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『旅先で食べたものが食べたくなって・2』

 この話は2022年8月3日にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。そのままここに掲載いたします。これは掲載第178作目です。

「プラチナム・ジュビリー」。2022年の今年はエリザベス女王即位70周年とのこと。イギリス中の祝福の様子は日本でも大きく報道された。

 大学2年の1987年の夏にイギリスへ語学研修に行った。ロンドンに到着後、研修地のコルチェスターへの移動前に市内のハマースミスに宿泊した。プログラムにロンドン市内観光があった。

 乗っていた観光バスが急に止められた。エリザベス女王がお通りになるからだった。車窓から車の後部座席に座っていらした女王陛下がほんの一瞬見えた。その当時で既に即位35年。それから35年経過したことになる。

 イギリスの伝統的なローカルフードであるフィッシュ&チップスを初めて食べたのもその35年前のロンドンだった。フィッシュ&チップスとの付き合いも結構長い。

 「フィッシュ・アンド・チップスの歴史 英国の食と移民」というタイトルの本に出逢った。自分の読書記録によると、2020年の9月に出版されたその本を同年11月に読了していた。

 これまで自分がフィッシュ&チップスを食べてきたのは主にロンドンと東京。その中でぶっちぎりに美味しいと思うフィッシュ&チップスは神楽坂のパブのもの。そのパブの常連の間でもこの本は話題になった。現在まで数度版を重ねている。著者もそのパブのフィッシュ&チップスに舌鼓を打った神楽坂のパブ発で注目書になったと勝手に思っている。

 この本はイギリスで出版された「FISH AND CHIPS: A HISTORY」の翻訳だ。ロンドンでお薦めのフィッシュ&チップス店等の情報は載っていない。大学の講義で使われる専門書のイメージといえば伝わるだろうか。

 多少のとっつきにくさは感じたものの、読み進めるうちに気にならなくなった。知らなかったことに感心し、勝手な思い込みで長いこと勘違いしていたことに気付いたりしているうちに読了。読了後フィッシュ&チップスをテーマに都内を巡ってみようと思った。

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                   この本を手にとったイギリスマニアは多いと思います。

 読了から今年でいつの間にか2年。「フィッシュ&チップス巡り」に腰を上げた。                                                                                                                     複数のサイトで評判だったお店へ普段利用しない京浜東北線で向かった。西川治さんのフィッシュ&チップスに関するエッセイ「ポテトチップスを二シリングと、お魚を六つちょうだい」を移動中再読した。何度も読んだこのエッセイはやはり珠玉。初めてのお店と評判の一皿への期待が高まった。 

 駅前の所謂「飲み屋横丁」にそのお店があった。パブ?バル?という雰囲気。そこそこ賑わっていた。

 出てきたフィッシュ&チップスは貧相。食べてがっかり。油が何か嫌だった。生ビールは何故かデンマークのカールスバーグがメイン。ここでイギリスに想いを馳せるのは不可能。早々に撤収。次はない。店頭の大きなバナーに「東京で一番美味しいフィッシュ&チップスの店に選出」とあった。立ち尽くすしかなかった。

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    期待いっぱいだったフィッシュ&チップス。とくとご覧あれ。

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僕の中での「フィッシュ・アンド・チップスの歴史」が一つ刻まれました。以上(苦笑)。

 身に覚えのあるこの感じはなんだろうと自問。旅先で情報を信じて出かけていった食事処が大ハズレに終わったあの感じだった。

 2012年にロンドンで食べて最悪だと思ったものもここまでではなかった。せっかくの休日の夜にこれはない。帰りの京浜東北線では、西川さんのエッセイの続きを読むことも忘れ、どこで機嫌を直そうかとそればかり考えていた。

 時間もお金も勿体なく思えた。その店に関してのここまでの字数も勿体なく思えてきた。

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2012年のイギリス再訪時にロンドンで食べてがっかりしたフィッシュ&チップス。サラダ?は普通別皿でしょう(苦笑)。「イギリス料理は不味い」の伝統はこういうところから?

 日を改めてずっと気になっていた六本木にある専門店へランチに。今年が日本上陸8周年らしい。「フィッシュ・アンド・チップスの歴史 英国の食と移民」にはイギリスで一番古いフィッシュ&チップスのお店とあった。

 都内のデパートで毎年開催される英国展に必ず出店しているのを見かけるが買ったことはない。先ずは店舗で揚げたてを食べてからという思いがあったからだ。

 お店は三ヶ月に一回会議のために訪れるクライアントのオフィスがあるビルの目の前。迷うことなく到着。店内はイートイン用のテーブルがわずか三卓。テイクアウト(イギリスだからテイクアウェイか)が主なのだろう。ビールもボトルのものしかないことに合点がいった。

 イギリスでは「金曜日の夜は外で買ってきたものを食べる」という習慣があると本にあった。きっとこういうお店で買うのだろう。

 テーブルに着いて外苑東通りを行き交う人を眺めながらフィッシュ&チップスを待った。流石六本木、外国人が多い。ちょっとだけロンドンにいる錯覚に陥った。

 出てきたフィッシュ&チップスは何だか久しぶりで懐かしい味がした。 そうそうこの感じ。続くと胃が辛いがすぐにまた食べたくなる揚げ具合。

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テイクアウトの場合は箱に入って出てくるようです。このフィッシュ&チップスは現地のテイクアウトで新聞紙に包まれて出てくるものが想像できる大きさです。ビールはLONDON PRIDEにしました。現地ではパブに生がありますね。

 初めて1987年にロンドンでフィッシュ&チップスを食べたのはこんな感じのお店だった。維持するお金がないのか髪の毛のレインボーカラーがくすんでしまったパンクの女の子がズカズカとお店に入ってきて、僕が食べているチップスをねだってきたのも思い出した。

 次回はテイクアウトで再訪してみようと思った。自宅で金曜日のイギリスの一般家庭を気取ってみよう。

 日曜の夕方神楽坂へ。落ち着くのは結局ここだ。都度書いたり発信したりはしないが、結構都内各所のフィッシュ&チップスにチャレンジしている。なかなか再訪決定とならない。

 2012年のイギリス再訪からの帰国後、都内でしっかりしたフィッシュ&チップスを食べさせるパブを探した。僕のイギリス好きの嗅覚が捕らえたのが、これまで食べたなかで一番美味しいフィッシュ&チップスを出す、その神楽坂のパブだった。

 豊富なビールの品揃えとパブフードのメニュー。そうそう、探していたのはこういうところという場所だった。

 ここのフィッシュ&チップスはスナックではなく料理。アルコールはだめだがフィッシュ&チップスやパブフードが好きという常連も多い様子。案内した旅好きの友人たちは皆絶賛。後に再訪した友人たちも。

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何も言うことがないのが一目瞭然です。これは小さいサイズ。大きいものもあります。すぐに行かなければと思ったイギリスマニアのトラベラーは「神楽坂」と写真のトラベラーズノートに付いているスコットランドのバッジをヒントにパブを探してください。すぐに見つかるはずです。料理が出てくる前にギネスを少し飲んでしまいました・・・(苦笑)。

 イギリス好きでパブもローカルフードも好きなトラベラーで都内へ行き来できる方は、是非前述の六本木と神楽坂の食べ比べを楽しん欲しい。時間と胃が許せばツアーと称してハシゴも旅みたいでいい。

 僕は街をブラブラ歩いていて小腹が空いたとき、今日は家でイギリス気分に浸ろうと思ったときは六本木。イギリスのパブが懐かしくなり、ビールもパブフードも楽しみたくなったときは間違いなく神楽坂だ。

 初渡英の予備知識に六本木と神楽坂を食べ比べておくのもよい。現地でも食べ比べれば「私のフィッシュ&チップス」が完成となる。

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こちらは2012年にロンドンで食べて美味しかったフィッシュ&チップス。付け合せのビーンズに注目してもう一度ここまでのフィッシュ&チップスの写真をご覧ください。また違った発見があると思います。

 パブはキャッシュ・アンド・デリバリーが基本。昨今のキャッシュレスがパブにも浸透してきた。イギリスでもパブのキャッシュレスがかなり進んでいると仄聞した。

 日本でパブへ行くなら出来る限り千円札を用意してマネークリップに挟んで訪れたい。これは僕のパブの流儀。僕は神楽坂へ行く際はなるべくそうしている。帰る合図はマネークリップが空になったとき。食べ過ぎ・飲み過ぎも止めてくれる。

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カウンターでもテーブルでもパブではこんな感じではないでしょうか。後はフィッシュ&チップスが来るだけ・・・という状態です。

 いつものように神楽坂のカウンターでひとりギネスを飲み、フィッシュ&チップスを食べていると、本の著者である栢木清吾さんがふらりといらっしゃる場面を想像する。

 初対面なのも、ギネスが温くなることも、フィッシュ&チップスが冷めるのもすっかり忘れて栢木さんに自分の「フィッシュ・アンド・チップスの歴史」を不躾にも語ってしまいそうな気がする。そのときまでにあとどのくらい国内外でフィッシュ&チップスを巡る街歩きを重ねているだろう。

今回はあえて「つづく」と締めさせていただく。

追記:

1. フィッシュ&チップスの話はちょうど10年前に「旅先で食べたもの・4」で書いています。神楽坂に関しては「朝ごはん」「さんぽみち」「知らなかった」で書いています。未読の方は是非合わせてご笑覧ください。尚、イングリッシュ・フル・ブレックファストは休止の場合があるのでご留意ください。






2. 文中で移動中に読んだ西川治さんの「ポテトチップスを二シリングとお魚を六つちょうだい」はエッセイ集「マスタードをお取り願えますか。」に入っています。旅好きの食いしん坊と料理好きには楽しめる一冊です。西川治さんについては「ぐるっと・・・」で書きました。

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「おとなの青春旅行」講談社現代新書

「パブをはしごして、青春のビールをーイギリス・ロンドン」を寄稿


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