見出し画像

割と知名度が低いアニメ『UN-GO』をいまさら語りたい

幸薄青年と人外ショタ、あります。たまにグラマー美女も。




UN-GOとは、2011年10月ノイタミナ枠で放送されたテレビアニメである。

なぜそんな微妙に昔の、しかもあまり知名度が高くないアニメについて書くかといえば、ただ唐突に書きたくなったからだ。

それ以上でも以下でもない。

私は坂口安吾を知らないし、彼の作品を通して現代との対比や考察などという高尚な所業を見せる気はない。

ただ、少し古いテレビアニメについて、ひいては因果というキャラクターについてを語るだけである。


作品概要

本作品は戦後無頼派を代表する坂口安吾が
いまから60年以上前に発表した
短編連作「明治開化 安吾捕物帖」の
設定を近未来に移したフィクションである。
劇中に登場する個人名・団体名などは
原案に基づく架空のものであり
一切現実のものではない

UN-GO オープニング

ということらしい。本記事冒頭にいきなり坂口安吾の名を出したのはこれによる。

大まかなストーリーとしては、「敗戦探偵」の二つ名をもつ青年 結城新十郎と、その助手の少年 因果が、行く先々で出会ったり持ち込まれたりする難事件を解決する探偵推理もの……と思いきや、なんだか違う別のなにかである。

ストーリーの根幹は複数の坂口安吾作品を束ねて繋げたものではあるが、随所にアレンジがなされている。情報操作し放題なIT企業のトップとか、そいつに心酔している女検事とか、少女型アンドロイドとか神様が出てきたりする。もうやりたい放題。

なお、原案の安吾捕物帖では、主人公は紳士探偵(レイトン教授的なこと?)だし、助手の花廼屋因果は少年じゃない。おいおいそこから違ぇのかよと思ってたら勝海舟まで登場してくるなど、こっちはこっちで自由である。ただし私は因果が少年じゃないことが分かった時点で読むのを止めたので、原案についてはほぼ読んでいない。

ちなみに、坂口安吾作品はたぶんだいたい青空文庫に入っている。さらに、同原作の実写ドラマ(福士蒼汰主演)が最近放送していたので、「活字はちょっと……でも安吾捕物は好き」という倒錯的な方はそちらを見るのもおすすめである。


探偵ものとはなんか違う別のなにか

さて、上で「探偵ものとは違う別のなにか」と述べたが、この印象は基本1話完結の30分アニメであるということ、そして因果の役割に起因する部分が大きい。

そもそも30分アニメ(CMなどを考えると実質的な本編は20分強)で本格的な推理ものを作ろうということ自体が困難である。起承転結、状況説明、伏線の用意などを全部詰め込むと、限られた尺では展開が予定調和的になってしまう。1話完結でないエピソードも存在するが、やはりどこか落ち着かない印象を受けるのは否めない。

だからこの作品は、腰を据えて主人公と一緒にじっくり推理していくのではなく、与えられる情報をただ飲み込んで「あっそういうことだったんすね〜!」という腰巾着マインドで視聴するのが最適だろう。

そして因果の役割についてだが、これがなんと「本人が一番隠したがっていることを白状させる異能力持ち」という、超常推理の答え合わせキャラクターである。

もちろんこの能力の使用にあたっては、「質問形式でないと相手が死ぬ」とか「生涯で1回しか効かない」とかの制約はあるのだが、これもやはり尺の都合から生じる結城新十郎の超絶推理力により、ほとんどあってないようなものである。

そういうわけでこのアニメは、肩肘張った推理サスペンスではなく、あくまでも探偵要素をアクセントとして、メインは世界観と雰囲気とキャラクターを楽しむのが適した視聴方法だろう。


原案:坂口安吾

坂口安吾といったら、文学に造詣がなくとも聞いたことくらいはあるほどの知名度を持つ文豪である。BUN-GOである。

そんな文豪が原案の作品。

ものを知らない人間の印象としては、「なんか重そうだな」が先立つ。

事実、私は坂口安吾を知らず、ただ一つの情報のみを頼りに本アニメへとたどり着いたので、オープニングの文章を見たときは、それはもう、大層びっくらこいたのだが、心配は徒労だった。

このアニメを見るだけなら原案の知識は一切必要ない。原案知識0の私がそういうのだから、これは間違いない。

むしろ、坂口安吾を知っているということは、このアニメを見る上では一切役立たない可能性さえある。

というのも、「設定を近未来に移した」の10文字に圧縮されている要素が多すぎるからだ。

おそらく原案となった作品群に登場しないであろう物品を、いま思いつくだけ挙げてみる。

・インターネット
・自動でフィットするドレス
・MRゴーグル
・AI搭載スマート家電
・精巧なアンドロイド

など。

さらに、原案が書かれた時代背景である「戦後」は、現代らしく「日本がテロの対象となり多大な損害を与えられた後」に代わっており、そのうえで原案の明治-昭和の雰囲気が反映されたものであるから、何ともいえない歪さが生まれてしまう(それはそれとして魅力のひとつではあるのだが)。

ただし、その歪み以上の混乱を招かぬためか、ストーリーはわかりやすい。

考察サイトと本編を反復横跳びしないと内容が理解できない、なんてことはありえない。安心安全の作品である。


ストーリー

時は終テロリズム間もなく。戦禍の跡が色濃く残る日本で、それでも技術だけはしっかりと発展していた。
隙間なく張り巡らされた情報インフラ網、その胴元であるIT企業の会長 海勝麟六は、卓越した頭脳と情報統制能力で官公庁とべったり。
警察に協力して難事件なんかも解決してみせるのだが、それらのほとんどは警察や政府にとって ”都合のいい” 結末を迎える。
一方、海勝の豪邸とは対照的な倒壊ビル群に紛れるようにして存在する「結城探偵事務所」の主 結城新十郎とその助手 因果は海勝が隠蔽した事実を追い続ける。追い続けた果てに、何を求めているのかもわからぬままに。

その途中で海勝信者の女検事 虎山泉に絡まれたり、海勝麟六の娘 海勝梨江に惚れられてみたり、何でも知ってる系アンドロイド少女や無知超能力幼女(神)と仲良くなったり、なにかしらと癖のある縁が多い結城新十郎。やれやれ、ハーレムなんか作るつもりじゃないんだが。無気力幸薄探偵系主人公、結城新十郎の行く末はいかに!?

そんな感じ。


好きな点


の前に。


嫌いな点

なぜ因果に美女形態を用意したのか。

いやね、わかりますよ。ストーリー上そうでなくてはならない理由がありますよ。

でも私には、「主人公のバディが少年だとウケが悪いかもしれないから、ナイスバディの美女に変身できるってことにしとこうぜ」という逃げに思えてならない。

いーじゃん、別に。そんな保険用意しなくても。

因果論(特別編みたいなもの)には女性形態が生まれた経緯が描写されているけど、そんなもん無視しろ! というか描写するな!

新十郎の動機として、必要なのはわかる。でも、必須ではない。はずだ。きっかけにはなれど、未練である必要性はないはずだ。

あー、ここさえなければな。マジで完璧なのになー。

そもそも欲張りなんだよな。美少年と美女を合わせて1つにって、それ、ズルですよ。ズルはよくない。仮面ライダーWだってここまでのことはしなかった。

なんか、そういう制作上の魂胆が透けて見えるような気がして、私は嫌いです。因果の女性形態。

まあ、ただの邪推に過ぎないとは思いますがね。というかそうであってくれ。でないと本当に恨みしか残らんぞ。


では改めて、好きな点を挙げていきます。

・因果の少年形態

これがね、とても秀逸。知らない人はいったん見てきてほしい。リンク貼るから。

↓これ

小説版の表紙でもいい。なんならここはインターネットだから、「商品のリンクを貼る」という手段もある。

ほら。


なんと漫画版もあるぞ。


この生気のない肌色、淀んだ眼、毒属性のホイップクリームみたいな髪色、片方だけの手袋ハイソックスにふざけたスタイルのパンダパーカー。

素晴らしいですね。

キャラデザには高河ゆんという伝説的な同人作家が関わっているらしい。私は存じ上げないが、いいセンスをしているようだ。

他のキャラもデザインがいい。最近のAAAクラスアニメには作画の面で劣るが、十分高水準ではあるし、見てくれだけが目当ての層にも優しい。そう、私のような。

実際、私がUN-GOを見たきっかけは少年因果のデザインだった。

厳密にいうと、まずメイドインアビスのマルルクが気に入り、マルルクについて調べる過程で、同声優の因果という良デザキャラクターを知り、この作品に辿り着いたのだ。

だがいざ見てみると、趣味に合わない推理ものだったし、作画も今は慣れたが、「顔、長過ぎだろ」というのがファーストインプレッションだった。

それでも、とりあえず1話は見てみよう。OPはよかったな。本編は、よくわからんな。EDはよかった。結局1話見てもよくわからなかったから、2話も見よう。よくわからんが、絵は良い。見極めるため3話も見るか、お、美少女アンドロイド出てきた。といった感じで、気づけば全話見ていた。本編だけでは明かされない謎もあったから、配信されていない特別編もレンタルショップで借りて、漫画版も中古で買って、小説版もKindleで買っていた。

そんな調子で、気がついたら、メディアミックスを全て揃えていた。しかも当時は「なんでこんなに集めてんだろな」と動機も定かでなかった。げに恐ろしいものである。


・オタクのにおい

この作品、かなりオタク要素が強い。シュタインズゲートほどではないが、方向性としてはかなり近い。

まず1話から初音ミクのコスプレイヤーが出てくる(一瞬だが)。2話には「もの売るってレベルじゃねぇ!」とか叫んでるガヤもいるし、めちゃくちゃである。

でもお前らこういうの好きだろ?

はい。

こういう要素は塩梅が難しい。やりすぎるとバカにされているような気になってくるから、あくまでもフレーバー程度に収めるか、あるいはシュタゲのようにメインコンテンツレベルまで詰め込むか。この作品は前者のはずだが、びっくりするくらいずっと匂ってくる。においが染み付いている。むせはしないが、おそらく制作スタッフのほとんどがそう 、、なのだろう。

そういう意味では、安心感のある作品だ。英国紳士としてはね。


・属性過多

そこそこニッチな属性を、多数取り揃えられている点も評価できる。

美女に変身できてしまうとはいえ美少年(むしろTSFと考えればそこにも需要があるだろう。私にとってはそうではない)はいるし、過激なプレイもOKな美少女アンドロイド、と同一のAIが繰る妙に艶めかしいぬいぐるみ、正統派美少女、を主人公にくれてやってもいいと思っていそうだがその実狙ってるのは自分なんじゃないの〜?な父親(CV三木眞一郎)、特に理由なくツインテな男、なんでも言う事を叶えてくれる願望器系無知無口幼女(叫びはする)、サイドバング(であっているのだろうか? 髪型はよくわからない)が片方だけクソ長い女検事など。

きっとあなたの趣味に合うキャラクターも見つかる! なんて無責任なセリフは死んでも吐けないが、探すのに少し苦労しそうなキャラクターがそろっている本作を、アソートとして、おひとついかが?


・新十郎と因果

なんといってもこの2人の関係性がいい。

幸薄青年と異形(みてくれは良い)。それだけでも儲けもんである。

だがパワーバランスは主従関係ではなく、持ちつ持たれつ、というよりも呪い、むしろ共依存に近い。

素晴らしい。

自らの欲望のために人をも殺せる因果を止めるため、探偵を続ける新十郎。因果は別に新十郎無しでもミダマ(因果が求める人の秘密みたいなもの)を喰えるっちゃ喰えるんだけど、そうはしない。新十郎も新十郎で、因果と行動を共にし始めた当初の目的はもう既に果たせなくなっているのに、別れようとはしない。そんな二人の関係の始まりは、因果論をご覧ください。いろいろ描かれてます。

されど表面上は探偵と助手。一見すれば斜に構えた理屈屋とわんぱく小僧。けれど時折覗かせる関係性の深淵に、人は魅入られてしまうんですね。

その深淵がたとえ、己が願望の見せる幻覚だとしても。


最後に

UN-GO、大手を振っておすすめは出来ない作品です。おそらく好みがめちゃくちゃに分かれる。

ただ、あんまりにも知名度が低い気がするので、もう少し知られてもいいんじゃないかな~と思い筆を認めた次第。

もしここまで読んでくれた酔狂なあなたが、この作品に興味を持ってくれたなら幸いです。

この記事がUN-GOの魅力をきちんと伝えられている自信は全くありませんがね。




ここだけの話

この作品の脚本家である會川昇は、仮面ライダーディケイドの脚本家でもあるらしい。その辺とか、あるいは全然関係ないネタが散りばめられたドラマCDが、今縮小営業中の某動画投稿サイトで聴けます。ただノリが少し、あの、こんなこと言える身じゃないんですけど、ちょっとキツイというか、結構心を強く持たないといけない感じに仕上がっています。恐れを知らぬ勇者はどうぞ。責任は取らないからな。おれは知らんぞ。

あ、因果日記というショートアニメもあります。これはおすすめ。やはりデフォルメは良い。

この記事が参加している募集

ここはどこだ