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『泊まるなら・・・(3) 』

 この話は2021年5月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第163作目です。

 旅行作家下川裕治さんのYouTubeチャンネルをフォローしている。トラベラー各位の中にも下川さんのファンでフォローなさっている方も多いと思う。

 どうしても仕事でタイに行かなければならなくなった下川さんはバンコクで「2週間の隔離」を体験なさった。その様子をYouTubeにアップなさっている。日毎のアップなので更新の知らせがスマートフォンに届くとすぐに観ずにはいられなくなる。知らせが届くのが仕事中だとすぐには観られずソワソワしてしまう。

 「2週間の隔離」を報道では文字で何度も目にしてきたが正直ピンと来なかった。現代風にいうならば「リアルがそこにある」という感じで、下川さんのYouTubeで隔離の様子がよく分かった。

 プロ野球でも2週間の隔離を終えた外国人選手が次々とグランドに立ち始めている。彼らもこの日本の各所で下川さんと同じような隔離を経てきていると思うと、チームに関係なく各選手には今シーズンを健康で無事に終えてもらいたいと願ってしまう。どう隔離されるのか興味を持った方は是非下川さんのYouTubeをチェックしてほしい。国の差はあれ同じような境遇に置かれるのではと察する。

 今回は久しぶりにホテルの話を書こうと思う。昨今の事情を鑑みると、「まだ海外を自由に旅することができた頃の話である」という前置きも洒落ではなくなりつつある。

 2019年5月の香港再訪時に宿泊したのは九龍のネイザンロードにある尖沙咀のホリデイ・イン・ゴールデン・マイル・ホンコン。

 宿泊先を決めた際の条件は、①ロケーション。空港の往復はもちろん主要な場所へのアクセスが良いこと。②母も地理に明るいところ。一緒に行った母が一人で街歩きをしても迷うことなく帰館できるところというのもポイント。母も香港は何度も訪れているのでネイザンロード沿いなら問題なかった。母にとって銀座通りの次に詳しいのがネイザンロードかもしれない。いや、ワイキキのカラカウア通りのほうか・・・。

③宿泊料金。その香港再訪ではシェラトンかホリデイ・インのどちらかにしたかった。叶わなければいい思い出がないカオルーン・ホテルと思っていた。ホリデイ・インが全ての条件を満たしていた。

 このホテルとの付き合いが始まったのは、返還前の1993年くらいからだったと思う。勤めていた航空会社の乗務員達の香港での定宿であった。会社が契約しているせいか、利用の際は社員ということで宿泊料金をかなり割り引いてくれた。無料の航空券とともに旅先の宿泊先からいただく宿泊費の大きなディスカウントがある意味福利厚生だった気がする。初めての滞在は休暇が先だったと思うが仕事が先だったかもしれない。

 乗務員はスケジュールの関係で到着翌日はオフになる。仕事、休暇に関わらず滞在中にロビーで日本人の同僚とばったりということもあった。普段日本で顔を合わせている人に海外で出くわすといつも不思議な感じがした。

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ベルデスクで貰ったステッカーを貼ったスーツケース(左)と数回しか使わなかったアタッシュケース(右)。貰ったのは返還前でした。未使用のものも持っているはずですが見当たらず・・・。

 ネイザンロードの尖沙咀から旺角までは香港有数の繁華街で、「黄金の1マイル」と呼ばれている。それがホテル名に付いているゴールデン・マイルの由来だそうだ。

 大好きなシカゴのミシガン通りもマグニフィセント・マイル、訳すと「魅惑の1マイル」と呼ばれているのを思い出した。

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ネイザンロード側の入口にあるサイン。ロゴが変わったのは返還後しばらくしてからだったと思います。以来ステッカーも無いようです。

 エアポート・エクスプレスの九龍駅からはホテルを巡回する無料のシャトルバスが出ている。いくつかの路線があり自分が宿泊するホテルがどの路線かを見つけて利用する。ホリデイ・イン・ゴールデン・マイルは路線の中で最初に停車するホテルだった。しかし、逆に九龍駅に向かうとなると、他のホテルを延々と回ってからの到着となる。

 駅まではタクシーを使えばホテルからなら10分もかからない。移動時間短縮のためにお金を使うか、時間がかかっても無料の恩恵に与るか・・・となる。

 チェックインを済ませ部屋へ向かう際にエレベーターの階数表示が英国式なのに気付く。ニヤリとした。返還前からそのまま残してあるのだろう。返還前の楽しかった頃を思い出し英国文化の名残を感じられた。旅をしているときのちょっと嬉しいひとときであった。

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トラベラー各位には説明不要?なエレベーターの英国式表示。

 部屋は清潔だった。無料のWi-Fiと枕が硬軟揃えてあったところに時代を感じた。ホテルの枕の種類なんて一つしかなく、海外では二つ折りできるくらい柔らかいものがいくつもベッドに置かれているのが常であった。

 常備しておかないとハウスキーパーが忙殺されてしまうくらいリクエストがあったのだろうか。それとも著しく増えて上客となった中国本土からの観光客の要望なのだろうか。中国の一般家庭で使われている枕の硬さは分からないが・・・。

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時代が感じられる枕。「硬い」はhardではなくfirmなのか・・・。

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ベッドサイドの電話の横にはメモとボールペン。ロゴ入りなので拝借。

 ホテル滞在中結構重要なのはバスルームだ。洗面台のアメニティやグラスは過不足ない程度の用意だった。水回りが少々古くて残念だった。トイレはシャワートイレではなかった。ホリデイ・インだが、香港一のホテル街にあり、高級ホテルに位置付けられていながらこのご時世シャワートイレではなかったのは意外だった。

 バス、シャワーも湯加減の微調整に少々苦労した。洗面台も然り。トラベラー各位の中でも旅先のホテルで湯加減の微調整をようやく把握したのが帰国前日だったという経験をなさった方は少なくないだろう。そのようなバスルームだったといえばイメージが湧くだろうか。

 水回りは少々残念だったが、このホテルはどこへ行くにもアクセスが本当によく使い勝手が良い。地下鉄の駅は少々の雨なら傘は要らない距離にある。

 宿泊は厳しいがカフェやバー、レストランでいわゆるラグジュアリーホテルを楽しみたければ、ホテルを出てネイサンロードに立つと左手にあのペニンシェラが見える。ちなみにバックパッカー的な旅をなさっている方には恐らく外せない宿泊先であり基地的な場所の重慶大厦(チョンキン・マンション)は右手に。ほぼホテルの並びにある。客層が両極端な宿泊施設が同じ通りにあるのが何とも面白い。香港らしい一面かもしれない。

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香港といえばここという方も多いでしょう。一度も足を踏み入れたことがないのでいつか探険してみます。

 僕のように旅先から絵葉書をたくさん出す方には大きな郵便局もすぐ近くのシェラトンと路地を挟んだ真向かいにある。

 エントランスを出て右に進み重慶大厦を通り過ぎたあたりから「黄金の1マイル」が買いもの好きには堪らなくなってくる。

 以上全て徒歩圏内。母も何度も香港を訪れているが、滞在の拠点がこのホテルだと一人で街歩きするには好都合のようだった。買ったものが両手一杯になってもホテルが徒歩でサッと戻れる距離にあるのは楽だろう。

 これまで宿泊してきたホリデイ・インを思い起こして列挙してみた。

アメリカではロサンゼルス(2ヶ所)、ミネアポリス、シカゴ、ワシントン。アジアでは香港を初め、ソウル、シンガポール、北京。ヨーロッパではロンドンでホリデイ・インを利用した。

 思い出せるだけ挙げてみたが各地で結構利用してきている。「ホリデイ・イン」を念頭に置いて地名を眺めていると各所の景色が思い出されてくる。

タイトルを「ホリデイ・イン」として、学生時代に初めて意識して自ら選んで宿泊したロサンゼルスから始めてしばらくストーリーが書けるかもしれない。トラベラーズノート側から「またですか?」と言われるまで書き続けてみたくなった。

 細々と継続している断捨離でホリデイ・インのパッチが未開封のままで出てきた。これはやはりホリデイ・インの話を書けという旅の神様からのお告げなのだろうか。それとも、次の海外の旅先での宿泊先はホリデイ・インになるという暗示なのだろうか。

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このパッチは都内で買ったのだと思います。やはりこのロゴだよなぁ〜。

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この香港の旅を共にしたトラベラーズノート。共にした最初の旅先も香港でした。

追記:

この香港再訪の旅に関してはこれまで「初めてと久しぶり」「旅先で食べたもの・15」「変わらない」「初店」「蝦蛄(シャコ)」「Good Old Days」「Barにて・5」「ここまでも・・・」「記憶が残らなかった記憶に残った旅」というタイトルで書きました。未読の方は是非。

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「おとなの青春旅行」講談社現代新書                「パブをはしごして、青春のビールをーイギリス・ロンドン」を寄稿


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