その翌日 ~南十字星~
そして翌朝。
窓も何もない二階の部屋で目が覚めると目の前は海だった。
少し遠くの崖のたもとでは女性たちが水を汲んでいた。
ちなみに井戸水があるがほぼ海水なので料理には使わず専らシャワーや掃除に使っているようだ。
時々、中高生くらいの年齢と思しき女の子たちがスカートのまま海に入る。
そしてしゃがむ……。それぞれ時間はバラバラだ。
「みんな何をしてるんだろ?」と尋ねると「トイレだ」という。
あ、しゃがんで用を足してそのまま海に流すのか……
「家にはトイレはないの?」
「ないからバケツ。でも夜だけ」
「ん?バケツ?」
「バケツに💩して穴を掘って砂に埋めるけど海ならそのまま洗える」
「あーなるほどねえ」
「ふふっ みんなが あなたのこと見てるよ」
「うん……あのさ 女の子たちが海に入るのが恥ずかしそうだよね」
「ダイジョボ モンダイナイ」
「公衆トイレ作ったらいくらくらいかかるの?」
「トイレ?あはは! あなた面白いな。聞いてみる」
笑いながら(当時の日本円換算で)「5,000円くらい」と戻ってきた。
「ブロックに板と便座……あと海に流すパイプ。お尻を洗う井戸も掘る」
「なるほど……」
そして釣りに出かけた。
小さなボートにはヤマハの駆動エンジンが付いている。
他の人達は手漕ぎボートで申し訳なかった。
釣りと言っても鉄筋の棒にテグス糸と針をつけ、手で落とす。
およそ150~200mはあると同乗した学校の先生が話していた。
まず疑似餌で小さな鮪を釣り、手際よく解体して餌にする。
余った鮪は小粒の柑橘類を絞り魚醤油をつけておやつにしていた。
食いつきがとても良い海溝だ。
しかし100m以上も垂らしたテグス糸を手で引き寄せるには相当な手間だ。
「疲れるね~。貨車をつけて巻き上げたらどう?」と言った。
「ダイジョウブ ダイジョウブ」
そうこうしているうちに自分の糸に大きな当たりがきた。
三人がかりで引き上げると70cmくらいのマンボウだった。
これには周りのひとも驚き「今日はもう釣らなくていい」と浜辺へ戻った。
誰もマンボウを食べたことがないという。
もちろん自分も初めてだ。
「この魚は日本で食べるのか?」
「知らない……でも野菜を入れて塩茹でにしたらどうだろう?」
「女性たちに聞いてみる」
夕方になると大きなマンボウ鍋が出来た。
きれいな海水を使いそのまま茹でたようだ。
太くて大きな骨があったが味わいは鱈ちり鍋のようで美味。
みんなも美味しいと食べていた。
そして二日目も酒宴になった。
マンボウを食べたので〝殿さまキングス〟の「恋は紅いバラ」を歌ったら誰もが「まんぼっ! うっ!」と大騒ぎになった。
その夜、村長は昨夜は呑みすぎたと早めに引き上げたことは覚えている。
村長には「公衆トイレを作りましょう」と言っておいた。
海には小さな灯り波に揺れていた。
「あの灯りはイカ釣りをしている」と聞いた。
その夜、南十字星を初めて見ることが出来た。
to be cupnoodle…