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どんぐりの会の主催する宮澤賢治の黄いろのトマトの幻燈会。〈月夜の幻燈会_小平市津田町1丁目1の雑木林〉

小平中央公園の東側にある雑木林で開催される『月夜の幻燈会』。2009年から続いている宮澤賢治の作品をスクリーンに投影する画と朗読と演奏で上演する会に誘われてはじめて訪れた話。

ほぼ満月が浮かぶ夕暮れから夜にかわる頃、自転車を走らせて向かう小平中央公園。
宮澤賢治のことでは少し熱くなる友人に誘われて、小平市の市民グループ「どんぐりの会」が主催する「月夜の幻燈会」にはじめて訪れる。

鷹の台にある小平中央公園の東側。通称『どんぐり林』と呼ばれる府中街道との間にある雑木林の中、宮澤賢治の作品をスクリーンに投影する画と朗読と笛とパーカッションの演奏で上演される会。

2009年から年2回のペースで開催されていて、コロナでのお休みもあったけれど、第24回めの日。演目は『黄いろのトマト』。

正直、宮澤賢治の作品をちゃんと読んだこともなく、唯一読んだと胸を張れるのは『注文の多い料理店』ぐらいな(は)。

大丈夫かなと思いつつ、暗闇の中にぽつぽつと光る灯りを頼りに雑木林に足を入れる。
木々の間に大きく張られたスクリーン。いい感じの力が抜けた字体で上映中のおねがいが映し出されている。

目を凝らすと、スクリーンの前にブルーシートを大きく敷いた座れる場所と、その後ろに並ぶパイプ椅子。そのどちらもほぼ埋まっていて、この幻燈会への期待や思いや楽しみにしているが伝わってくる。

柔らかな土の上。立ち見の中に自分の居場所をポジショニングして、静寂の中、大きく深呼吸なんてしてみる。

草と葉と土の薫りが鼻を抜けて縮こまる肺が膨らんで、頭の中の隅々に酸素が巡り、溜まるもやもやが晴れていく。気持ちが良くて何度も大きく息を吸い吐いてたたずむ。

開園時間を少し過ぎて、暗転。笛の音と打楽器が奏でられ、凛とした声で朗読がはじまる。風に揺らぐスクリーンに画が表れて、影絵が動く。

淡くカラフルな画が転換して物語が進み。笛と打楽器に抑揚を込めた言葉がのる。 

蜂雀と私。茶いろガラスのかけらの中のような室。ネリとペル。光るトマト。黄金(きん)だから光るんだ。

『黄いろのトマト』の世界に引き込まれてゆく。

ざわわと風で揺れる木々のざわつき。遠くの救急車のサイレンが別の世界の出来事のよう。はためくスクリーンを食い入るように魅入るこどもとおとな。

とても心穏やかになる林の中。キュっと胸が詰まる話でした。

それでも抱擁されるような読後感に満たされたのは、物語を紡ぐこのメンバーから家族的な温もりを感じたからか。

画はイラストレーションとデザインをする小林敏也さん。朗読は俳優で声優のかぎもと景子さん。笛は横笛演奏者の植松葉子さん。パーカッションは「東京楽竹団」創立メンバーの入野智江さんの出演者。

かぎもとさんは今再放送されているNHKの朝ドラの「ひらり」のお姉さん役で、肩パットの入ったOLしてましたと笑いながら話す終演後の挨拶。

名残惜しく残る会場で、片付けが始まるまでの一時、スクリーンに自身の影を投影し、はしゃぐこども達の奔放な自由さを羨ましがる(は)。

見上げる空に、ほぼ満月の月夜。

こんな風に自然の中でただなにかを感じるなんて、随分として無いなと振り返る慌ただしい日常。
気持ちがほぐれる一時でした。

残念なのは間に合わなかった自転車発電。

幻燈会を上演するために必要な電力を自転車発電で行い蓄えます。こども用の自転車もあるらしい。次回は自転車を漕いでから参加してみようと思う。

ありがとうございましたと投げ銭をスタッフさんの抱える箱に預けて、ぎらぎらと街灯の灯る日常に戻る。

(は)

【月夜の幻燈会】
 小平市津田町1丁目1『中央公園雑木林』


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