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ドリーム・ホース鑑賞記

 巷で話題になっていた映画ドリーム・ホース
 ウェールズ界隈・イギリス界隈と競馬界隈から事前に宣伝が飛び交っており、試写会に応募するもあっさりと敗北。誰も注目してない競馬映画なのかと思ってたら、実はちょっと注目されているのかもしれない。

 ……という程度の甘い知識で乗り込みました。
 鑑賞後のに「ドリーム・ホース」で検索すると、なんと有楽町では満席になっていました。想像以上に人気があったようです。

競馬の知識はここから

 ドリーム・ホースの主人公Dream Allianceについては、成績はRacing Postあたりで確認できます。
 この馬まわりの競馬知識については、毎度おなじみにげうまさんのブログ(映画「ドリーム・ホース」に関する覚書)で確認できます。私ごときの知識レベルでこちらに対応できるはずもないので、とりあえず競馬知識まわりについてはこちらのブログを要チェックであり、かつ、日本語ベースであればこちらを越えるものは無いと思います。

 ……となると、私が競馬面で何か言うことはありません。
 てことで、底の浅い感想をつらつらと。

底の浅い感想記

  • 実在馬ドリームアライアンスと、劇中馬の成績の差異について

  これは、自分的には特に気になりませんでした。大事なことは、共有の馬が怪我と休みを経てWelsh Grand Nationalに勝った、ということだと思うので、これはあまり気になりませんでした。まあ、Newburyで勝っててほしかったな、というのはあるけど。

  • 劇中の競馬シーン

  これは賛否分かれているところですが、上空からのものと、横からのもの、そして障害飛越シーンなどいくつかを組み合わせてレースシーンにこだわりを見せていたのは分かりました。実況上の順位と、実際の映像上の着順(走行順位)がズレてることがあり、ちょっと気にはなりました。
  とはいえ、障害の飛越シーンを下から見せてくれたのは非常に良かったし、競馬の素人的にはそこまで気になりませんでした。

  • 騎手の影が薄い

  これ、日本で映画を作ったらこうはならないんじゃないかと思うレベルで、この映画では騎手はOne of Themのモブキャラになってました。これはこの映画のいいところで、焦点がぶれなかったのもよかったですね。その一方で、こちらもモブでしたが、調教師さんのところにいた乗り役さん、日本でいうところの調教助手さんがしれっとレベルの高い騎乗技術を見せていたのはイギリス的だな、と思いました。

  • Hurdle→Chaseへの変更について

  私は日本人なので、中山大障害絶対主義の中で生きてきました。なので、HurdleよりもChaseの方をなんとなく上に見てしまいます。エイントリーのGrand Nationalが世界一の売上を誇ることをあわせても、世界レベルでもそういう傾向があるんじゃないか、という気もしております。
  んで。皆さんご存じの通り、実在馬の方のDream Allianceは06-07シーズンからChaseのNoviceを走るようになります。そして、07-08シーズンのAintreeのGrand National Meetingでハードル戦にもどって、故障することになります。共有馬主として、Chaseを走ることとHurdleを走ることにどれだけの意味の違いがあったのか、Walesやイギリス目線で知りたかったな、というのが正直なところです。

  • 家族愛パート

  この映画、競馬映画にすると誰も見なくなるので、平行して夫婦問題が2つほど動いております。実話がどうだったのかは知りません。
  残念ながら、ここは私にはまったく響きませんでした。そんなことはいいから馬を見せろ!としか思わないから、競馬人間はつまらないのであります。もともと陰キャなので、恋愛ものが好きじゃないってだけかもしれない。
  そういえば、主人公の実績として知られる鳩レース、詳細な英語のWikipediaがあります(16言語あるけど、日本語は無い)。思った以上に盛んですね。

  • Walesの旅行記書いていたタイミング

  さて、ここからが本番です。
  私がこの映画を見ていたのは、丁度私が(いまごろ)2015年冬のウェールズ旅行記をダラダラと書いていたじきと重なりました(更新履歴の2022年~23年あたり参照)。ウェールズを旅行すれば分かると思いますが、ウェールズは意地と気合いで英語とウェールズ語を併記していて、なんとしてもウェールズという国の誇りを忘れないようにしている姿が非常に印象に残ります。
  これ、日本にいると、ナショナリズム的なものがニュースになるのはスコットランドばかりで、ウェールズについてはあまり話題にならないですよね。なので、私も、ウェールズに行ってウェールズのなんとなくの空気感を感じてなかったら、ウェールズの国家意識についてなんとも思わなかったと思います。そして、旅行記を書いていたことで、このときウェールズで感じた空気感をなんとなく自分の中で復習できていました。これは非常に良かった。

  • 天気

  ウェールズの冬といったら、雲と雨です。とにかく日が照らない。なんとも陰鬱な天気が続きます。これは旅行していても若干気が滅入るところです(ただし、この鑑賞記を書いている2023年1月27日~28日は山形旅行中で、雪に閉ざされた当地の雰囲気にやられていて、それよりはマシかな、と思っている自分もいる)。私はウェールズのナショナリズム的なことは分からないんだけれど、こういう天気の中にいるってことがイングランドに対する嫉妬的なまとまりを生んでたりするのだろうか、などとひねくれた目線で考えてしまいます。
  他方、この映画ではそこまでの悪天候には見舞われておりませんでした。そりゃまあ、前向きな映画ですから、悪天候が続いていたらみんな暗くなっちゃうので当然だろ、という気はするんですが、でもやっぱりうらやましいですよね。
  とはいえ、私がウェールズで話した方々は軒並み”いい人”が多く、田舎町にアジア人が乗り込んでも、「アジア人は出て行け」「チャイニーズはどこかに行け」的なことを言われることはありませんでした。逆に、先方から話しかけていただいたり(後述のブレナヴォンや、ポントカサルテでもそんなイベントがあった)して、本当に人が明るい印象です。その意味で、私のウェールズに対する印象は極めてよいです。なので、もしウェールズがイングランドに対して独立戦争を仕掛けたら、どっちの味方をするか本気で迷うだろうと思います。

  • Welsh Nationalの日程変更

  今回、共有馬主のみなさんはWelsh Nationalに向けて一家・家族・地域総出で大盛り上がりしてました。これ、Welsh Nationalが日程変更になったら大惨事ですよね。
  というのも、上に書いたWalesの素晴らしい冬の天気と相まって、Welsh Nationalが馬場の悪化で日程変更を食らうことは珍しくありません。冒頭に引用したにげうまさんのブログによると(参照先はWelsh NationalのWikipedia)、2010年から2022年の間にWaterloggingで開催延期になったのはなんと5回。もはや真面目にやる気があるのか、といいたくなるところです。かくいう私も、2015年にWelsh National観戦を計画していたのですが、前日夜に開催延期を知って急遽予定を変更したという経験があります。いやこれ、ほんと、関係者一同、急に日程変更食らってたら大惨事だっただろ。

  • ブレナヴォン

  Welsh Nationalが延期されたことをうけて私が訪問した先は、ブレナヴォンでした。このブレナヴォン、世界遺産があるので日本人でもご存じの方も多い街かと思います。というか、私が行った理由もそれです。
  さて、今回の映画、舞台となったのはCefn Fforestという街です。Googleさんによると、これをどうやら「クブン・フォレスト」と読むらしい。なんでだよ。最寄り駅はPengam。近くにはBlackwoodという街があり、今回の主人公、Janet Vokesさんが実際に働いていたとされるASDAもこの街にあります(映画ではCo-op勤務でした。スポンサーの関係でしょうか?)。
  映画パンフレットによると、この映画のロケ地となったのはブレナヴォンです。つまり。この映画においては歓喜の場として”Welsh National当日のブレナヴォン”が存在したことになるのです。Dream Allianceが勝った2009年のWelsh Nationalの6年後に私が(延期された)Welsh National当日のブレナヴォンを訪れ、それから5年後の2020年に”Welsh National当日”のブレナヴォンが映画になっているのであります。

  • Walesの国家意識と映画「ドリーム・ホース」

  というわけで、まとめ。
  この映画を見ていて、私が一番ぐっときたシーンは、Welsh Nationalのレース前の国歌独唱シーンでした(レースの結果を知ってるというのもある)。
  上に書いたような経緯から、私の中でウェールズという国に対する一定の思いというものが存在し、そして劇中の皆さんがウェールズの国旗を振り、Wales最高レースに挑んでいく。繰り返しになりますが、私にはウェールズの皆さんのナショナリズムについては全く分からないのだけれど、私なりに勝手に思うところの”ウェールズのナショナリズム”を感じたのでありました。
  この映画はDream Allianceという馬と、その馬主たちの競馬映画であるのでしょうが、それ以上に、ウェールズという国の映画であると感じたのです(役者さんがウェールズ関係者で埋まっているわけでもないので、製作側にどこまでこの意識があったかは分かりません)。

 というわけでこのドリーム・ホースという映画は、競馬映画を越えた、素晴らしいウェールズ映画だったと思うのでありました。

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