胸を焦がした熱い春

朝起きると、いつも以上に眩しい太陽に照らされて、番いの鳥が仲睦まじく歌っていた。平凡だった毎日が、恋をするだけで華々しく見える。あの時だけは、ディズニー映画のヒロインが陽気な音楽と共にミュージカルのように街を練り歩き、幸せそうに日々を過ごす気持ちが少しわかった気がした。

僕はその時初めての恋に落ちていた。同じクラスの女の子で、中学校入学直後に一目惚れをした。同じ小学校だったけどずっと違うクラスだったから、名前くらいは知ってた、けど面と向かって話したことはない。席替えで近くなって初めて見た時「可愛いな」と思って、初めて話した時「すごく優しいな」と思ってその日以来好きになった。

それと同時に意識しすぎて、まともに会話ができなくなってしまった。会話ができないというより、会話をせず、目を盗んでチラチラ横目で見る日々が始まった。勉強に集中しようと思っても、頭の中で乱暴にその子のことを考えようとする力が暴れてしまう。無意識でボーッとしている時でも、その子が目に入ると一気に目が覚める。我に返って、なぜかすごい焦る。ただ、一番焦るのはお昼休み中に横目で盗み見していた時に、たまたま目が合ってしまう瞬間だ。そして、二番目に焦る瞬間は盗み見している時に、あっちが僕の方を見るような気がしてすぐに視線を戻すとき。「気付かれてないかな」と不安になり、「もう見ないようにしよう」と思うものの、結局一分後にはまた見てしまうのだ。ちなみに、そんなことをしている自分は客観的に見たら相当気持ち悪いと思うが、文章にしてみるとより気持ち悪いと今感じている。

席替えの時間になると「一番前の席にだけはなりたくない」とか言いながら、両手を合わせて祈ってたけど、本当は「隣じゃなくてもいいから、あの子と近くの席になりたい」とか心の中で祈ってた。その後一度も、席が近くになったことがないから結局それは無駄だったけど。

ある日勇気を振り絞って、授業が終わった後話しかけてみた。全く席は近くなかったが、僕は音楽が好きだから僕が好きな音楽をオススメしようと思った。あまり仲良くはない男子から、いきなり話しかけられて知らない音楽を勧められることは、彼女からしたらカオスだと思うが、僕としては話せるきっかけはなんでもよかった。そのとき、僕がオススメしたのが、culture clubのkarma chameleonだった。我ながら中一で、渋い選曲をしていると思う。その後、その子はその音楽を聞いてくれたのかはわからないが、それをきっかけに僕はちょくちょく話しかけることができるようになった。

下校中は親友とずっとその子の話をしていた。親友はその子の親友のことが好きだったから、恋話が尽きなかった。お互い「やべぇぇ!」とか言いながら、気持ちの悪い妄想トークをしていた。多分近くを歩いていた上級生は引いた目でこっちを見ていたと思うし、僕は学校では少しモテていた方だけど、そんなことを話していることがバレててたらほとんどの女子から「気持ち悪い」と言われていただろう。ただ、何か卑猥な会話をしていたのではなく、当時は構内では割とカッコつけいた僕だからこそ、特急列車のように止まらない妄想話をする僕の姿は「気持ち悪い」と思われるのだと思う。

その後、なんだかんだあって結局その子とは付き合えかった。ただ、自分からこんなにも人を好きになったことは、今でも初恋の当時以降ないと思っている。まさしく「恋に落ちた」状態。

「人が心から恋をするのはただ一度だけである。それが初恋だ。それから後の数々の恋は、初恋ほど無意識なものでない。」

フランスの作家の言葉。僕はこの言葉に強く共感している。それ以降の恋は、自分で自分を洗脳しているかのような側面が大きい感覚がある。もうこれどの胸が燃えるような感覚はしないと思う程、胸が熱くなって焦げた気がする。今回とても初恋というベタなテーマだが、当時の「胸を焦がすほどの熱い恋」を、折角の機会に書きたいと思った。


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