綾鷹の女

「それ、マズいっすよ」
振り向くと、見知らぬ女がそこにいた。
「このコーラ豆乳がですか?」
女は頷く。
まあ、そうだろうな。
ストローを挿して、思いっ切り吸う。
ほら。
マズい。いや、想像していたより遥かにマズかった。えずきながらそれを飲み込む。
「これいります?」
そう言いながら女は、綾鷹が波々入ったペットボトルの蓋を差し出してきた。 
「お構いなく。これでいいんです」
女は大きな溜息をつき、「しょうがないなぁ」とボヤきながら、そのまま蓋を地面に投げ捨てた。
そうして少し考え込んだかと思うと、綾鷹をそのまま力強く胸に押し付けてきた。
「これは奢りです」
咄嗟に受け取る。
蓋が無いせいで綾鷹は溢れ、スーツをそこそこ派手に濡らした。
「ちょっと、どうしてくれるんだこれ」
「スーツが濡れたのは、貴方が泣いているからですよ」
いや、そんな適当なこと言うんじゃないよ…
そう言おうとした時には、女はもう遥か彼方だった。
足、速すぎるだろ…。
貰った綾鷹を飲んだ。
それなりに美味かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?