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『紐育者(ニューヨーカー)』

 この話は2022年9月2日にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。そのままここに掲載いたします。これは掲載第179作目です。

世間がお盆休みを目前にしてソワソワし始めた頃、シアトルにいらっしゃる航空会社時代の先輩NさんとLINEでやり取りをした。

話題は「みんなのストーリー」に掲載された僕のストーリーに対して、Nさんを始め各所からいただいた嬉しいコメントについて。

そして、いつの間にか懐かしい人達の話に。懐かしい人達の登場はお盆休み目前だったからではないと思うが、それが追って別の友人との間でもあった。

 懐かしさと思い出の大集合はいいことばかりではない。せっかく長い時間かけて忘れたことまで思い出してしまう残酷な面もある。ちょっと辛くなり伊集院静さんの「大人の流儀」シリーズを何冊か再読した。

 辛さが軽減された頃にTwitterで知ったニューヨークの本のイベントが銀座の森岡書店で開催中であることを知った。

 限られた字数の中での言葉の選択が素晴らしく、思わずフォローしてしまった方が紹介していた一冊だった。

 イベント終了まで残り三日のタイミングだった。銀座でニューヨークの本のイベント。気分転換になることを確信し、未読のままだったが、行くことにした。

 その本のタイトルは「ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由」。ニューヨークに2021年まで9年住んでいらした著者の仁平綾さんの現地での実体験に基づいたエッセイである。

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50を過ぎたおっさんが読むにはちょっと若向きの本かな?と思いましたが、あの方が紹介なさっているのならと手に取りました。まさかこの本がこの話を書くきっかけとなるとはそのときは露ほども思わず・・・。

「こんにちは」と言いながら先客がいる会場に入った。場に馴染んだタイミングで自己紹介をした。時間の経過とともに「私のニューヨーク」を口早に仁平さんに話していた。

 僕の初めてのニューヨークは1988年の大学三年のとき。日本はまだ昭和だった。夏休みに郊外のロングアイランドの大学の寮に入って一月キャンパス内の英語学校に通った。二度目は1992年で日本は平成四年。当時社会人三年目で同僚と休暇で訪れた。

 僕の「私のニューヨーク」は平成から令和にかけてニューヨークにいらした仁平さんにはお伽噺のように聞こえたかもしれない。しかし、僕を逸らすことなく話を聞いてくださった。

 先客の方は仁平さんのニューヨーク時代からのお友達だった。初対面にも関わらず、ニューヨークで入れたという立派なタトゥーを見せてくださった。

 森岡書店は東京の歴史的建造物に指定されているビルの一階にある。ニューヨークのソーホーやブルックリンにありそうな古い建物を再利用したギャラリーを彷彿させる空間だ。ニューヨークという共通項で話が弾み、タトゥーまで拝見したときに、そこが銀座であることを忘れた。

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森岡書店の外観です。そこが銀座であることを忘れる佇まいでした。

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イベント仕様になるとこういう感じに。左奥のトートバッグは僕のです。 トートバッグとニューヨーク・・・松浦弥太郎さんの短いエッセイを思い出しました。同じブランドのものです。

 イベントから帰宅して、自分の「私のニューヨーク」を念頭に置きながら、その本を読み始めた。あっという間に読了。            トラベラーそれぞれの中にある「私のニューヨーク」と比較しながら読むのも一興だ。これからニューヨークへという方にも、ニューヨークに来たものの思い描いていた通りには行かず現地で燻っている方にも、この本は貴重なヒント集だ。

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読了後はこの通り。ニューヨークの情報だけではなく、「作家見習い」の僕は表現など参考になるところにも付箋をしました。

結婚してニューヨークに住んで40年近くになる従姉がいる。現地で仕事をしている35年くらいの付き合いになる友人もいる。二人が生活している今のニューヨークの雰囲気も本からしっかり伝わってきた。

 友人にこの本を贈ろうかと思ったが、すぐに思い留まった。仕事の前後の散歩が唯一の気分転換という大忙しの毎日では本を読んでいる時間なんてないと察したからだ。

 二回訪れたニューヨークで自分が身に付けたもの。それは、英語以外では、なんだろうと振り返ってみた。赤信号でも自分が安全だと思うと横断歩道を渡ってしまうことだろうか。国内外を問わず無意識に今もやっている。「ニューヨーク、赤信号でも進むのは私の自由」というところか。ニューヨーカーのように「怪我は自分持ち」の意識が自分の中に備わったのだろう。

 ニューヨーク再訪に備えての情報収集はずっと続けている。トラベラーズノートのリフィルに書き留めたり、記事の切り抜きを貼ったり、ニューヨーク特集の雑誌を買ったり。しばらく触れていなかったそのリフィルをこの話を書く上で探し出して見返した。用意したのは2009年だった。

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ニューヨーク再訪に備えて2009年から始めた情報収集のためのノートと雑誌・書籍など。気になったところを訪れてみるとコロナで・・・ということになっていたら悲しいなと思いました。

 2012年頃にブルックリンに特化した書籍が続けて出たときは即購入した。学生の頃ピート・ハミルのコラムをよく読んでいたので、「ブルックリン」に即反応したのだ。                      

 NBA(プロバスケットボール)のニュージャージー・ネッツがブルックリン・ネッツとなった際には即キャップをオンラインで購入。気が付くと「BROOKLYN」のロゴに反応していた。

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その街だけで書籍が一冊成立するということは魅力的な街だということ思います。キャップのデザインは非の打ち所なし。Brooklyn, New York…完璧。

 個性的なレストランが集まっているエリアであるヘルズキッチンも気になっている。ヘルズキッチン・・・その名を聞いただけで呼ばれているとしか思えなかった。

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トラベラー各位、「ヘルズキッチン」・・・とにかくそそられませんか? 

ニューヨーク再訪でのTO DOリストは以下の通り。

1. 従姉の義父ドンのお墓参り(生前僕も大変可愛がっていただいた)

2. ブルックリンを歩く(集めた情報が日の目を見るか)

3. ヘルズキッチンをチェックして食事(「地獄」で食い倒れ?)

4. フラットアイアンビル見学(外観が気に入っている建物なので)

5. ギャラハーで食事(西川治さんに教わったステーキハウス)

 以下順不同で、ローカルなベーグル屋で朝ごはん、街歩きの途中でバーやレストランに飛び込みで入る、トラベラーズノートのユーザーとしてはACE HOTELも訪れたい。

 滞在中4大スポーツ(野球、バスケット、ホッケー、フットボール)のどれかのホームチームの試合を観るチャンスもあれば言うことはない。

「ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由」という本が、この話

を書くきっかけとなった。タイトルは「本を読んで」のシリーズにするつもりだった。昨年シカゴの話を「本を読んで」のシリーズにした。掲載後、「シカゴをタイトルに出さないと」と前述のNさんよりまさかのダメ出し・・・。

この話を書くきっかけとなった本の著者、従姉、友人等、ニューヨー

クとの関わり合いが深い人達に話の中に登場願った。そこで、タイトルを「紐育者(ニューヨーカー)」とした。

 亡き父が母とサンフランシスコとハワイで年末年始の休暇を過ごす際に、成田空港まで見送りに行ったことがあった。チェックイン後ニュートーキョーで中華を肴に紹興酒を飲みながら、当時必須だった、出入国カードを記入するのが父のルーティンだった。

 父がグラスを片手にサラサラと記入しているのを見ていた。「降機地」のところで目が留まった。カタカナで「サンフランシスコ」と書けばいいところを迷うことなく「桑港」と書いていた。漢字で「降機地」とあったからか。父の出国審査は問題なかった。この話のタイトルのために「ニューヨーク」を「紐育」と漢字にした際に、そんなことを思い出した。

 叔母と母が生まれたばかりの従姉の娘の顔を見にニューヨークへ行ったことがあった。そのとき父は後から叔母と母に合流。叔母と母は従姉の家に、父はマンハッタンのヒルトンに一人で滞在することになっていた。

 父の到着を見計らって日本からヒルトンへ電話をした。何度かけても不在。父は旅装も解かずにホテルのコンセルジュにニュージャージーのアトランティックシティへ短時間で行って帰って来られるツアーを手配させてカジノに行っていたのだった。父のことだからコンセルジュにもカジノでも結構なチップを切ったに違いない。このときが父の最初で最後のニューヨークだった。

 締めは亡き父の話になってしまった。これを書いている8月がやはりお盆の季節だったからだろうか。

 トラベラー各位、夏休みはいかがでしたか?

追記:

1. 本文中のTO DOリストの1に従姉の義父ドンのお墓参りとあります。ドンのことは以前「再会」で書いています。ニューヨークに関しては「Barにて・1」「距離・2」「日常生活・2」「22年」で書いています。未読の方は是非合わせてご笑覧ください。

2. 本文中に登場している先輩のNさんに関しても以前「再会・8」で書きました。今日までたくさんのアクセスをいただいております。未読の方は是非合わせてご笑覧ください。

3. この話を書いているときは麻生珈琲さんのニューヨークブレンドをずっと飲んでいました。テーマがテーマだっただけに・・・。

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「おとなの青春旅行」講談社現代新書                「パブをはしごして、青春のビールをーイギリス・ロンドン」を寄稿


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