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2021年2月における『流刑地エウロパ』再演にあたって(円盤に乗る派代表:カゲヤマ気象台)

『流刑地エウロパ』は2018年の2月、円盤に乗る派の前身である「sons wo:」の最後の公演として上演されました。今回行うのはこの作品の再演であり、当初、内容・演出に関しては基本的には初演と同じものを予定しておりました。

しかし私は今回の上演を、俳優がマスクを着用して上演するという形に変更することにしました。演劇の創作にとっては大きな決断となることでしたが、それにあたって考えたのは以下のようなことです。

私がこれまで演劇を通じて志向していたことは、例えば身体そのもの、言葉そのもの(それは書かれた言葉でもあり、発話する言葉でもあります)、人や物の存在そのもの……といった根源的な部分に、いかに直接到達するかということでした。ごまかしや嘘、見せかけといった表層に極力惑わされず、障害になるものは慎重に排除しつつ、俳優や舞台美術といったさまざまな演劇の要素を、できるだけありのままの姿で開示すること。作品ごとに方法は違えど、私が常に演劇で試みてきたのはそういうことであったと思います。しかし現在(2021年1月)の新型コロナウイルスの感染状況、及びそれにまつわる社会の様々な状況を鑑みたとき、マスクに関しては着用することが普通、自然であり、着用しないことがむしろ意味を持つようになってしまっていると感じます。それは日常生活においても、演劇・パフォーマンスにおいても同様です。そういう意味では、マスクを「しない」という選択はもはやひとつのノイズであり、それは換気をしない、ソーシャルディスタンスをとらないといったこともそうです(今回会場となるBUoYは地下ですが強力な換気装置があり、また客席も一席ずつ空けての配置となります。舞台面と客席の間にも距離を設けます)。感染症対策を全くなしで上演を行うことはまず不可能な現在、中途半端な対策は心理的なノイズを増幅させるだけです。私はそこには可能性を感じていません。

むしろ最近は稽古をしていて、例えマスクをつけた身体であっても、そのわずかな動き、微妙なニュアンスの中に、いかに豊かなものがあったかということに気付かされました。マスク越しにそれを眺める行為の中に、演劇の鑑賞を妨げるようなものは何もない、という確信すら感じています。

コロナ禍において、演劇的な体験の価値が忘れられてしまうことを危惧する声は多いです。それは私も共感します。しかし創り手にとって重要なのは、むしろこのような状況下であるからこそ、観客の余計な不安材料を除く努力をしつつ、同時に純粋な演劇体験を見出すきっかけとなり得るものを提供することではないかと思います。今回の判断は、自分にとってその両立を最大限に図れる限界点を狙ったものと言えます。

カゲヤマ気象台


【TPAMフリンジ参加作品】
円盤に乗る派
『流刑地エウロパ』https://noruha.net/next
2021年2月6日(土)〜8日(月)
会場:BUoY(北千住) http://buoy.or.jp/
ご予約:https://noruha.stores.jp/

人々
【作・演出】カゲヤマ気象台*【出演】小山薫子(ままごと)【出演】キヨスヨネスク【出演】佐藤駿【出演】田上碧【出演】畠山峻*(PEOPLE太)【出演】日和下駄*【映像】涌井智仁【照明】みなみあかり(ACoRD)【制作】河野遥(ヌトミック)【制作補佐】河﨑正太郎(譜面絵画)【字幕翻訳】山田カイル(抗原劇場)
*=円盤に乗る派プロジェクトチーム

主催:円盤に乗る派
助成:公益財団法人セゾン文化財団


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