パルプ・ドリーム

戦争が終わり勝者は無かった。もはや完全に整備されたインフラを持つ国はなく、世界で数億の人命が散った。
復旧はネットワークが優先され、ナローなネットワークが多少復旧した。

その晩の食卓は大いに荒れた。父である漁師のユギョウは決して口数が多い方ではないが、珍しく声を大きくしてイルカを叱りつけていた。
結果、イルカは「お父さんの莫迦!」というシャウトと共に家を飛び出してしまい浜辺を歩いている。

家を飛び出たものの、小さい港町に行く当てなどなく、ユギョウの船に乗って星を見ていた。
彼女の楽しみはパルプ。パルプを読むときに彼女は世界を救うヒロイン、クンフーの達人、悪党と対決するポリスになる。

かつての高度なネットワークや、眩い世界はパルプの世界のみにあり、彼女はそれを想像するのが楽しくて仕方がなかった。
パルプに世界が無限にあった。特に軍人が悪魔と戦うシリーズは彼女のお気に入りだ。

「イルカ!ここにいたのか!親父さんも心配してるぞ。帰ろう。」
陽気なファットスモーカー老人はタバコを咥えてイルカの横に座る。
「また親父殿と喧嘩かね?」ライターがほのかに一瞬だけ照らした。
「帰らない。爺ちゃん。私、町を出たいの…お父さんは許してくれない。私はパルプを書きたい。シティに行きたい」
「パルプねぇ…」
爺さんは薄い目をして笑いながら波を見る。
「パルプ。すごい。私の知らない世界が目の前に現れる。私もパルプが書きたい。書ける。」
イルカは星を見つめる。
「爺もパルプでな。勲章をもらった。爺の一番星だ。今でもお守りにしてる」
「スゴイ!」
イルカは輝く目で隣に座る爺さんを見つめる。
「だがな、今じゃ魚獲りの爺だ」
ヤニだらけの歯で笑うと老人は重い巾着袋を出して傍らに置く。
「持っていけ。親父殿には爺から話しておく。明日の夜、もう一度きちんと親父殿と話すんだ。今日はもう帰ろう」
老人は立ち上がりタバコの火種だけを器用に海に落とした。

【続く】

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決してイカ臭くはありません。 どうやって運用するかは決めておらず、運用方法がわかっていないです。 釣りとか料理とかニンジャとか艦これとかは好きです。