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#8 ポルトガルの修道院ホテルの話

好きな建築家はソウト・デ・モウラ(Eduardo Souto de Moura) 。

人と自然のスケールの両方に寄り添い、無理をしない。
その切実な空間が好き。
構図がいつも素敵だ。
ほぼ同じ理由で彼の師匠のシザ(Álvaro Siza)も好きだけど、なぜかソウトデモウラの方が好き。
なぜかは分からない。
シザの方がミニマルな気がする。

2人の故郷ポルトガルで、これまたどうしても見たい建築があった。

中心都市ポルトから電車で1時間弱のブラガ、
から更にバスで1時間程のサンタ・マリア・ド・ボウロという町に、
古い修道院を改装したホテルがある。
名をポウサダ・モステイロ・アマレスという。

今も使われているらしい教会へ続く階段の脇にエントランスがある。
格子の小さな扉をくぐるとアーチがあって、奥に小さい中庭というか、
両側に木が植わった空間がある。
堅牢なエントランスと、日が差す中庭のコントラスト。
始まりの期待感が湧く。

アーチの脇の入口から中に入り、受付を済ませる。
空間は完全には仕切られておらず、
1つ部屋を移る度に入口、受付、ソファのある談話室、ビリヤードの部屋と雰囲気が少しずつ変わっていく。
つられて気分も和らいでいく。
空間の仕上自体は殆ど修道院の躯体がそのまま生かされ、
家具や照明でホテルならではの居心地の良さが提供される。

ちなみに、
その日の夕食で食べた、タコとししとうは
人生で美味しい!!と思った食べ物ベスト2である。
食べ物の印象はやはり、体験が加味されるものですね。
味覚は長く残らなくても、記憶が刻まれるところに価値がある。

余談だが、ホテルの所々にかかっているスケッチはシザが描いたものらしい。
トイレのサインは無く、シザの描いた男性と女性のスケッチがドアの側に掛けられていた。

回廊と広い中庭(パティオというらしい)、宿泊棟を散歩する。
中庭には柑橘のなる木が並んでいる。
夜、石畳に揺れる葉っぱの影を見ている時が何物にも代えがたく、
ゆったりした時間が流れていた。心が緩む。
客室は仕上も家具もモダンなデザインで、1つの大きな窓が外の景色を額装しているみたいだった。

ホテルの設計は特にそこが僻地の場合、
旅の大きな要素である泊まる、一晩を過ごすという体験をデザインすることなのだと学んだ。
これは経験しないと分からない。
いつかまた、何度でも、戻れたらいいなと思っている。

そんな風に人に思わせるソウトデモウラに尊敬と愛を込めて、
その頃よく聴いていた音楽の中から
月夜に似合う曲を1つ。
Gregory Alan Isakov "words"

私の記憶ではなく
このホテルについて正しく詳しく知りたい方は、
京都の建築家、森田一弥さんが写真付きでレポートされている記事があるので、それを見ると楽しいです。ぜひどうぞ。


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