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山内智恵子『ミトロヒン文書』

【血だまりと人間不信の嵐に対抗出来るのは勇気と信頼と善政】

軍隊は戦争に繫がる、アメリカの戦争に巻き込まれる。デフレは心が豊かになってモノを必要としなくなったからだ云々。現実から目を逸らすことが目的の様なキャッチコピーはそこかしこに溢れています。もちろん、まともな人間には極端な工作は効きませんからそれで全てが決まるわけではありません。

ソ連崩壊後プーチンが情報を閉じるまでの間に公開された資料を分析して、海外ではインテリジェンスに関するかなりの数の本が出版されています。しかし、日本では工作員や情報機関が未だに色物扱いされている為かほとんど翻訳されていません。

その中でも重要なものが本書で紹介されるミトロヒン文書です。日本に関する記述がかなり多いことに加えて、ミトロヒン自体が機密性の高い情報に接する機会が多い立場にいたかつ、公文書管理の訓練を受けていました。そんな立場にいたからこそソ連に対する失望も大きかったことでしょう。

稀有な存在の彼は来る日に備えて密かにメモを取り続けます。ハンガリー動乱、プラハの春、アフガニスタン侵攻、いつ崩壊するともしれない独裁政権に気の緩みは存在しません、徹底的に弾圧します。しかし、内外には都合の良い情報しか伝えられない。こうした惨状にミトロヒンはますますショックを受け、ソ連崩壊とともにミトロヒンがメモした文書は西側に持ち込まれます。

ソ連は最盛期にはイギリスやアメリカを完全に手玉に取りましたが、優秀な工作員の情報を活かすことが出来なくなり自滅しました。こうした歴史をソ連の信奉者であるプーチンや中国が活かしていないわけはありません。自滅しないように局所的な自由は認めるが、気にくわない人間は暗殺する。まともな頭を持ったスターリン(中国、ロシア)がすぐ隣にいてどんどん世界中で影響力を増大している、この恐怖がおわかりいただけますでしょうか。

怖い映画は目を瞑っていればそのうちに終わるでしょう。しかし、不都合な現実は立ち向かう強さが無ければ変えることは出来ません。強さの裏付けの一つが知識です。今後の情報史学(インテリジェンスヒストリー)の発展に取り組む方達を全力で応援します。

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