見出し画像

『旅先で食べたもの・2』

 この話は2011年6月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第44作目です。

 有給休暇以外に与えられるリフレッシュ休暇を使ってシンガポールへ行ってからそろそろ1年になろうとしている。もたもたしていると本年度のリフレッシュ休暇が失効してしまう(7月末までに消化)。ヤバイ、ヤバイ・・・。
 昨年約10年振りにシンガポールへ行って以来、それ以前から途切れることの無かった現地の友人達とのコンタクトは頻度を増している。嬉しいことだ。
 シンガポールと聞いて、友人達の顔とともに思い出すのがチキンライスだ。シンガポールのチキンライスはローカルフードの定番中の定番である。シンガポールへ初めて行くという人に何を食べてくるべきか聞かれると、必ずチキンライスと答える(勿論他にもいくつか挙げるが)。
 日本人でこの答えを聞いた人の大多数は最初怪訝な顔をする。それは日本のチキンライス、あの「ケチャップごはん」が思い浮かぶからだろう。
 シンガポールのチキンライスは全くの別物である。ご飯はスープで炊いてあり、蒸してあるチキンは柔らかくジューシーで別に盛られている。そのチキンを、どちらかと言えばタレと言ったほうが伝わるであろう、一緒に付いてくる3種類のソース(ソイソース、ジンジャーソース、チリソース)をお好みで付けて食べる。
 専門店まであるくらいだから立派な一品料理なのである。その盛り付けを見ていると、そもそもは「チキン&ライス」だったものがいつの間にか「チキンライス」になってしまったのではないかと思う。
 シンガポールでは、チキンライスはホテルのコーヒーハウス、ホーカーズ(日本でいえば屋台村みたいなところです)、専門店でいつでも食べられる。シンガポールで食べ較べつつ食べ歩いても面白いと思う。
 僕がシンガポールへ行った際に必ず立ち寄って食べるのが、オーチャード通りのマンダリンホテルにあるコーヒーハウス 「チャターボックス」のチキンライスだ。
 ここのチキンライスは賞を獲るほど有名であり、チキンライス専門の料理人がいて、一日に何交代かして一日数百食出るそうだ。
 味は間違いないが、さすがにホテルの中にあるだけに料金が少々高い。しかし、ここのチキンライスを食べると、特にしばらく食べ進めてタイガービールをゴクリと飲んだ時に、シンガポールに来たなぁ~と実感する。

画像1

 以前はオーチャードロードに面した1階にあったのだか、去年行った時にはリニューアルされていて、ホテル内の5階にあった。
 航空会社に勤めていた時は、シンガポールは担当地区だったので年に数回行った。行く度に最低1回は寄ったので相当な回数食べているはずである。
 これを書きながら、僕のチキンライス好きを知っていた友人の客室乗務員達が、フライトの前夜に自宅近くのホーカーズで買って冷凍してくれて、成田に到着と同時にオフィスまで届けてくれてことが何度もあったことを思い出した。
 ホーカーズのものはダウンタウンの有名店のものよりももう少し濃い味がし、チキンも骨付きだったりして、これが本当のローカルフードのチキンライスなのだなと思わせてくれるものだった。もちろんこちらも大好きである。こう書いているうちに本当に懐かしくなってきた。
 チキンは皮がちょっと・・・とか、付け合せのパクチーがダメ・・・という方も、注文時にチキンの皮もパクチーも言えば取ってくれるので大丈夫。スープとご飯だけでも是非ご賞味いただきたい。
 僕はご飯を付け合せのスープとチキンを少々で食べて、残りのチキンをその3種類のタレで楽しみながらタイガービールを飲むのが至福の時である。
 スープが冷めてしまうが、チキンとビールを楽しんだあとで締めにスープとご飯でもOK。別々に持ってきて貰うという手もあるが、そうすると、「チキンライス」ではなくなってしまうので自重している。
 たまに食べたくなっても、そう簡単にはシンガポールには行かれない。その時は六本木(というか麻布十番)にある「海南鶏飯食堂」へ行く。ここのチキンライスは本場のものと寸分違わない。それに、意外と外人のお客が多い。ただ、いつも混んでいるので行くなら要予約だ。(その予約が取れない時もあるので注意)。
 既に絶版らしいが、このお店が出したチキンライスの本が現在かなりのプレミアがついているとのことだ。何年か前に食事の後で、レジで普通に買った本だったので、そのことを聞いて驚いたと同時にお店がどれくらい人気があるのかが分かった気がした。
 先日トラベラーズノートのホームページの英語版の事を海外の友人達に知らせた。僕のストーリーも、まだ日本語だが、見ることができることも伝えた。シンガポールの友人John(「口約束・1」、「再会・2」、「タイミング」に登場)が真っ先にお前の書いたストーリーはどれだとメールを送ってきた。
 このストーリーが掲載されたとして、今回チキンライスのことを書いたと知らせたら、きっとすぐに反応があるだろう。そういえば、去年JohnとJoseph(「口約束・1」、「再会・2」、「タイミング」に登場)と久々に会った時に彼らとチキンライスの話はしなかったなあ。彼らのお薦めのチキンライスのお店を聞いておけばよかった。近々他の友人達にも併せて聞いておいて再訪に備えておこう。
 これからやってくる鬱陶しい本格的な梅雨と、節電の影響で通常よりもその暑さに悩まされるのであろう猛暑を、今年はチキンライスで乗り切ってみようかと思っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?