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第十八回 遊泳場

「劉唐よ。お前も同じでは無いのか?」学究の問いかけに赤髪鬼は、ガクリと肩を落とし「用兄ぃ。俺の負けだ。」と俯きながら呟いた。「あーあ、負けちゃった。うーんと、って事は明日から部活かぁー。パパにバイトのシフト変えてもらわないとだなぁ。」何処までも呑気な唐音。
茶番劇も終劇となり劉唐音と憑依霊の赤髪鬼が、梁山華道部に復帰する事となった。しかし呉羽の精神的ダメージは大きく、まる二日眠り続けた為、部活動は休みとなった。
徽宗高等学校の敷地外、徒歩で15分ほどの場所に呉羽達が下宿する寮、顧大荘がある。
ここは寮の二階、主に二年生の住む部屋の一角、呉羽の部屋は二人部屋だがルームメイトが、早々に退学してしまった事から二人部屋を一人で占領している。その為、空きベッドは学究の書斎として使われている。無造作に本が平積みされ、お世辞でも綺麗とは言えない。学究が呉羽の前に降臨してから、まだ数日しか経過していないが、図書室から持ち出した書籍が山を築いているのだ。
今日も学究は空きベッドの上を座る姿勢で浮遊し、念動力で本のページをめくっている。
「…本、増えてない?」目を覚ました呉羽がベッドに横になりながら呟いた。
「起きたか?気分はどうだ?」本に目線を向けたまま学究が呉羽の様子を伺う。
「…最悪だよ。どっかの誰かさんが、アタシの中身全部持って行っちゃって空っぽ…。」独特な言い回しで呉羽が苦言を吐く。
「本当の華撃の疲労は、そんなものではない。」
「分かってる。だからアタシには素養が無かったのだもの。」
「食事は摂れそうか?」
「うん。お腹空いた。お嫂さん、ご飯作ってくれてる?」
お嫂さんとは、この寮の寮母の事である。
「先ほど突然、現れて目が覚めたら食堂に来いと大声で言っておったよ。まったく、あの醜女、当たり前の様にワタ…我に向かって用件を申すものだから、コッチが驚かされるわ。」
「ふふ、わざわざ言い直してる…。なんで一人称、我にしてたの?」呉羽が布団で口元を隠しながらニヤリとする。
「理由などない。」「その方が亡霊っぽいから?」「背後霊だの亡霊だの言いたい放題だな!」呉羽がクスクスと笑い顔を布団で隠した。「もう心配はいらぬ様だな!?さっさと夕食を摂りに行くぞ!」「心配してくれてたんだ?」「もう、せんわ!」念動力で空きベッドの枕を呉羽の形になった布団の塊に向かって投げつける。「やったなー!」呉羽が布団から飛び起きて枕をひっ掴み、学究に投げ返すが当然、霊体をすり抜けてベッドの本の山にぶつかり雪崩が起こる。ガチャリと扉が勢いよく開き
「やかましい!元気になったのなら、さっさと食堂にこんかね!」喧騒を聞きつけた寮母が呉羽の部屋に怒鳴り込んできた。「は、はーい。」思わず学究も声を揃える。そそくさと部屋から出る憑代と憑依霊。すれ違い様に寮母は「良かったわね。」と呉羽ではなく、学究に声をかけた。ビクリとして寮母の顔を見る学究。視線がピタリと一致すると、にんまりと寮母が笑顔になった。階段を降りる呉羽の横に背中を丸めて近寄り「呉羽。もしや寮母は徽宗校の…。」と耳打ちすると「うん。卒業生だって。」と予想通りの回答。寮の名前、寮母の愛称から言わずもがな寮母のお嫂さんは高校二年生の時に毋大虫の憑代になり、その力を失った今もボンヤリではあるものの、憑依霊の気配を感じる事ができた。「やはり顧大嫂の憑代か…触らぬ神に祟りなしだ…。」学究が肝に銘じた。
夕食を済ませ、部屋に戻った呉羽と学究は、雪崩を起こした本の山を積み直し、学究は「明日、行きたい所がある。」と呉羽に声をかけた。「病み上がりだから、遠くはイヤよ。」「病んでいたわけではあるまい…遊泳場に行きたいのだ。」一瞬の沈黙。
「…え?」「ん?何だ?その顔は?」「まって?何処って?」「だから遊泳場に」再び沈黙
「…え?」「…だから、その顔をやめい。」「だって、がっきゅんがエッチな事言うから〜。ふーやれやれ。」呉羽が顔を赤くする。
「お、お前、また妙な勘ぐりをしているな!我は、邪な思いから遊泳場に行きたいと申しているのでは…。」現代用語を学ぶ為に読み漁った一冊にエッチという言葉があった事を思い出し、学究が慌てて否定すると「ハイ、ハイ分かってるって!勧誘でしょ…でもアタシは反対だな…。」「何故だ?」「阮小三姉妹でしょ?がっきゅんが勧誘したいのって…。」「お、察しが良いではないか!」「だから反対!アタシは彼女達には戻ってきて欲しくない。」
呉羽が阮小三姉妹を拒絶する理由は何なのか?

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