株式会社と取締役の間で売買を行った場合の不動産登記上必要な手続き


 例えば、取締役として勤める株式会社(以下、「会社」)から不動産を買い取り、登記簿上の名義を会社から移すとき、または個人として所有している不動産を売却し、取締役として働く会社へ名義を移すときは、登記手続上以下のような注意が必要です。

1.利益相反
 まず、取締役と会社間の売買取引は直接取引として会社法上の利益相反取引にあたります。これは、取締役と会社のどちらが売主・買主の立場でも同様です。
 このようなとき会社法は、会社を守る方につきます。会社の意思決定権は取締役がもつため、その不動産が取締役によって市場価格よりも安値で買われたり、相場より不当に高値で売りつけられたりする等の危険性があると考えるためです。またそもそも会社にとってその売買自体が不必要な可能性も考えられます。このような理由もあり(不動産)売買取引は、取締役にのみ一方的なプラスで、会社にとってはマイナスとなる利益相反取引としてみなされます。

会社法356条
1 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
 一 (省略)
 二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
 三 (省略)
会社法365条
1 取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。

2.会社の承認が必要

 以上のような理由から、利益相反となる直接取引については会社の組織形態に応じて、下記の機関で決議を行い、承認を得る必要があります。(会社法第356条1項2号、365条1項)

取締役会設置会社の場合:取締役会
非取締役会設置会社の場合:株主総会(普通決議)

 このとき特別利害関係人となる取締役(売買取引の当事者)は、取締役会の決議で賛成票を投じることはできません。(会社法第369条2項)

3.議事録の添付

 上記機関で決議を開き、承諾を得られたことを証明するために、その際の議事録を不動産登記申請の際に添付する必要があります。(登記原因に関する第三者の承諾書(不動産登記令第7条1項5号))

 また、不動産登記手続上は、以下の対応も必要です。

 取締役会議事録を添付する場合、原則的に出席者である取締役と監査役の議事録への実印及び個人の実印に関する印鑑証明書が必要です。出席した代表取締役に関しては代表者印及び会社の印鑑証明書も必要です。
 株主総会議事録を添付する場合は、特に法定されておりません。しかし、議事録の作成者とされる代表取締役の会社実印及び会社の印鑑証明書とされています。

 この場合に添付する印鑑証明書に関しては、3か月の有効期限はありません。

 会社の印鑑証明書に関して、売主としての印鑑証明書と兼用できるかどうかについては、おそらく難しいかと思います。議事録に押した実印証明としての印鑑証明書とは、不動産登記上の添付情報に関する適用根拠が異なるからです。

 なお、株主リストの添付は不要です。

不動産登記令 (承諾を証する情報を記載した書面への記名押印等)
第19条 第七条第一項第五号ハ若しくは第六号の規定又はその他の法令の規定により申請情報と併せて提供しなければならない同意又は承諾を証する情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、その作成者が記名押印しなければならない。
2 前項の書面には、官庁又は公署の作成に係る場合その他法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者の印鑑に関する証明書を添付しなければならない

4.登記原因証明情報への記載

 直接取引に対する決議の承諾日は、登記原因の日付に影響を与えません。しかし、判例・通説上は会社の承諾なしにした行為は、取締役・会社間では無効とされています。(最大判昭43.12.25)また、取締役からの無効の主張は不可です(最判昭48.12.11)が、裏を返せば会社側からの無効主張は可能であるので、決議の開催及び承諾についての記載はした方が明確でよいと思われます。

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