企業研修の本命としてのケース・スタディ
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:企業研修にケース・スタディを使うべき理由。企業のケース・スタディ研修は、企業独自のケースをテキストにすべき理由。英語研修にもケース・スタディが最適な理由。
知識やスキルを研修の目的にすべきではない理由
ヨーロッパの社会人経営教育、つまり大学院(ビジネススクール)教育と企業研修は、ケース・スタディ一択というのが現実です。
それは、企業が社員に求めるものは単なる知識やスキルではないからです。
世界情勢という知識やプログラミング・スキルといったものは、時間がたつにつれ、役に立たなくなります。
企業研修はもっと本質的なものを求めるべきでしょう。
下の図は、僕がヨーロッパで学んできた、社会人教育の本質とも言えるものです。
これは社会人教育に限りませんが、教育において何が価値がある学びか、ということを示したものです。
左の上に伸びる↑は教育のインパクトつまり重要性を表し、右に伸びる→は
教育の難しさを表します。
一番重要度が低くて、教えるのがカンタンなのは、知識です。
それよりも重要度が高くて、教えるのが少し難しいのが、スキルです。
最も重要度が高く、教えるのが難しいのが、態度、です。
知識、スキル、態度とは何かをまとめるとこうなります。
知識やスキルでは国際競争に勝てない
シャープは台湾企業に買収され、東芝はガバナンス問題で経営は空中分解、ソニーやパナソニックはサムソンやLG電子に海外でボロ負け。
とくに海外マーケティングに弱いという事実は、いままでの”頭でっかちの”研修が原因だったのではないでしょうか。
知識偏重といったけれど、偉くなるのも、詰め込み勉強次第なんでしょ。
どうせ課長昇進試験なんて、受験勉強さながらのことをやらされるんですよね。知ってますよ。
知識やスキルじゃなくて、積極性とか、自発性とか、観察するマインドとか、発想力とか、チームワークとか、洞察力こそが、企業を強くするのに必要なのではないでしょうか。
つまり、”態度”です。
座学を廃止せよ
僕は、企業研修でビジネスパーソンの皆さんが、一生懸命講師の話を聞いてるあの風景を見るたび、もったいないな、と思うんです。
研修に出席している多くの人が「知ってるよ、そんなこと」と思っているはずです。
それはそうです、エリートのあなたは日経はもちろんのこと、日経MJ、ダイヤモンド、東洋経済くらいは読んでいるし、プログラミングなんかもブームになる前に、オンライン講座を個人的に受講しています。
「あー、あの講師教え方が下手だなぁ、オレのほうが上手くやるのに」、「人事のスパイが紛れ込んでるから、聞いてるふりしなくちゃ」。
こういう正論を腹に抱えている受講者は、僕の観察では1割はいますね。
人事は、昨日少しお話したように、それでも一生懸命、社員のためになる内容とそれを効果的に伝えられる力量のある講師を探すのに余念がありません。
でも、すぐに陳腐化する知識やスキルを教えるのは、やめませんか。
”態度”を身につけるにはケース・スタディしかない
ケース・スタディの進め方はこうです。
1.ケース・スタディ担当者(講師)と人事部が会って、ケース・スタディのテーマ、参加者選抜、研修の目的等を決定する。例:新製品開発、リーダーシップ、戦略、ファンベースの作り方などなど。
2.市販されているケース・スタディのケースを選択する(ケース使用の著作権料が生じる)
3.参加者に準備をさせる(ケースの読み込みと問題意識を文書化等)
4.研修当日。講師がケース・スタディの概要説明、グループ分け
5.グループごとにリーダー、書記、ケースに関しグループで取り組むテーマの決定。
6.講師とリーダーでテーマとアプローチの確認
7.リーダーはメンバーに調査タスクを与え、一日目終了。
8.二日目。各メンバーによる調査項目の発表。質疑応答のあと、テーマの解決に向けてディスカッションを行い、リーダーがまとめる。
9.三日目。各グループのプレゼンテーション。
10.講師からのクロージング(各グループへのアドバイス、全体総括等)
以上はあくまで基本であり、研修ニーズによって劇的に変化、応用させることが可能です。
ケース・スタディは1秒のムダもない研修
座学では、3分の一が居眠りします。5分の1が聴いてないですよ。10分の一が退屈を噛み殺していますよ。
ケース・スタディでは、絶対にそんなことはありえません。
なぜならば、一から百まで自発性と積極性をいやでも要求されるからです。
そしてすべての参加者に、リーダーシップとフォロワーシップ(リーダーを盛り上げ、協力し、全体の進行に貢献するスピリット)の気づきを与えます。
自ら調べ、書き、まとめ、自分の意見を他者に説得させることを学びます。というか、自ら気づきます。
その他、メリットは数え切れないわけですが、僕がケース・スタディで強調したいのは、日本のすべてのビジネスパーソンの根本的な弱点を克服させるチカラです。
それは一言で言えば、”組織に受け入れられる積極性”、です。
それは単なるプレゼンテーション能力、スピーチ能力、ディスカッションのスキル、書くチカラ等という、一見大向こうを唸らせる派手なパフォーマンスだけではありません。
むしろそれは、他人の話を聴く力、コーディネート力、知識やスキルの足りない若手参加者をサポート・教育する力、フォロワーシップ、リーダーをヘルプする力、組織に対して適切な方向を提示するアプローチ等々の、一見目立たないチカラです。
ケース・スタディの命は、自由、です。グループには上限関係、ヒエラルキーを持ち込んではなりません。
その意味では、講師と人事が事前によく相談して、グループ構成を考える必要があるかも知れません。
あなたの会社のケースを創る重要性
最後に、筆者が考える理想のケース・スタディについて述べます。
ケース・スタディには、たまに「自社とは全く関係ない、他人が作った、他業種の、それも昔のケースを勉強しても意味がないんじゃね」と言う批判があります。
いや、それはちょっと誤解です。
それでも十分ケース・スタディをやる意味はあるのですが、詳しい説明は、また後日やりましょう。
でも、この理想のケース・スタディは、誰も文句がつけられないでしょう。
たとえば、飛行機メーカーが社運をかけて、いま、新しいエコノミークラスのシートを大改造する計画を立てています。どんなシートにすべきかという企業のテーマに必要な情報を盛り込んだケースにする。
講師はこの企業を取材して、企業の歴史から、失敗成功のヒストリー、社長の苦労話、エンジニアのインタビューなどを織り交ぜ、現在進行系のシート改造計画などを盛り込んだケース、つまり企業の物語を書き上げます。もちろん、経営判断に必要な数字も盛り込みます。
実際、僕はケースを書き上げ、ヨーロッパの権威あるケース・スタディ学会の公式論文の認定も受けています。
これは、新潟の重川材木店を取材して、ケース・スタディにしたものです。
日本の中小企業をケースにまとめたものは、かなりレアだそうです。
これを使うには、これを管轄するケース学会の許可と著作権料が必要です。
ケース・スタディをやればイヤでも英語が話せるようになる
結局、日本企業のグローバル研修って、英語が中心になるんですよね。
それは間違いじゃないけれど、この教育は常に実戦性の弱さが、ネックになります。
積極性、アドリブ力、説得力、そして何より日本人の弱点である、パッションつまり情熱をみなぎらせる力強いアウトプットが、従来の教育では実現できません。
そこで、ケース・スタディです。
進行も、ディスカッションも、ありとあらゆることを英語で表現しなければなりません。
でも案ずるより産むが易し、できるのです。
うまくいくのです。
なぜならば、参加者は自分の言いたいこと、英語でいうところのwhat to sayを持っているからです。
しゃべれないのはwhat to sayを持ってないからです。
それがあれば、できます。
英語がしゃべれなくても、しゃべれるようになります。
ウソだと思うんなら、やってみましょうか(笑)
いずれにせよ、日本語で取り組むにも、英語で取り組むにも、カギは
誰が教えるか、です。
日本企業も、真剣に研修にケース・スタディを取り入れることを考えた方がいい、僕はそう思います。
僕もヨーロッパで学んできたケース・スタディのすべてについて、一刻も早く一冊の本にまとめるつもりでいます。
それでは皆様、また明日お目にかかりましょう。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー