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「オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム」に参戦した夫の話

前置き。
この記事を目にしてるかもしれない夫へ。
お察しの通りこれはあなたの話で、これを書いているのは私です。
悪口は書いてないけど、読まれたくはないので、さっさとブラウザバックするかアプリ落としなさい。
長旅お疲れ様。


2024年2月18日。

夫が、「オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム」に参戦した。

「初デートで4時間、前触れなくオードリーANNを聴かせた男」こと、夫。

「妻がひっそりと髙橋海人に激ハマりしたことを察知し、ネットニュースでKing & Prince新体制始動後初の生配信情報を得て、何も言わず配信開始前に帰宅して家事育児全部やってくれた男」こと、夫。

参照↓


東京ドームの件が発表されてから、そのチケットの倍率について二人で幾度となく話をした。私と夫が加入している、いくつかのアイドルやアーティストのファンクラブ会員数と、CD売り上げ実績と、ライブの動員と。
それらを照らし合わせて私たちが出した結論は、「余裕で埋まる」だった。しかしそれは、「東京ドームが埋まるか、埋まらないか」という、5万人をボーダーラインとした話であった。

 チケット一次先行。事前のグッズ販売の時点でサーバーダウンしていたので、どうせ一次先行開始後すぐアクセスしても仕方ないだろうと、夫は翌日昼にゆうゆうと申込んでいた。

結果は落選。私たちの予想が当たっていたことが証明された。

幸運にも二次先行で、夫は当選した。

「幸運にも」と書いたが、私たちはこれがどの程度の幸運なのか全く分かっていなかった。「スタンド席だけど入れるだけいいよね」なんて話していたくらいだ。

三次先行、四次先行と進み、五次先行の当落が出た時点で、私の観測範囲内の多くのリトルトゥースがチケットを手にして「いなかった」。

ねぇこれめちゃくちゃプラチナチケットなんじゃない…?と事の重大さに気付き始め、また2023年の私たちのチケット運の良さにも驚愕した。
私は7月に、King & Prince新体制後初のイベントの、初回公演に当選していたので。もう何度も言いますが、新規なのにスマンな!!ガハハ!!!

最終的に応募者数は19万人にも上ったことがわかり、若林正恭氏がnoteで謝罪までした。誇りこそすれ、謝罪なんてする必要ない、と個人的には思うが、それは氏の自由であるから。

「特に信心はないけど、代々浄土真宗で葬儀をしているから一応仏教徒」な私は、神に感謝した。夫にチケットを当ててくれてありがとう、と。

冒頭書いた通り、彼は好きなものには淡々と愛情を注ぎ、そして、同じく何かを好きな者に対して自然に優しさを与えられる人間である。
いや、それに限らず、価値観を異にするあらゆる人に対しても、(それが自分に危害を加えるものでなければ)非常に寛容で、必要十分の優しさを与えられる人間である。

人間とのコミュニケーションがそんなに好きじゃない割に、全く気負わず大きな人間愛を持つ人間、それが夫である。

中学時代に夫と出会ってもう20年以上経つ。最初の10年間は、2人で定期的に飲んだりと、物理的には近しい間柄なのにもかかわらず、お互いずっと人見知りしていた。

それ故、中学高校時代の彼の嗜好についてほとんど知らなかったが、彼は深夜ラジオが大好きだった。
伊集院光、くりぃむしちゅー、バナナマン、矢口真理、(敬称略)等々。そして私たちが大学生だったころに放送された「オードリーのオールナイトニッポンR」。

それ以来15年に渡って彼はオードリーANNを聴き続け、彼の青年期はオードリーANNと並走していたと言ってもいいだろう。

東京ドーム公演は、彼の青春時代のひとつの到達点だ、と勝手に思っている。だからこそ絶対に、生で観てほしいと願っていた。
この世の何万人ものリトルトゥースがそう願われるべきなのは分かっているけれど、私は自分の最寄りにして最愛のリトルトゥースの幸せを願うので手一杯なので許してほしい。

多忙かつ体が強くはない夫は、2024年に入って既に3度、日本の片隅から東京に出張していて、その度に体調を崩していた。
明け方突然心臓が痛いと言い出した時は、冷や汗をかいた。(でも私はその後すぐ寝た)

ある状況において身体反応がどう出るかは、人によって違う。もっと忙しくてもびくともしない人もいれば、そうでない人もいる。

何とか、2月18日だけは万全の状態でいてほしいと願いつつ、普通に家事も分担し、格別な労り方をしていなかった。
今思うと、もっと夫の家事負担を軽くすればよかったのに…と反省している。さすがに、人生でトップクラスの重要なイベントを控えていたのだから。
前日にも、平日の晩ご飯用にといくつか作り置きをしてくれていた。


「だが、情熱はある」放送時から、留まることのない勢いで髙橋海人ファンになっていった私は、ひそかに、東京ドーム公演を髙橋氏も見に来るのでは?と思っていたし、夫にもその考えを話したことがある。

「なくはない。ていうか俺、なんなら源くん生で観られる可能性あるからね」

そうだった。
夫は、星野源氏のファンでもある。本人もいつからかは忘れてしまった程だけど、少なくとも2005年の「タイガー&ドラゴン」の時点ではファンだったらしい。
夫の人生で出会ったいくつもの大切なものが、東京ドームで交わろうとしている。時間って面白い。
いや、別にお二方とも来るって決まってないからね?


開催約一カ月前、私からのクリスマスプレゼント、という名目で買ったグッズが届いた。

Tシャツを着て、ベースボールシャツを羽織り、「若林正恭」とデカデカと書かれたラスタカラーのタオルを掲げ、夫は家族全員に自慢して回った。
あんなに嬉しそうな顔、20年以上の仲だけど初めて見たかもしれない。

「ドームに備えて復習しておきたい」と言って、「キッズ・リターン」のBlu-rayを買って観返したりもしていた。

あらゆることに対して動じない夫が、ここまであからさまにウキウキしている姿はかなり貴重な光景だ。グッズを身に纏った姿を写真には撮ったが、動画で残しておくべきだった。


事前に発券されたチケットを確認し、「席、この辺やわ」と、東京ドームの座席図の画像を見せてきた。

「これってさぁ…」

どう見ても、“天井席”と言われるエリアだった。

でも夫は何一つ悔しそうではない。
だってラジオだから。
ラジオは音声メディアだから。
演者の音声届けばいいから。

髪の毛も伸び切ってるから切って行きなよと5~6回言ったが、「はぁ…」と生返事して流され続けた。
私からすると、推しに会いに行くのにMAX伸び放題の髪の毛のままなのはありえない、と思う。

でも、ラジオだから。
ラジオパーソナリティとリスナーは顔合わせないから。
声聴ければ十分だから。

すべてが「ラジオだから」で片付いてしまう。ラジオというメディアの身軽さを痛感すると共に、その身軽なメディアを「東京ドーム」という激重なハコでやってしまう、この企画の異常さに改めて思いを馳せた。


2月18日。
夫は朝イチの飛行機で発ったので、起きたらもう居なかった。見送りぐらいすればよかった。

「たりないふたり」仕掛け人でおなじみ安島隆氏のXにて、現地の様子が載せられる。

東京が晴れている。その事実だけで若干泣きそうになる。
羽田にいる夫とLINE。

「空港リトルトゥースっぽい人達がチラホラいる」

嘘だろ。
空港は早すぎだろ。こういう時って
「水道橋近くなったらめっちゃリトルトゥースっぽい人達増えてきた〜」じゃないのか。
リトルトゥース、普段忍んでるから、ここぞとばかりに存在感発揮しているのか?

「髪の色がラスタカラーになってる人がいた」

その通りだった…。
やっぱり髪切って行くべきだったよ。ラジオだろうがみんな気合入ってるじゃん。
いや、みんなではないのか。
夫のようなサイレントリトルトゥースが大多数ではあるんだろう。


スーパーに行く車中、子どもたちの希望でCreepy Nutsの「bling-bang-bang-born」を聴く。
保育園でも流行りはじめてるらしい。

その次のリクエストはKing & Princeの「なにもの」。
空気の読める良い子達だ。
「なにもの」はもうフルで歌えるようになっていた。

こちらの空も、東京と同じくよく晴れている。
自然光の中で自分の肌を見たら、予想以上にシミが増えていた。生きた年数分身体も年季が入る。

平凡な夫の人生、平凡な私の人生。
非凡な人たちの人生。
まだなにものでもない、子どもたちの人生。
悪くない、と思って何となく涙を流す。


公演は17:30から。
生配信のみ、見逃し無し。追っかけ配信無し。
子どもいる家庭の日常を普通にやってたら絶対にまともに観られないので、
さっさと風呂と食事を済ますことを決意。

2023年5月23日、私をKing & Princeの配信に集中させるために颯爽と帰宅したヒーローは、東京にいる。
今度は私が、東京ドーム参戦に集中させるために家内安全を守るヒーローになる番である。

前々から、日曜はピザパァチーだぞ!と宣言していた通り、夕食用にピザを注文する。
ヒーローは怠惰なので、一生懸命ご飯こさえたりしない。
全員が気持ちよく2024年2月18日を過ごすために、全力で他人の力を借りる。
圧倒的塩分と油分の力で、子どもの繊細な味覚に衝撃を与え、ねじ伏せる。
怠惰は能力だ。

ピザを食べながら配信を観る。
開演前、客席全体が映るたびに「お父さんこのへんいるから!」と
画面の隅の隅、圧倒的天井席の辺りを指さして教えた。
実際もっといい席にいたんだろうか。分からないけれど。


ウェルカムムービー「おともだち」が流れる。
あぁもう夫絶対現地で泣いてるだろ、と思う。だって私が号泣してたから。
左側の眼鏡の青パーカー、夫に似すぎなんだよ。
まぁ、多分色んな人が「俺に似てる」「あいつに似てる」って思っていたんだろう。
時にままならない人生の傍に、オードリーANNがあったたくさんの人たち。

春日氏×フワちゃんのプロレスとか、若林氏のDJプレイとか、特別企画もあったけれど、聴きなれたジングルを挟みながら、普段通りのトークが展開されるのが嬉しかった。
オープニングの号泣からグラデーションで感情が落ち着いて、気が付いたらいつもの放送を聴く気分で、ヘラヘラ聴いていた。
途中、子どもたちを寝室に連れていき、おやすみなさいをする。
勝手に寝てくれる子たちで助かる。


夫の予言通り、星野源氏が降臨した。
星野氏の歌と、若林氏のラップを生で聴いてしまって、
正直もう夫は東京から帰ってこないんじゃないかと心配になった。
夫の青春時代のひとつの到達点、と書いたけれど、これじゃあ人生の到達点だ。
お願いだから、「俺もうここで死んでもいいわ」とか思わないでくれよ、と願っていた。
私だったら、思ってしまいそうだから、尚更そう願った。

配信前は、「漫才やるに決まってるだろ」って思ってたのに、
アナログフィッシュの「SHOWがはじまるよ」が流れたらやっぱり色めき立ってしまった。
東京ドームで、尻からバットを出す漫才をしている。
やっぱりいかれている。
最後のホームランボールは、夫がいるであろう方角に飛んでった。
夫帰ってくるのかよといよいよ心配になった。

オードリーも、こんなでかい到達点を作ってしまって、これからどう進んでいくんだろうという思いが脳裏を掠めた。
若林氏が、どう見ても「感無量」の顔をしている。
でも、「感無量」の顔のまま、これからも土曜深夜1時にラジオをやってますんで、と言ったその言葉に救われ、かろうじて日常に引き戻された。

こんなでかい所まで来たって、番組は続く。
オードリーはまだまだ漫才をやり続ける。
リトルトゥースは番組を聴き続ける。
月曜日夫は帰路につき(多分)、火曜日からまた働き、水曜日も木曜日も金曜日も働く。
私はこれから、皿を洗い洗濯をする。
みんな東京ドームに集まって、また帰って行く。


終演後、夫からLINEが来た。
「オープニングアニメめちゃ泣いた」
「ポップウイルス、青春の集大成感あってやばかった」

心クラウドで共有している。夫検定満点取ってしまった。
終演後すぐ感想を聞かせてもらえるなら、きっと帰ってくるだろう。
とりあえず今日は、おやすミッフィーちゃん。


追記。

追撃LINEあり。
「無事に帰るまでが東京ドーム」らしい。
東京ドームは、まだ終わっていなかった。


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