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『再会・4』

 この話は2013年1月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第63作目です。

 2012年9月末から遅い夏休みを取って、ロンドンへ行った。ロンドンへ行くのは約20年振りだった。旅の目的の1つは、この旅の最大の目的と言ってもいいかもしれないが、学生時代にホームステイをした先のお母さんであるPatのお墓参りだ。「再会・3」(https://www.midori-japan.co.jp/post/TRAVELERS/cv/c5c5c0688da5) に書いたように、Patの死去を知らせてくれたPatの娘Lindaとは、僕がホームステイをしていたときは既に家を出ていたので一面識もなかったが、その悲しい知らせ以来現在まで絵葉書やクリスマスカードのやり取りを続けている。

 我々のロンドンでの滞在期間を事前にEメールでLindaに知らせ、お墓参りに連れて行って貰える日を調整してもらった。何度かのやり取りを経て、お墓参りへ行くのは滞在中の日曜日の午前中に決まった。お墓があるところも、Lindaが家族とともに住んでいるところも、僕がホームステイをした家があるのと同じ町コルチェスターだった。コルチェスターへはロンドンから電車で1時間ちょっとかかる。

 約束の日があっという間に訪れて、ロンドンからコルチェスターへ出掛けて行った。滞在先のホテルの最寄りの駅から地下鉄でリバプール・ストリート駅まで行って、そこから郊外へ行く電車に乗った。

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地下鉄を降りて階段を上がって行くと駅はこのように広がっています。20年前はこんなに近代的ではなく、もっとクラシックな感じでした。

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ロンドンとロンドン郊外を行き来する電車とプラットフォームです。

 ロンドン(リバプール・ストリート)からコルチェスターの間のある区間が、その時は週末に限り工事をしていた関係で、その間は鉄道会社が用意したバスでの移動となった。したがって、コルチェスターまでの往復は、電車-バス-電車での移動となった。一見厄介な移動に見えるが、30分程のバスでの移動は電車からの景色とは異なった景色が見えて楽しかったし、旅の気分が増した。

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電車の窓から見えたオリンピックスタジアム。つい先日までロンドンオリンピックが行われていたとは思えないほど、辺りはひっそりとしているように見えました。

 iPodでBeatlesを聴きながら景色を眺めて、様々なことを思い出しているとあっという間にコルチェスターに着いてしまった。駅の外に出て昔を懐かしみつつキョロキョロしていると、Lindaらしき人が近寄ってきた。事前に電話で「僕は見るからにアジア人のルックスをしているからすぐ分かる」と伝えておいたので、何の疑いもなかったようだ。Lindaは妹さんのKimと一緒に迎えに来てくれた。もちろんKimとも初対面であった。

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コルチェスター駅正面。20年前に比べて少々小綺麗になったくらいで、ほとんど変わっていませんでした。

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駅前のロータリー。駅の正面を背中にするとこの景色が広がっています。 ここへLindaがKimと一緒に車で迎えに来てくれました。

 挨拶を済ませるとLindaが運転する車で先ずはお墓参りに行った。駅から10分も走った頃に、墓地と教会が見えて来た。車を停めて目の前の門を開けるとそこは墓地で、丈の低い墓碑が並んでいた。その墓碑の低さの所為か、一見畑のような光景だった。ところどころ墓碑の前がこんもりと盛り上がっているところは、日本のように火葬はせずに土葬しているところのようだった。Patも火葬していないとLindaは言っていた。墓碑の前にしゃがんで手を合わせた。久し振りの再会がこんな形になってしまったことが、本当に悔やまれた。墓碑を見ると、Patが亡くなったのは2004年で69歳だった。

 お墓参りが終わると、Lindaが自宅へ連れて行ってくれた。その前に、僕がホームステイをしていた家を見に連れて行ってくれた。その家に着いてしばらく外観を眺めていると、Lindaが玄関のドアをノックしていた。現在住んでいらっしゃる方に事情を話して、僕のために家の中を見せてもらおうとしてくれたのだった。残念ながら不在で家の中を見る事は叶わなかった。家の中は昔の記憶のままなので、見なくてよかったかもしれないと思った。

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ここがホームステイをしたお家です。僕がお世話になった時は玄関横は花壇でした。

 Lindaの自宅に着くと、ご主人のJimとKimのパートナーのLionelが迎えてくれた。しばらくすると、Lindaの次男Damonが挨拶しにきてくれた。長男は既に独立しているとのことだった。

 紅茶を飲みながら色々な話をした。ご家族の古い写真やPatの晩年の写真見せて貰った。和食の代表的なものの作り方と日本の食文化に関する写真入りの説明が英語と日本語で書かれている本を、手土産の一つで持って行ったが、その本を一生懸命に見ていたのは何故かJimとLionelだった。

 Lindaがランチとして作ってくれたサンドイッチとKimが作ってくれたメレンゲパイを美味しくいただきながら、さらに話をした。Lindaは僕が旅先や日本から送る絵葉書を大切にファイルしていると以前から言っていて、今回はそのファイルしているものを見せてくれた。ファイルは数冊に渡っており、自分の書いたものがいくつもの海を渡ってここに辿り着いているのを見て少々感動した。

 僕もLindaが旅先から送ってくれた絵葉書が何枚もあるので、Lindaからの絵葉書だけのファイルを作ろうかと思った。僕とLindaのやり取りを見ていたKimから自分にも絵葉書を送って欲しいと乞われたので、気持ちよく承知して、手書きの住所を受け取った。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、失礼する時間になった。女性二人のおしゃべりの勢いに負けて、皆さんと記念撮影をするタイミングを逸してしまったのが悔やまれた。これはきっとまた会えるチャンスがあるからだと自分に言い聞かせた。

 再びLindaの運転する車にKimとともに乗って、コルチェスターの駅まで送って貰った。皆さんとは初対面だったが、全く初対面であることが感じられなかった楽しいひと時だった。

 帰りの道中、昔のことがいろいろと思い出された。Patとの再会は本当に残念な形になったが、Patはちゃんと僕にいい出会いとその出会いを楽しめる旅のチャンスを残してくれたのではないかなと思った。

 Pat、本当にどうもありがとう。


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