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【創作大賞2024】夜の怪獣 2話

2話「夜の蝙蝠〜Murciélago〜」

ムルシエラゴがビルの周囲を旋回しながら観察していると、上のほうで特殊閃光弾の光が炸裂した。それと同時に外壁に張りついていた怪獣の巨体が下へと落下してゆく。

屋上にいる棘が指示を実行したのだ。ムルシエラゴは素早く滑空し、落ちてゆく怪獣を追った。怪獣が地面に着く直前に両足の鉤爪を開いてその胴体を掴み上げ、間髪入れずに外壁に叩きつける。

『……同じ怪獣であるアナタには申し訳ないですが、この場で消えてください』

ムルシエラゴが再度攻撃をしようと足の鉤爪を怪獣の体に突き立てる。蛇に似たそれは抵抗してか巨体をくねらせ、ムルシエラゴの体に絡みつき、締め上げようとしてくる。

(しまった、このままでは身動きが)

ムルシエラゴは腕を変形させた両翼を胸の前で斜めに交差させ、怪獣の体をふり払うようにして切りつけた。巨体にいくつか傷ができ、真っ黒な血液が噴き出す。

ムルシエラゴはその血がかからないように退避し、傷をつけた部分を狙ってもう一度翼を振る。怪獣の胴体が複数に切断され、黒い灰が舞うようにボロボロと崩れていった。



下のほうで何かがぶつかったような大きな音がした後、ビル全体が再びぐらぐらと揺れる。ムルシエラゴの指示どおり屋上で待機していた棘は様子が気になってしまい、柵から身を乗り出し下を覗きこんだ。

「うわっ‼︎」

下から鋭い刃のような風が吹きつけた。棘は両腕で顔を庇かばうが、そのまま柵から手を離してしまい床に尻もちをつく。

《イバラ、あぶないからここにいたほうがいいんじゃない?もしかして……たたかってるアイツのこと、きになるの?》
「……うん、やっぱり俺だけ何にもしないのは落ち着かなくてさ」

梟は棘を気づかうふうに言うが、その言葉の端々にとげが見え隠れしている。

《ふーん……じゃあさ、した、いってみる?みてるだけならできるよ》
「え、本当?」

驚く棘に梟は自慢げに《まかせて》と返すと、ブレスレットの形態から黒くて小さなフクロウに似た形に変化し、棘の頭の上に乗る。

《いくよー。しっかりつかまっててね》
「えっ、ちょ、ちょっと待ってまだ心の準備が……っ⁉︎」

棘が抗議する間もなく、梟は屋上からふわりと舞い上がった。小さな体にもかかわらず飛行は安定している。棘はただしがみついているしかなかった。



『……お待たせしました棘くん、終わりました』
「なかなか戻ってこないから俺、し……心配したんですよ!」

後始末を終えたムルシエラゴが屋上の棘の元に戻って来ると、棘が駆け寄ってきて黒い血のついた足に抱きつかれる。

『そんなに強く抱きつくと痛いですよ棘くん、ちょっと離れてくれませんか。普通の姿に戻りたいので』
「あっ……すみません」

棘が離れるとムルシエラゴは怪獣形態から人間態に戻る。戻った瞬間、全身に激しい痛みを感じ床に膝をついてしまう。

「だ、大丈夫ですか⁈」
『……戦ってる最中にあちこちひどく噛まれたり切られたりしましたからねえ……棘くんそれ、君の手首に付けてるブレスレット……ちょっと貸してくれますか』

ムルシエラゴがぜえぜえと荒い息をしながら、棘に両手を差し出してくる。棘はあわてて自分の手首の黒いブレスレットを外し、その両手に乗せる。

『ありがとうございます……梟さん、協力してくれませんか。体の傷を治すための血が……足りないんです』
〈やだね。ボクはイバラのいうことしかきかないよ。そんなきず、じぶんでなんとかすればいいじゃない。カイジュウなんだしさあ〉

不機嫌さを隠そうともしない声で梟が言う。ムルシエラゴが痛みで顔をわずかに歪める。制服の傷口から黒い血が流れ、床へ滴る。

「ふっ梟なんてこと言うんだ、早く蝙蝠さんの言うとおりにしろ!」
〈えー。だってイバラ、ボクこいつのことキライだもん。こんなヤツにちをわけるなんてやだよう〉

棘が怒鳴ると梟が小さい子のように駄々をこねる。そのやり取りの間にムルシエラゴが体をくの字に折り曲げて床に倒れこみ、苦しげに口から多量の血を吐き出す。棘は悲鳴をあげ、彼から数歩後ずさった。

「はっ……早く、俺が許可するから‼︎」
〈しょーがないなあ、わかった。こんかいだけだからね?〉

梟がそう言うと、ムルシエラゴの両手の中でブレスレットが突然ぱしゃり、と音をたてて真っ黒な液体に変化した。薄目を開けていたムルシエラゴが液体が手からこぼれ落ちる前に口元まで持ってゆき、それを余さず飲み干す。

『棘くん……ありがとうございました』
「い、いえ。俺に出来るのはこのくらいしかないですから」

ふう……と大きく息をついてムルシエラゴがよろよろと上体を起こして立ち上がる。制服の破れた部分からのぞいていた傷口が全て塞がり、痕はほとんど残っていなかった。

『梟さんは後からお返しします。ではそろそろ……本部へ帰りましょうか。空が白んできましたし』

ムルシエラゴがそう言って空を見上げる。雲ひとつない空の濃い水色が少しずつ明るくなり、長い夜が明けてゆく。

「ええ。太陽が昇る前に行きましょう。もう一度飛べそう……ですか」
『傷を治したばかりなのであまり無理はしたくありませんが……本部までならなんとか』

棘にムルシエラゴはそう返し、再び怪獣形態になり翼を広げる。棘へ足につかまるように促すと、夜明け前の町へと屋上から飛び立った。

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