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私が通信制高校に通っていた頃のお話

 私は高校1年生の秋に、都立中高一貫校から通信制高校へ転入しました。きっかけは、保健室登校(最後の方はほぼ不登校)が続いてしまい、出席日数が足りなくなって留年か転校を迫られたことでした。当時は、起立性調節障害で(特に午前中の)体調が悪かったことに加え、優等生キャラの演じ疲れ、そこにとにかく辛い出来事が重なってメンタルもボロボロの状態でした。しかし、いじめなどのようにはっきりとした問題ではないためか、先生や生徒達からは「怠けている」と見受けられ、冷ややかな視線を浴びていました。そのため、「もうこの学校ではやっていけない、でもせめて高卒資格は欲しい」と思い、無理せず単位取得が可能な通信制高校への転校を決意するに至りました。

 本題に移る前に、まず「通信制高校とは何か?」ということについてざっくり説明をしておこうと思います。通信制高校の持つ最大の特徴は、卒業に必要な単位の取得方法にあります。全日制高校や定時制高校では前提となる授業への出席が重視されておらず、その代わりに「レポート」の提出が必須になります。私の学校の場合は2週間ごとに決められた範囲のプリントをやり、指定の封筒にまとめて校舎の提出用ボックスへ入れるか郵送していました。また、「スクーリング」と呼ばれる校外学習への参加も条件となります。その他、定期試験や課外活動への参加などが加わる学校もあります。これらを経て取得できるのは、他の課程と同等の「高校卒業資格」です。
 通学頻度は学校によってそれぞれです。100%自宅学習だったり、年に数回のコースともう少し登校日数の多いコースが選べたり、受験対策のためしっかり週5日授業を行うところもあったりします。私も2年次からは大学入試コースに所属して通学も多かったですが、それでも出席は任意ですし始業も遅めなので無理はありませんでした。
 通信制高校という名称から「=オンライン授業」というイメージが持たれがちですが、意外とそれだけではないんですよということを是非知っておいてください。(近頃よくあるオンライン授業disの文脈で、間違った認識のまま通信制を対比に持ち上げられるのはかなり癪なので…。)

 さて、そろそろ私の体験談に入ろうと思います。初めて登校したのは2017年11月初旬。1年生の教室に入り最初に強く感じたのは、生徒達の自由奔放さでした。服装に関する校則がないため、派手髪、ピアス、厚化粧、ブランド品などをまとった高校生がずらり。授業中も近くの席の友達と歓談する声が聞こえ、先生も困った表情をしながらレポート出題範囲の解説を進めます。休み時間や放課後は仲の良い者同士で固まってさらに大賑わいでした。
 こうして見ると学校としての風紀は相当乱れていますし、授業もとても集中できたものではないため苛立つことも多々ありました。しかしそれ以上に、私の目にはその光景がすごく新鮮に映りました。それまではそこそこの進学校で勉強に打ち込み、「スカートは膝丈」などの些細な校則も絶対に破らず、どんなに嫌でも指示や頼み事には必ず従うとにかく真面目な学生だった私も、それが自分の首を締めていたことに気づいてからは、彼らなりのやり方で学校生活を全力で楽しむ様子に心を動かされていたのだと思います。
 そしてそのうち身体も通学に慣れていき、後にちょっとした部活動に入って好きな歌とギターをやったりして、心の元気も少しずつ取り戻していきました。

 また、その年のスクーリングでは高校生活の中でも特に印象的な出会いをしました。ある晩、同じ部屋に宿泊するAさんがふと、私に生後数ヶ月くらいであろう赤ちゃんの写真を見せてきました。
「かわいいね!これはAさんの弟?妹?」と聞くと、彼女は笑顔でこう答えました。
「ううん、うちの子ども。うちがママ。今は子どもを親戚に預けてここに来てるんだ〜。」
Aさんは身体も小さくて華奢で、何より私と年の差がほとんどありません。私は出産なんてまだずっと先のことだと思って生きていたのに、Aさんは至極当然のように育児のことをペラペラ語るので、本当に衝撃でした。
 また、Aさんは出産の他にも年不相応な経験をしてきているようで、婚約者が殴り合いの喧嘩をして捕まった話、深夜コンビニの前で仲間とたむろしていたら警官に目をつけられたけれど全力で媚を売って見逃してもらった話等々を聞かせてくれました。もちろんそんなことを私もしたくなったわけではありませんが、何だか「私が今まで見てきた世界は狭かったんだな、いろんな生き方があるんだな」と思わされました。それから自分の肩の力も抜けて、もう少し楽しむ余裕を持って生きたいと思うようになりました。

 2年生に上がってからは、それまで入っていた通常の高卒コースから離れ、大学入試コースの対策授業が本格的にスタートしました。所属人数がそれほど多くないため、2、3年生合わせて各教科ごとにレベル別の少人数クラスに分けられており、私はずっと一番上のクラス(ほとんどが3年生)にいました。このコースに入った当初はまだ将来のことを考えるまでの心の余裕は取り戻せておらず、本当に進学するのかどうか迷っている状態でした。しかし、受験生の中に混じって過ごしているうちに受験に対する意識や大学というものへの興味が高まっていくのを感じました。
 さらにその年の間は仲の良かった先生に、志望校のピックアップを手伝ったり、模試の成績を分析しながらアドバイスをしたりしていただきました。放課後になると毎日呼び出されるわ散々東大生時代の話をされるわでなかなかおせっかいなおじいちゃん先生でしたが(笑)、あれだけ親身で熱心な先生はなかなかいないと思うし、受験する決意を固める後押しをしてくださったことには今でも感謝しています。
 それと同時に、社会勉強にと思い学校近くのコンビニでアルバイトを始めました。コンビニは仕事がとにかく多岐にわたっており覚えることも多かったのですが、幸いスタッフさんが皆親切な方だったため、しっかりご指導していただきつつ良い雰囲気の中で1年間働くことができました。全日制高校では校則で禁止されているところも多いうえに時間も限られているため、それも通信制高校の強みではないかと思います。また、中にはアイドルや声優などの芸能活動と並行して高卒資格を取ろうとしている人がいたり、高卒認定試験向けのコースには会社で働きながら学校に通う人がいたりと、本業との両立もしやすいようです。

 そして3年生になって、いよいよ自身が受験生になりました。弟の高校受験が重なり経済的な問題で塾には通わせてもらえなかったため、志望校は当時受講していた英語・国語・世界史の3科目で受験できるMARCH以下の私立大学のみに絞りました。学科の選択については、特に将来目指す職業もなかったため、とにかく興味のある分野の勉強をしたいと考え「社会学」の一点集中で受験しました。
 しかし大学入試対策授業といえど、元来教師も生徒も「高いレベルの大学を目指そう!」というより「どこかしらの大学に引っかかればまあOK」といった具合の温度感で、さらにあのおじいちゃん先生も転勤してしまいさらに雰囲気が緩くなったため、正直なところ私には物足りなく感じました。そのため授業にはあまり参加せず、参考書や赤本を自費で買い足してカフェやファミレスなどで自学自習していることが多かったです。(学費を払ってもらっている親には本当に申し訳ない気持ちでしたが…)この学習スタイルは融通が効くうえ周囲からのプレッシャーも少ないためかなりやりやすかったと思います。一方で、自分の学力をライバルと比較できるチャンスが数回の模試しかなく、常に手探りで攻略方法を見出さねばならない不安感がありました。また、前に通っていた都立中高一貫校の友達が皆よりハイレベルな大学を目指して、塾にも通い詰めて日夜闘っている様子を見聞きして、どこかコンプレックスのようなものを抱えてしまっていました。それでも、「ここで頑張って、前の学校のみんなと足並みを揃えたい」という意志のもと勉強を続けて、なんとか目標の大学に合格できました。
 入試結果を先生方に報告する時、途中から授業に行かなくなったことを咎められるのではないかと心配していましたが、いざ伝えてみると皆さん自分のことのように喜んで褒めてくださいました。「ウノキさんはちゃんと努力し続けてたもんね」という言葉をかけてもらって、3年間胸につかえていた不安とか焦りとか劣等感とか、そういったものがすっと楽になったような気がしました。

 このような高校時代を経て今に至るわけですが、元々は不本意な形の転校だったために、全日制高校でまさに青春といった日々を過ごした人達をまだ羨ましく思ってしまうところがあります。しかしこの3年間があったおかげで、そして通信制高校に通えたおかげで、ここまで生き抜くことができてかつ人格的に豊かになったということには間違いありません。あの時お世話になった友達、先生方、そして家族への感謝を忘れず、これからの大学生活も精一杯やっていこうと思っています。

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