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玉川上水緑道で戯れて。〈棕櫚(しゅろ)を編むおじいさん_小平市小川町のあたりの玉川上水〉

友人におもしろいおじいさんの話しがあると聞き、なら書いてとお願いをしたゲストの回です。(は)の友人のイシイさんが玉川上水で棕櫚を編むおじいさんに出会った話。

6月の初め、梅雨入り前のある晴れの日、玉川上水を散歩していたら、おじいさんが立ち止まって、何やら草を丁寧に束ねていました。その背中が妙にみずみずしく見えて思わず、「あの、草を何かに使うんですか?」と声をかけました。

おじいさんはわたしに気付くと気さくな雰囲気で、「えー、そうなんですよ。棕櫚でバッタを作るんですよ」と応えてくれました。
「バッタですか?棕櫚の草で」
「ええ、ここいらにいいのが生えてるんですよ」と云った後、棕櫚で作るバッタと出会ったいきさつを話してくれました。
 
おじいさん曰く、いくつかの大きな公園で行われていたイベントで、棕櫚で作ったバッタを売っていて興味を持った事。それで作り方が載ってる本を探し買って作るようになった事。バッタを作れるようになってから、トンボ、ツルは独学で作るようになった事。

又、現在、抗がん剤治療を受けながらこの近くで暮らしていて、体調がいい時に玉川上水に棕櫚の草を取りに来たり、近くの公園でバッタを作って子供たちにあげると飛び上がって喜ぶ事等々。穏やかな口調でいきいきと話してくれました。
 
わたしが、「へぇー」と何度も相槌を打ちながら聞いていたら、おじいさんは、「よかったら、今からバッタを作ってお見せしますよ。お時間大丈夫ですか?」と云ってくださったので、お言葉に甘えて見せてもらう事に。

おじいさんは棕櫚の草を裂いて、何本かに分け、そのうちの一本で器用にひゅるひゅると結び目を作って編んでいきます。それを繰り返し胴体を作り、草の芯で足を作り、余分な所は手持ちのハサミでカットしたら出来上がりました。それは、ほんとに生きているバッタのようでした。

わたしが感激していたら、「じゃあ、トンボも作りますね」と手際よく「基本は同じでね」と云いながら、これまた元気なトンボを作って見せてくれました。そしてその2匹をわたしにプレゼントしてくれました。

 わたしが2匹のしっぽを持って眺めていると、外遊びをしているような、なんとも云えない清々しい気持ちになってきて嬉しくなり、心からお礼を云いました。おじいさん曰く家のなかのどこかの台とかに置いておくと、五年以上形は全く変わらないとの事でした。

おじいさんと私は帰り道が途中まで同じだったので緑がキラキラしている玉川上水緑道をゆっくり歩いて帰りました。その短い時間に抗がん剤治療の辛さ、南台公園の近くに住んでいて、その近くのガーデンハイツの公園(いなげや小平小川橋店がある立川通り沿い) で夕方、四時前後、子供達(親子連れも含む)がくる時間帯によく出向いてバッタ作りをしている事等、わたしに話してくれました。

わたしが「お名前を伺ってもよろしいですか?」と伺ったら、「名前は勘弁してください」と照れ臭さそうにされました。その感じが、「自分は、バッタ作りのおじいさん、と親しんでもらえたらそれが本望なんです」みたいな感じで、なんだかかっこいいなぁと思いました。
 
家に戻って、テレビ台の上にバッタとトンボを置いておきました。その後、テレビ台の近くに行ったり、掃除をしようとして、思わずドキッとする事が何度もあり、本当に生きているようで怖いくらいの存在感があるのでした。

その2匹を見ていたら、おじいさんが玉川上水緑道でいきいきと棕櫚の草を裂き編んでいく姿が浮びました。おじいさんが、全身で作ってくれた証がそこにある気がしました。おじいさんの生命力が2匹に濃縮されている気がしました。
 
これからも、どうかお身体大切に、命の限り、バッタ作りを続けてほしいなぁ、と心から思います。おじいさんが作り出したバッタ、トンボもそれを望んでいる事でしょう。

又、バッタおじいさんにお会い出来る日を楽しみに、散歩に出掛よ〜と思うと嬉しくなるのでした。

(イシイオリエ)

【棕櫚を編むおじいさん】
   東京都小平市小川町あたりの玉川上水


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