4/19予測:2021年の東京オリンピック開催が可能かどうかを,モレ無くダブり無くの原則で予想する.結論は開催不可能.

延期した2021年に東京オリンピックは,果たして開催可能でしょうか?モレ無くダブり無くの原則で,場合分けして考えてみましょう.結論は,ワクチンが多くの国で間に合わないと開催は不可能であり,そのようにワクチンが間に合う可能性は1割も無い,したがって2021年の東京オリンピックは開催できないと予想します.4/20追記:延期のための資金負担が数千億円であり,都か国がかぶる可能性が高いことについて追加しました.

考える場合分けは

モレ無くダブり無く(mutual exhaustive collectively inclusive)の原則は,議論を構築する上で強力なフレームワークです.場合分けを,相互にダブりがなく,全体としてモレも無いように構築します.オリンピック開催については,日本でと海外で,にまず分けましょう.そして日本と海外のそれぞれの状況は,1)社会的接触を減じる必要があるほど感染が続いている,2)感染の押さえ込みによって感染はほぼ収束しているが集団免疫は獲得できていない,3)ワクチン接種または感染拡大で集団免疫が獲得されて感染がほぼ収束している,という3通りがあり得ます.日本と海外それぞれで,3通りあるので,総当りは3×3の9通りになりますけれど,下で説明するように,4つの場合を考えれば十分です.

なお,韓国・台湾は感染の押さえ込みで,少なくとも今のところ感染を収束させることに成功しています.一方スウェーデンは,押さえ込まずに集団免疫の獲得を目指しています.スウェーデン以外の欧米は,医療が崩壊しないようにある程度の押さえ込みをしつつ,集団免疫もモニターしていこうという構えです.集団免疫をモニターするということは,人口のある程度が感染することを前提にしています.日本は現在感染を押さえ込もうとしており,うまくいけば中国や韓国のように,人口のごく一部が感染するだけで,感染を収束させることができるでしょう.

場合分け1:日本または海外で感染が続いていたら開催できない

日本で社会的接触を減らす必要があるほど感染が続いている場合は,大規模イベントは開催できないので,当然オリンピックは開催できません.海外で感染が続いている場合も,海外の方々は社会的接触を減らす必要があるので,大規模イベントに参加できませんので,オリンピックを開催できないことになります.すると,日本でも海外でも感染が収束していないと,オリンピックは開催できないわけですけれど,この収束には上の場合分けで述べているように2通りあって,これを区別することは重要です.

場合分け2:感染が収束しており,日本を含むほとんどの国で集団免疫が獲得できていれば開催できる

ワクチン接種または感染拡大によって集団免疫が獲得できていて,大規模イベントでも感染が広まる恐れが無いのであれば,オリンピックは開催できます.

場合分け3:感染が収束していても,集団免疫の完成が海外だけで日本で集団免疫が完成していないと開催できない

海外で集団免疫が完成して感染が収束しても,その人口の中にはある程度の感染者がいると考える必要があります.ただ,感染が広がらないだけです.いって見れば火が燻っている状態なのですけれど,その周囲に燃料がもはや少ないので燃え広がらないわけです.日本で集団免疫が完成していなければ,日本には燃料が十分にあるということですから,海外から多数の訪問者を受け入れるのは難しいでしょう.

場合分け4:感染が収束していて,集団免疫の完成が日本を含むある程度の国々で,完成していない国々もある場合は,前者の国々だけで開催することは原理的には可能だが政治的には難しい

最後の場合分けになります.日本を含むある程度の国々で集団免疫が完成しており,他の国々では完成していないとしましょう.この場合,集団免疫が完成している国々だけで開催することは原理的には可能です.しかし,政治的には極めて難しいでしょう.おそらくこの場合も開催できないであろうと思います.

場合分けのまとめ

以上のモレ無くダブり無くの議論から,オリンピックが開催可能なのは,日本を含むほとんどの国で集団免疫が完成していることが条件になるという結論となりました.

必須条件である集団免疫完成をさらに2通り考える

上述のように,集団免疫の完成には,感染拡大とワクチン接種とがあります.感染拡大の場合は,国民の6~9割り程度が感染するということです.これが1年程度で生じるとなると,非常に多くの死者も発生します.たとえば,感染率が5割,致死率が最近の抗体検査による実際の感染者を調べた研究での0.2%とすると,人口比で0.1%の死者が出るということになります.日本であれば約13万人の死者です.もし日本で1年程度で新型コロナウイルスで13万人も死者が出るような事態となっていれば,大規模な医療崩壊も発生し,社会には大混乱が生じているはずです.到底,オリンピックをやろう,という話にはならないでしょう.また日本では感染拡大のペースが遅いため,集団免疫の完成には欧米よりも時間がかかるので,そこから立ち直る時間も来年のオリンピックまでにはあまり無いでしょう.したがって,集団免疫の完成でオリンピックを開催するには,少なくとも日本ではワクチン接種が十分にできている必要があります.

ではワクチンが来年の夏までに広く接種できるかというと,その望みはほとんどありません.ワクチンの開発には通常数年の時間がかかります.現在新型コロナウイルスに対して,より高速に開発できる手法も試みられていますが,治験を行って,大規模に生産をして,それを接種するという手続きを1年やそこらで行得る可能性は,1割も無いだろうと思います.この1割というのは,非専門家である私が種々の情報,Scienceに出版された論文や,Imperial College Londonの報告書などを含めて,当たって感覚的に判断しているものです.

結論

したがって,来年夏のオリンピックは開催できないとの結論になりました.

なお,ここではフルのオリンピック,すなわち観客も入ったオリンピックを想定しています.無観客オリンピックはまだ可能性があります.

IOCは,中止よりも無観客でもオリンピック開催を望むでしょう.なぜなら,IOCのオリンピック収入のほとんどは,テレビ放映権料だからです.もし日本にとっても,無観客でもオリンピック開催にメリットがあるということならば,無観客オリンピック開催となる可能性はあります.

もし,日本がオリンピックの開催を望むのであれば,合理的には1年ではなく2年の延長とするべきでした.そうすれば,ワクチンが間に合う可能性が何倍か大きくなっていたでしょう.たぶん,ここで行ったような検討を,政府の決定に預かれるどなたも行わず,「感染を押さえ込んでオリンピックを開催しよう.」,という雰囲気で決めたのではないかと想像します.残念ですが...

4/20追記:2021年の開催での追加費用3000-5000億円の東京都負担?全くの無駄か?

こちらの記事東京五輪は国民の怒りと5000億円の延期費用で破綻寸前」(スポーツライター新田日明氏)では,2021年延期での開催に追加費用が3000-5000億円必要であり,IOCは数百億円しか負担しない可能性があり,残りは東京都の負担となるのではと書かれています.記事にあるようにオリンピックスポンサー企業も大変な状況なので,スポンサーが追加負担をすることも難しそうです.派遣切は多くの企業が行うでしょうけれど,派遣を切ってオリンピックにさらに金を出すのかという社会的な批判があるでしょうし,財務が悪化する中での追加負担は株主の理解も得られません.そうなると,やはり東京都および日本政府が追加負担のほとんどをかぶるしかなさそうです.

しかしそのように都や国が負担を覚悟して,延期の準備に入っても,このノートで述べたように実際に開催できる可能性は,非常に低いわけです.そうなると,延期のために投入した資金は全く無駄になります.都・国の資金とは元々は税金です.したがって,延期のための税金投入は,税金をどぶに捨てる可能性が高いということになります.

私の判断する2021年オリンピックの開催可能確率は10%以下で,この判断自身は間違っているかもしれませんけれど,膨大な税金を投入するのであれば,その判断主体は開催確率を何%と見積もるのかは,根拠とともに示すべきでしょう.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?