【園館等訪問ルポ】東武動物公園 /「水と緑のふれあいロード」(埼玉県宮代町)終わっていくものと、続いていくものと
東武動物公園へ再訪する日を心待ちにしていました。この春以来、自宅から電車一本で直ぐに行ける「身近な園」になりましたが、休園と県またぎの自粛要請により、ずっと近くて遠い場所だったのです。
予断を許さない状況下なので、もちろん万全の対策をした上で、のことです。マスク、ヨシ。広い園内を歩き回るための水分、ヨシ。
過去の訪問はいずれも遊園地ゲートからの入園でしたが、ヒトとの接触を避ける意味でも駅から少し遠い動物園側から入ろうと決めていました。
東武動物公園の外周は宮代町の「水と緑のふれあいロード」に含まれます。どこまでも続いているように見える田園風景の中、遊具たちが忽然と姿を現しました。
田んぼの真ん中に波打っているように見える水上ジェットコースター「カワセミ」。ライトグリーンの軌道が初夏の景色に映えます。
道なりにしばらく歩くと、野生のニホンキジのつがいが姿を現しました。ペアを見たのは初めてのことです。単なる「レジャーランド」としてではなく、地域の自然にも親しめる場所としての動物園の楽しみ方に触れた気がしました。
久々に訪ねた園では、まずシロサイ放飼場を目指しました。ここはことし3月まで「よしこ」さんが暮らしていた場所。東武動物公園開園当初からずっとここに居た彼女とも、もう会えません。
よしこ/シロサイ(東武動物公園,2018撮影)
いまのように動物園に頻繁に通い出す前、大学1年生の夏が、私にとって初めて東武を訪れた日でした。当時は東急東横線が日比谷線に直通していて、長い長い時間をかけて電車に乗っていたことを覚えています。
大学生活でうまくいかないことがあって、とにかく遠くに行きたい、と思って選んだ目的地が東武だったのです。
その頃の写真はもう散逸してしまいましたが、既に高齢だったよしこさんと、連れ合いだったガンテツさん(2016年死亡)に励まされたことはよく覚えています。
よしこ(奥)とガンテツ/シロサイ(東武動物公園,2016年撮影)
がらんどうになったよしこさんの庭には「整備中」とのみ掲示されており、よしこさんがもう居ないことを知らない親子が「シロサイはおやすみかぁ…」と残念そうに引き返していきました。
しかし、まだよしこさんがここに居た証は残されていました。いま多くの動物園ではリニューアルに伴い姿を消しはじめている「どうぶつものしりかん」です。
100円を入れて受話器を耳に当てました。解説はシロサイという種に関する図鑑的な内容が中心で、インターネットが発達した現代ではやや陳腐な感も否めません。けれども、「どうぶつものしりかん」の解説を聴きながら、在りし日のよしこさんの姿を確かに思い出せた気がしました。
開園当初から園内で暮らす動物たちが時代の流れとともに少なくなっていくなか、元気な姿を間近で見せてくれたのは、「リスザルの楽園」で暮らすオオサイチョウのチェンマイさんでした。
サルたちのための「巨大なドーム型飼育場」の建設のために奔走しながら若くしてこの世を去った女性、北條るり子さんの意志を継ぐ「リスザルの楽園」。開放的な施設の中で、もうすぐ来園40周年を迎えるチェンマイさんは他の動物たちに囲まれながらのびのびと暮らしていました。
園では、新しいいのちの誕生もありました。アカゲザルのサル山では5月からの2ヶ月で5頭の子が誕生。中には5日前に生まれたばかりの子もいます。彼らが大きくなる頃、園にはどんな風景が広がっているでしょうか。
私企業が運営する動物園である東武動物公園は長期化した休園による影響も大きいとされ、グッズ販売による支援を呼びかけていました。
今回の東武訪問を通じ、変わりゆく時代を感じながらも新しい楽しみ方を発見できたので、今後も情勢に気を配りつつ、足を運ぶことで応援していけたらいいなと考えています。