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服を返しに行くね

もう会うことの無いはずだった彼女から「服を返しに行くね」とだけの連絡があった。

”ピンポーン ピンポーン”

インターホンが鳴った。1回で気づくのに彼女は絶対に2回押す。
ドアを開けると彼女は僕が貸していたM65を着て立っていた。
「バーーン‼️」
「一服だけしようよ」
訳が分からない、ドアを開けたら銃で撃たれて一服に誘われた。
「軍人を舐めんな笑」
もうすぐに帰って欲しかった。思い出すだけ無駄なのは分かっていたから彼女との事。
「忙しいんだ今、それ置いて帰ってくれないか」
「分かったこれは、先に返すから一服だけ付き合ってよ」
全くもって言葉のラリーになっていない。
彼女は簡単には折れてくれない。
「分かったよ一服だけしよう。」
「1本頂戴よ」
がめついにも程がある。しかし、折れてしまった僕の負けだ。

換気扇の下   溢れかえってはいない灰皿
以前よりは綺麗になったはずだ

煙草を咥えてからは彼女は静かだった
なるべく彼女のことを思い出したくなかったから僕は彼女の方を見ることは無かった。
銀色の灰皿に煙草を強く押付け「また会えたらね」と彼女はからかうように言って、ドアに手をかけた。
「もう会うことは無いよ」と言った時、僕は軍人よりも強がっていた。

”バタン”


彼女に貸していたM65からは微かに煙草の匂いがした。着てみると分かったのだが左袖からは特に煙草の匂いがした。
そうだった彼女は左手で煙草を吸う人だった。寒さからなのか赤く染められた頬、綺麗な鼻先。かじかんだ小さな手でフィルターギリギリまで吸う彼女を思い出してしまった。
余計なことを思い出してしまった。

M65を洗った。洗濯機に入れた時またもや僕は軍人よりも強がっていた。

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