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2024年初散財でバイクを買った話(2)

長くなったので分割した。

バイク屋に初めて行ってみた日から数日後。

12月末、2023年最後の教習にて40㎞/h急制動の練習で派手にすっころんだ。
「これは確かにワンミスで死ぬな」というまるで臨死体験のような経験を経て、正直僕は二輪免許をあきらめようかと思いながら年末年始を過ごしていた。

話は変わるが僕の仕事はどうしても業務の都合上、時々土日に出社する必要がある。
1月はその土日の出社日が2日間あったため、その2日分の振替休日を1月4,5日に寄せた。

結果として12/29~1/8までという例年に比べ少し長めどころか社会人になって過去最長の年末年始休みとなり、その長い休みの間、派手に転んだという事実を引きずる正月となっていた。

年末の買い出しで年末年始用の食材は買いだめていたため、特に買い物にも行かず、体型維持のためのジムに行っては帰宅し過ごす……といった休み。

そんな中の1月6日、電話が鳴った。

家族や知り合いとのやり取りはLineで済ませるし、外線で電話となると誰だ…?と思いながらも、電話も知らない番号。
迷惑電話か何かかと思いながら出るとホンダドリームのKさんだった。

「お世話になっております、ホンダドリームのKです。」
『あ、はい、先日はどうもご丁寧な対応をありがとうございました。』

当たり障りのない挨拶を済ませるとKさんから、

「先日見積お渡ししたCBR400Rですが、別のお客様からも気になっているとお話頂きまして。」
『はい、なるほど。』
「検討状況いかがかなと思い……。
 今しがた連絡のあったお客様には「商談中のお客様がいる」と、
 一旦待ってほしい旨の連絡をさせていただいておりまして。」
『あ、そうなんです?』

先日の見積をもらったアレは、僕の中では「ただ見に行っただけ」のつもりだったけれど、どうもホンダドリーム側としては「商談に入った」認識らしかった。

考えてみればそれはそうか。
あんなに様々な見積もりを要求しておいて「検討していません」なんて話は無いよな、と自分の行動を振り返る。

なるほど。
さて、腹くくるか。

バイクを契約すれば教習のモチベーションにもなるかもしれない。
大転倒で折れかけている心の支えにするためにも、決めてしまおうと。
調べたら1/6は下見に行ったホンダドリームの初売り日でもあるみたいだ。

『本日午後、契約に伺います。』

声に出ていた。
そのまま予定を済ませ、ホンダドリームへ向かう。

前回見積もりを出してくれたKさんが僕の姿を見るなり、即商談スペースへ連れて行ってくれる。

「急かしてしまったようで申し訳ございません。」
『いえいえ、決心してしまおうかなと。』
「それでなんですが、電話で申し上げましたお客様が最初黒を希望されていたので電話差し上げたんですが。」
『はい。』
「先ほど店頭で確認されて赤を気に入られたようで。」
『なるほど。』

笑ってしまった、まんまとしてやられたのかもしれない。

「どうされます?」
『契約しちゃいます、そのつもりで来ましたし。』
「では、書類等準備します、お待ちください!」

突然声のトーンを上げ、笑顔になるKさんから「お待ちいただく間にどうぞ」とジンジャーエールを出され、それを飲んでいた。
なんでもない風にしてはいたが、今から100万を超える買い物をするんだ、と内心穏やかではなかった。

落ち着かない気持ちをなんとかごまかそうと、ソシャゲのデイリー消化でもしようか…なんてスマホを眺めていると、隣の商談スペースに腰かけていたおそらく還暦を迎えた頃であろう老紳士が話しかけてくれた。

「バイクを契約に?」
『ええ、今から印鑑を押すと思うんですけど、緊張してます。実は免許もまだで。』

その老紳士の話し口は、敬語でこそなかったものの、
不思議と不快感のない穏やかな口調だった。

「私も若いときはそうだったよ、不安と期待と半分半分、そんな感じだよね。」
『先日急制動の教習中に派手に転んでしまって、納車してからあんなことになったらと思うと少し怖くて。……バイクの契約を?』

あなたもバイクの契約をしに来たんですか、という意味の僕の問いかけ返しに、老紳士は少し恥ずかしそうにしながら店内中央に置かれたバイクを指さした。

「あれをね、今日納車で。」
『お、おぉ……』

ホンダのゴールドウィング。
1800ccの超大型バイク。
1800cc……どんな世界なんだろうか。

HONDA ゴールドウィング 本田技研工業公式サイト(https://www.honda.co.jp/GOLDWING/)より

還暦を迎え、退職後の楽しみとして思い切って契約し、今日納車なのだと。

今年の夏には奥さんの実家である北海道の地に、ゴールドウィングのタンデムで上陸するのだそう。
今までも何台もバイクを所有しており、所持した中で一番排気量の多いバイクになるだろうと話してもらえた。

その後もしばし、バイクについて話をしてくれた。
・その時の体調や気分、年齢によって「乗ってて楽しいバイク」は変わる、最適解はない
・周りからいろいろ言われると思うが気にしないで、惚れたバイクに乗ってほしい
※何に乗ってたっていちゃもんを付けてくるやつは一定数いる、とのこと
・防具はしっかりしたのを付けたほうが良い
・それぞれの排気量にはそれぞれの世界があり、互いを比べるものではない
など諸々…
楽しそうに話していたのはなんだか僕までテンションが上がるようだった。

その後も何でホンダのバイクを選んだのかとか、排気量ごとの特徴なんかを教えてもらっているうちに、Kさんが戻ってくる。

そして始まる押印押印押印。
正直手は震えていた。

押印を終えると、Kさんが立ち上がり、どうぞこちらへ……と黒いCBR400Rの前へと連れて行ってくれる。

「契約完了しましたので、こちらのCBR400Rはもうのぜりあ様のものです。」
『あ、え?これがまんま僕のになるんですか?』
「はい、こちらを整備して乗れるようにしまして、納車させていただきます。」


僕のになるらしいCBR400R

驚いた。
店内に並んでいるのはあくまで見本、注文後製造か本社の在庫が送られてくるものだと思っていた。
よく見たらリアシートのところに商談中の札が貼って会って笑ってしまった。
これ在庫なんだ……。

「こちら、成約済の札、ご自身の手で貼ってみますか?」
『…!貼ります、貼らせてください!』

まるで気分は碇シンジだった。
しかし言葉の勢いとは裏腹に、控えめにシートにかけられたビニールの上に貼っておいた。
他のバイク屋もこうなのかはわからないが、これは非常にテンションの上がる売り方だなと思ってしまった。

その後も契約の事務処理を待ちながら、先ほどの老紳士とわずかに歓談。

「私も契約の時、今のをやらせてもらったよ。じゃあ、お互い安全運転でね。」との言葉を最後に、老紳士のゴールドウィング納車を見送った。

ホンダドリームを出ていくゴールドウィングの後姿の存在感、余裕たっぷりに公道へ出ていく姿。
見ているだけでも「あれに乗れたら楽しいだろうな」と心から思った。

僕の方といえばそのまま契約処理を済ませ、諸々の話をし、順調にいけば免許は2月中旬、ガレージもそのあたりだから一旦2月20日前後での準備をお願いした。
正直免許について順調ではないため、大幅に遅れるかもしれないと言っても、全く構わないと言っていただけた。

丁寧に対応してくれたことに感謝しながら、そのままホンダドリームを後にする。

やってしまった、という若干の後悔。
もう後には引けない、という決意のような恐怖のようなよくわからない気持ち。
これからあのバイクに乗れる、という高揚感。

そんなものを感じながらのんびり徒歩(家まで12㎞)で帰った。

何故HONDAにしたのか

老紳士との会話の中で、数あるバイクメーカーの中で、僕が一台目としてなぜホンダを選んだのか、という話になった。

幾つか目を引いたバイクはあったが、CBR400Rについていえば「一目惚れ」が一番しっくりくる。
フルカウルの400ccという視点ではヤマハのR3、カワサキのNinja400と同じカテゴリなのだけれど、それでもCBR400Rを見た瞬間にとてつもない「カッコよさ」を感じた。

その「カッコいい」という感情には理屈も理由もなかったと思う、一目惚れなんだから。
おそらくそれが一番大きな理由。

そしてそれともう一つ「心に持っているHONDAへの憧れ」というのがある。
父親が車が好きなのもあり、土曜の夕方は父親の隣で「激G」(うろ覚え)などの番組を見ていた。

その中で一際強烈に記憶に残っているのが、

TAKATA 童夢 NSX

だった。

TAKATA 童夢 NSX 2005 タミヤ公式サイト(https://www.tamiya.com/japan/products/24291/index.html)より

幼少(と言っても中学高学年~高校1,2年の頃)の頃のおぼろげな記憶には、後続の車をぶっちぎりで離し独走していたTAKATA童夢NSXの姿が焼き付いている。

『あの名前の隣に書いてある数字は何?』
「あれは、いい勝負になるように積んでる重さだよ」

ハンデを負っているにも関わらず余裕で後続を突き放すその光景が
「HONDAのNSXという車はかっこよくて速い」
「HONDAの車はすごいんだ」
という憧れのような感情を僕の心に植え付けることになったんだと思う。

それもあって、車はHONDAの車を買ったくらいには、HONDAに憧れていた。
車を買おうと思って真っ先にNSXの値段を調べたときには、唖然として諦めた思い出もある。

という話を老紳士にしたときは、そういう感情は大事だよと楽しそうに笑っていた。

かくいう老紳士も映画「トップガン」で主人公のトム・クルーズ演じるマーヴェリックがカワサキのNinja(GPZ900R?)に乗るのを見て、一時期同じバイクに乗っていたらしい。

「男ってのはさ、いつの時代もそういうもんなんだよ」と楽し気に笑っていた。

僕自身、ああいう年の重ね方をしたいと思う素敵な人だった。


CBR400Rについて

契約が終わった後の道すがら、世間のCBR400Rの一般的な評判を調べていた。
「CBR400R」と打った瞬間に「遅い」「不人気」というサジェストが出てきて笑ってしまった。
世間一般的にはどーにも
「よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏」
「中途半端」
「突き抜けた部分がない」
「不満のない性能にまとまっているがゆえに面白さがない」
という評判のようだ。

「全教科80点のクラスに一人はいたおもんないやつ」という評価にも笑った。

しかしこの評価は、僕にはすごく既視感があった。
見たことがある、感じたことがある。

ああ、CR-Zの評価だ。

HONDA CR-Z 本田技研工業公式サイトより(https://www.honda.co.jp/auto-archive/cr-z/)

CR-Zはホンダの出したほぼ2シーターのハイブリッドスポーツカーで、僕も2010年式を2015年に中古で買い、8年くらい乗っている。

・スポーツカーっぽい外観
・(スポーツカーとしては)そこそこ良い燃費(街乗り実燃費15~18㎞/l)
・踏み込めばそこそこ速く、安定している(120㎞区間でも一切怖くない)
・2シーターと割り切れば積載もそこそこ(700Cのロードバイクを詰めるくらいには)

と、どの要素も僕にとっては必要十分。
「スポーツカーっぽい遊び心も欲しいし、とはいえ燃費もある程度良い方が良い、荷物もちょっと積みたい、それでいてHONDAが良い」
という僕の要求に凄まじくかみ合い、何一つ不自由のない良い車だと思っていた。
何より探した限り、このスペックを誇る車はHONDA内外を見ても他に無い。

が、どうもこのCR-Zの世間の評価は僕の印象とはだいぶ異なるようだ。
僕にとってはすべての要素が必要十分に感じていたがそれは裏を返せば

・スポーツカーになりきれない中途半端な外観
・ハイブリッドのくせに20㎞/lを超えない中途半端な燃費
・スポーツカーっぽい外観なのにそこまで速いわけではない
・スペック上4シーターだが事実2シーター前提の作り

スポーツカー という括りでも中途半端。
ハイブリッド という括りでも中途半端。

という、欲張ったがゆえに突き抜けた部分もなく、なんとなくいろんな要素をつまんだ結果、すべてが「そこそこ」で纏まってしまった車という評価もちらほら見る。

この評価は8年乗った今では概ね正しい、と思う。
ターゲット層が狭すぎたのか、この唯一無二の良さを持つCR-Zは2017年にファイナルレーベルという少し豪華な装備を搭載したモデルを最後に生産終了になってしまった。
個人的にはもう一度、86とBR-Zのようなスポーツカーの競合車種として、このDNAを継いだ車がHONDAから出て欲しいと思う。

独り身である僕にとってはこのくらいあればいいかな、というラインとCR-Zのスペックがどこもかしこもかみ合っていたため何の不満もなかったが、逆に言えばそれは「下手をするとどの部分も欲しい要求値を満たせない」ことになりえるのかも。

「CBR」という名前

その他よく見たのは「CBRの名を冠していなければ良いバイク」との意見。

バイクに全く明るくない僕はその意味が分からなかった。
ざっと調べるとどうも「CBR」というのはHONDAのバイクの中でもかなりレーサー寄りのモデルにつけられてきた名前らしい。

なるほど、と思った。

CBRという名前から、レーシーでスパルタな、速さを求めるためのバイクというイメージが先行し、
いざ現行の400Rのふたを開けたらそのイメージとは似ても似つかないマイルドなバイクが出てきたということならばこの評価も納得できそうだ。

確かにNSXという名前でCR-Zが売られていたら僕も買わなかっただろうし、往年のNSXのイメージとかけ離れていることに怒ってすらいたかもしれない。

幸い僕にとっては過去のCBRのイメージなど知らないし、2022年式CBR400Rが人生初バイクとなる。
CR-Zの経験からしても、特にCBR400Rで不自由は感じなさそうだ。

おそらく、はじめてのバイクにしては贅沢すぎるくらいだろう。
納車までに問題なく自分側の状況を整えなければ。

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