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男性ブランコの単独『てんどん記』を記録する

バレなし記


ライブや演劇を見に行くと、たまに、これは惰性やお決まりになってしまった拍手なのでは……?と思うことがある。いや、良い演目だったけど、こんなに役者を何度も呼び出す必要ある?みたいな。たまに。たまにです。私があまりそういう拍手が好きではないから思うことです。

でも今日見た『てんどん記』は、拍手が止まらない理由が明確にあったなと思った。理由はシンプルに、観客の中に生まれたあらゆる感情を伝えるには、この場で絶賛の拍手をするしかないから。
時間が押していて(30分後には次の回の開場が始まるぐらいに終わった)、男性ブランコのお二人がどうにか止めて拍手は収まったけど、止めなければあと数分は続いていたのだと思う。それぐらい、素晴らしいコントライブだった。

25日の昼公演は配信があるので、兎にも角にも見てくれ!!!!という気持ちが大きいから、ここの記録は配信期間も過ぎて、台本も買ってから追記しようと思うのだけど、ひとまず見終わった直後に思ったことたち。

ネタバレをしないで、でも人に見てほしいと思うときは、こういうものが好きなら好きかも、という形でオススメする方法がある。

休憩が挟まるまでに見たコントの後ろにうっすらと感じていたのは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。別に『銀河鉄道の夜』と同じモチーフが出てくるわけでもなく、ネタにも関係してこないのだけど、空気感が似ていた。

休憩後は、『銀河鉄道の夜』に加えて、イキウメのあのSF感や、『ゴドーを待ちながら』『レミング』などの演劇作品の香りがうっすらとするコントが続いて、最後に向かう。

ここで名前を挙げている作品が、今回の単独のコントに何かしらの影響を与えているかとかは全然知らないし、別に似ているわけでもない。

ただ、これらの作品名に少しでも引っかかった人は、きっと男性ブランコの『てんどん記』が好きだと思う。見てくれ。頼む。

お笑いの、コントの、単独ライブに対して、この言葉を使うことが適切かどうかは分からないんだけど、こんなに美しくて面白いものを見れて嬉しかった。美しさと面白さが両立する黄金比が『てんどん記』にあったんだと思う。

良いクリスマスプレゼントをありがとうございました。

ネタバレ記

ここからはもう『てんどん記』のネタバレをしながら書きます。本当はなんか色々書こうと思ったんだけど、細々と書いていくと、なんか分析みたいになるからやめます。熱量だけで書くので、ほぼ箇条書きです。

【見た直後】
・お祭り(祝祭/たましずめ)についての二人の会話がなんとなく『銀河鉄道の夜』っぽい。

・「水族記」の構成うますぎる。出版記念講演ということは分かっているけど、中山さん(浦井さん)の「人生の行き止まりにきたら、引き返したらいい」というセリフが刺さって泣きかける。一匹のシャチ、海に逃してあげたらいいっていうのは、私がペットショップを見ると、全ての子犬を解き放ちたいという感覚と似ているのだろうか。「友達というのは言うことを聞かなくても許せる存在」というセリフが印象的。

・「家族記」の来栖さん(平井さん)が、文字が読めないという設定に頭を殴られる。文字は読めるけど理解できない、という方は一定数いるはずなので、そういう人たちをのけものにしない感じが好き。「世界には端がある」という言葉から、"地球平面説"の世界なのか、と思う。お気に入りのセリフは「お懐が底なし沼」

・サラリーマンのさぁさんは、のりおくん(浦井さん)にしか見えないのか?と思ったけど、全然普通にいる。二人がどこで出会ったのか気になる。「行っても仕方のないことを聞けるのが友達の特権」、友達再びだ、と思う。好きなセリフは「それはゲボカスだよ〜」。自分の代わりに誰かが怒ってくれると、なんだか救われる気持ちになるよね。

・陽美(平井さん)の所作が全部面白い。扇子バッて開くの1回目、死ぬほど笑ってしまった。読み聞かせの時のリバーブ、咳払いがきっかけで入れてるのかな?すごい。

・『曇った関心』から雰囲気が一気に変わった。関心を持たないと、その物はその人の世界には存在しない。ちょっとイキウメの世界観を彷彿とさせた。易者(平井さん)が距離感ミスるのが好き。照明と演技でそこに塔を出現させるのがすごい。見える、塔が。最後、「関心の外へ」って消えていくマイムも好き。

・『ふと思った』、明転して二人が立っている様子で、あ、これは『ゴドー』だ、と思った。そしたら「ミカさん来ないね」という話をし始めたので、『ゴドー』だ、と思った。(2回目)『曇った関心』から引き続き、世界観がぐっと凝縮されてる。かなり演劇的だけど、ほこりを追いかけるくだりはめちゃめちゃ笑った。世界の端の壁にたどり着いてしまったときは、『レミング』だと思った。あれも端というか淵の話なので。『ふと思った』というタイトルが効果的に映像で使われていて、演出うますぎるって唸った。「いつから禁止区域?」「そもそもなんで禁止区域?」という、気付かなかったほうがよかったことに気付いていくのには惹き込まれた。まさか開けたところにてんどんさん立ってるとは思ってなかった。(席の関係で正面から見られなくて残念だった。アーカイブで見たら面白すぎた)

・アニメーションでこの世界の全体が分かった。"地球平面説"の亀の部分をシャチがやってたのにくいな。

・タイトルなしで、ミカさん(浦井さん)が天丼食べてる、易者(平井さん)も来たので、ここはどういう空間なのかな?と思っていたら、ミカさんが設計図を箸でいじってたので、ああ、神の空間か、と思った。最後に、「次はこういうの(マイムで○)作ろうと思う」と言ってて、ああ、これからこの地球ができるのかと腑に落ち。

【台本購入後】
・用語集をたまたま先に読んだら、『山月記』があり、山月記!!!!と頭に雷が落ちてきた。二人の名前も中山と月島で、なるほどなるほどなと。で、シャチは鯱で、ああ、だからトラミの名前を聞いたときに「名前に入ってるもんね」って言ってたのか!!!で、鯱(虎)になったのね!!!という。脳汁が溢れた。こういうの大好き人間。ラーメンズの『銀河鉄道の夜のような夜』の二人の名前に気付いたときと同じ脳汁。(配信についてたラジオで、浦井さんが『山月記』について15秒で紹介してたのめっちゃ笑った)

・最後のコントのタイトルが『天動記』だと知ったところでまた頭に雷が落ちて脳汁が出る。

・用語集の『御神』(神様をより敬った呼び方)で、ああ、ミカさんはやはり神だったのか、と思ってたら、易者の名前が「大国主十郎」(名字が大国)だったので、三度目の雷。大国主!!!!なるほど……日本神話……と納得。

・天気記号(○と◎)で標準語と関西弁、内と外を分けてるのがすごい。てんどんさんについても、祝祭とたましずめ、祝祭の方の世界では人気があり、たましずめの世界では怖れられているという描き分けも面白い。だって、てんどんさんあんなビジュアルなのに、たましずめの世界では年齢関係なく怖い存在ぽかったもんな。

・「友達」という存在がすごく大きい。私の大好きな『袋』のコントでも「友達」は大きな存在になってますね。

・台本を読むと、「差し支え」や「輪」という言葉がサブリミナル効果のように入ってるのに気づく。サラリーマンのさぁさんがのりおくんの「差し支え」を取ったとき、その「差し支え」は球体だったんだよね。どこまで意識的にやってるんだろ……。

・「心的なやつか」というのが2回出てくるのが気になってる。

・「台本来週まででもいいですか」と言って翌日に送ってくる平井さん恐ろしい。

・用語集の「忘れ物」の説明が好き。好きすぎるのでここには書かない。

DVD化お待ちしてます。

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