」
「(いいの!大丈夫だから)」
「(何が大丈夫だよ…)」
熱いの上に冷たいのが乗ることが嫌だったが、どうにもあいつには頭があがらない。なぜだろう。
家に着いて袋を開けるとしばらく中身を覗き込んでしまった。
熱々の丼の上に乗っていたリンゴジュースのパック。
ストローがついてる方が下にして置いてあったのだ。
(あいつはこうしてもらえることを知ってたのか…)
「ね、大丈夫だったでしょ?」
「…だな。こうしてくれるの知ってたんだ」
「へへっ、レジの人と仲良くなったからね」
「なるほどな」
「ほらぁせっかく熱々にしてくれたんだから食べよ!」
「そうしよ、食べよう」
ったく、幸せなやつだ。
ここまで来てなぜ頭があがらないのかわかった気がする。いつも俺のこと気にかけてることが言葉や態度に溢れてるんだな。。
幸せなやつは俺の方か。。。
外は雨がまだ降り続いている。
さぁ今日もがんばったはず。
温かい丼でも食べて寝るか。さて、箸を。。。
箸…入ってねーじゃねーか( ̄▽ ̄)
このあと、2人で文句を交わしながら段ボール開けまくったのは言うまでもない。
※まったくの創作です。すみません、どーしてもオチを、ギャグ線入れてしまいました😅
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