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最後の日の『だいます』で食べた納豆オムレツのお父さんのお母さんを思う気持ち。〈大衆料理だいます _小平市美園町〉

小平駅の南口にある大衆料理『だいます』の最後の日にお父さんとお母さんの温かなホスピタリティーにたっぷりと触れた話。

小平駅の南口の線路に沿う小平駅東栄通り商店街の大衆料理。吉田類が訪れた酒場と知り、いつかはと思いながらもなんとなくいつまでもここにあるって高を括ってた。

そんな5月。6月末で閉店するなんてお知らせを目にして慌てる(は)。

6月最後の土曜日に行けると電話をするも満席で、それ以外の日も、もういっぱいなんですと丁寧にお母さんに伝えられて途方に暮れる。

それでも名残惜しく次の日に店の前を通ってみると、丁度お父さんが片づけをしていて、おもわず声をかけました。

「もうお終いなんですね」
「そうなんですよ」
「昨日、入れなくて」
「あー、もう今度の木金土もいっぱいでね。それでもまだ予約をさばけなくて免許が切れる7月15日までは開けることにしたんですよ。二人?ちょっと待ってね」

予約表を持ってきてくれて確認してくれるお父さん。

「んー、母さんじゃないとわからないなー。母さんならどこかに入れてくれるかもだから電話をしてみて」とやさしく朗らかに。

電話は24時間受け付けてるからと、ほんとか冗談か区別がつかず戸惑うも、とてもお客さんを大切しているが伝わる父さん。

電話をしてみると、15日のほんとの最終日の19時から20時くらいなら、16時のお客さんは帰られてるかもだからと、仮で予約を入れてもらう。

そして迎える15日。19時に電話をすると入れますよとお母さん。名物の鯵は終わってしまったけどと伝えられる。

迷うことなく今から伺いますと電話を切り向かう『だいます』。

赤提灯がほんのり灯る積み重ねた年季を醸す店構え。店の前に鎮座する白色のほうきを持つ謎の人形に迎えられ、はじめてくぐる暖簾。

壁という壁がお酒と料理の短冊のメニューで埋まる放浪記で見たまんまのカウンター席と奥に小上がりの横長の店内。

カウンターの横にちょこんと座るお母さんに迎えられて、とりあえずと瓶ビールをお願いする。

料理はホワイトボードだけになっちゃったとお母さん。吟味して吟味して吟味する(は)夫婦。

ほたるいかとなすグラタン。それと自家製あつあげと納豆オムレツをお願いする。お母さんからマスターと呼ばれるお父さんは厨房で孤軍奮闘。

黒ラベルをグラスに注いでお疲れ様。お通しねと運ばれるホタテの貝殻に乗るカツオの刺身とレタスとトマトと唐揚げのようなもの。

ほぼ一気にビールを空けて、さてお酒か焼酎かと、お父さんの手書きという味のある文字で書かれた短冊に目を凝らす。

北から南の日本酒に芋、栗、米、黒糖、そば、泡盛と焼酎。

暮らしたことがある高知の『船中八策』が呑みたいとお願いするも品切れ。残念と超辛口に惹かれ奈良の『春鹿』にする。皿に乗るコップと一升瓶を運び置くお母さん。

ぼっとしていると自分で注ぐシステム。ふたを開けておっとっとっなんて囁きながら注いで顔を近づけてズッと啜る。うん、おいしい。

頃よく届くホタルイカの沖漬けと日本酒のペアリングの安心感。

お隣の忘れてた自家製あつあげをお待たせしてすいませんとお父さんが運ぶ。今度来る時は一番に注文して。今日で最後だけどねと茶目っ気なお父さん。

一緒に我が家のあつあげ。

サクサクの外側にふわっと豆腐。ひゃーおいしいお母さん。自家製なんですかと尋ねると絹どうふに重しをして水出して店で揚げてると。

生姜と大根おろしとサクサクとふわっをゆっくりとゆっくりとつまむ。

二杯目のお酒はこのあたりの誇り、東村山豊島屋酒造の『屋守(おくのかみ)』。

飲みなれた微かに甘みを醸すキレの良いすっきりとしたお酒。しっとり舌で転がしてやっぱりこれ好きと悦に入る(は)もおすすめの酒。

そんな頃になすグラタン。フレンチで経験を積んだというお父さんの洋食。はふはふと甘みと瑞々しいなすにからむチーズとトマトソースのバランスがただただおいしい。

次のお酒はと悩んでいたら、横目に入る小上がりの常連さんだと思う女子が頼む生グレープフルーツサワーがめちゃおいしそうでお願いできるか聞いてみる。

大丈夫と半割れの鮮やかなピンクのグレープフルーツ。ぐりぐりと絞り機で絞り焼酎に注ぐと鮮やかにピンク。爽やかで酸味が溢れるサワー。キンキンで喉越し良くぐびぐびと煽る。

そして最後に納豆オムレツ。たっぷりの刻みのりにケチャップの少し焦げ目の付いた堅焼きのオムレツ。

箸でつまむとひきわりの納豆がいる。ふわとろの玉子にやさしく馴染む納豆。ケチャップは特性のトマトソースだそう。

島根出身のお母さんが食べられなかった納豆を食べられるようにとお父さんが作ったオムレツなんて話。

普通にまぶす刻み海苔がおいしくて最後にこれが食べられて良かったと一口づつ大切に味わう。

落ち着いたと厨房から出てくるお父さんに、まだあと3品とせかすお母さん。すごすごと厨房に戻るお父さんとのやり取りに、ここでの40年を垣間見て柔らかな気持ちに満たされるほろ酔い。

ほぼお客さんがいなくなる頃に隣に座るお母さんと自然と話しが弾みました。

あの外の人形は?と聞くとホームセンターで買って来た電飾が光るスノーマン。2階で宴会をやってた頃に店の場所がわかりやすいように置いたのよと楽しそうにお母さん。

書き換えるのがめんどくさいからメニューは40年値上げしていないらしい。

笑い、飲み、食べて、笑う。ときおり響く西武線のガタンゴトンの心地よさ。

年季の入るビールサーバの貫禄に、まだまだ食べたいもの。なんでもっと早く来なかったんだろうと後悔の後悔。

ほんとに最後。饒舌なお母さんとほんとありがとうねとお父さん。
こちらこそ最後の最後にありがとうございました。
(は)

【大衆料理だいます】
  東京都小平市美園町1丁目32-9


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