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スターバックス初の黒人女性会長が採点。アメリカ全体のダイバーシティの評価はBマイナス


“見えない天井”はまだある

もう30年以上前、私が日本語教師をしながら、アメリカ・ウィスコンシン州のビジネススクールで学んでいた時の話です。

日本語を教えていたので一応大学のファカルティ(faculty教職員)のメンバーでもあり、会議に呼ばれることもありました。

ある時、女性教員から「今度面白い会議があるんでイチローも出てみない?」と誘われ、深く考えもせず参加したら出席者は全員女性教員だけ、テーマは職場における男女差別を撤廃する、というものでした。

意見を求められたので、「日本では男女差別は当たり前だが、それに比べるとあなたがたの社会はずっと男女平等が進んでいるはず。こんなテーマで会議をやること自体にびっくり」などと、のたまったわけです。

そうすると「実態は日本とそう変わらないのよ。ガラスの天井って言葉知っているかしら。組織には女性を重要なポジションに昇進させない目に見えない壁があるって意味よ。わたしたちは戦わなきゃならないの。あんたも手伝いなさい」。

2016年大統領選に敗れたヒラリー・クリントンが「ガラスの天井を破れなかった」と敗北演説で述べましたが、30年前に比べると上級職への女性の登用は明らかに多くなっています。

しかし、ヒラリーさんの実感は、まだまだ女性蔑視が米社会にあることを物語っていると思います。

スターバックス経験が生んだ米黒人女性二人の神話
さて、男女の機会均等を巡る議論は、近年黒人(アフリカ系アメリカ人)女性の経営陣参加に関することが多いですね。

現在世界で最も注目されている黒人女性は二人、どちらもスターバックスの経験があります。ひとりはウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(Walgreens Boots Alliance Inc.)のCEO(最高経営責任者)ロザリンド・ブルワー氏(Rosalind Brewer)、もうひとりはこの3月にスターバックスの副CEO兼会長に就いたメロディ・ホブソン(Mellody Hobson)氏です。

ブルワー氏はつい最近までスターバックスのCOO(Chief Operating Officer最高業務執行責任者)でした。ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス社は世界のトップ優良企業の指標であるFortune500に選ばれているので、黒人女性初のFortune500企業CEOということになります。

ホブソン氏インタビュー

スターバックスの会長に就任したばかりのホブソン氏へのThe Wall Street Journal(2021年3月15日号)のインタビューをさわりだけご紹介しましょう。論点は3つ、ダイバーシティ(diversity多様性)、黒人女性の地位、スターバックスのエクゼクティブが最近なぜやめるのか。

WSJ:黒人女性会長としてのあなたのゴールは

ホブソン:CEOのケビン・ジョンソン(Kevin Johnson)を助け、スターバックスを新たな高みに持ち上げることよ。ずっとやってきたことだけどね。

WSJ: 黒人女性トップの意味は

ホブソン:有色人種の私が副CEO兼会長になったことは、スターバックスのストーリーを魅力的にし、従業員にとってパワフルな意味を持つわ。黒人女性ではじめての、とか唯一のという形容詞をもらったからには、誇り高くでも孤独な道を歩むつもり。興奮してます。もっと多様な人に私がもらったようなチャンスを与えないと。

WSJ: 昨年スターバックスは、新たな多様性を宣言した

ホブソン:新ダイバーシティ計画はケビンのリーダーシップのもと、うまくいっているわ。でも今が正念場。

WSJ: その取組を妨げるハードルは

ホブソン:優秀な社員が引き抜かれちゃうっていうことね。最悪の問題だわ。 ロザリンド・ブルーワーがやめちゃったのもね。ただ、黒人の彼女が彼女がはじめてFortune500企業のCEOになったのは本当に素晴らしいこと。それは彼女だけじゃなくて黒人全体の栄誉よ。

WSJ: スターバックス全体の多様性はどうですか

 ホブソン:そうね、企業がしっかり多様性尊重に取り組んでいる基準としては、下請けも含めすべての関連組織で働く人達の多様性のために、企業が全報酬の何%支出しているか、だわ。Fortune500の平均が2%、我々スターバックスは昨年実績6億ドルで、8%になるわ。

WSJ: ダイバーシティ(diversity多様性)に関して変化は見られますか

ホブソン:世の中が点数をつけているわよ。多様性の尊重という行動をすれば、ポイントが上がる。これからは、Fortune 500に選ばれるには取締役会の多様性、つまり女性とか外国人、マイノリティ、ハンディを負った人たちを入れないと、相当難しくなるでしょうね

WSJ: 取締役会の 多様性という観点から、アメリカの経済界に点をつけて下さい

ホブソン:Bマイナス。白人男性がアメリカ全体の人口の30%なのに、取締役会の70%を占めているからよ。なぜCをつけないかって言うと、去年あたりから大きな変化があったからなの。急速に取締役会の多様性が進んだわ。

WSJ: 最近スターバックスのエクゼクティブたちが辞めていくのが目立ちます。これはどういう意味なんでしょう

ホブソン:
リタイアしてやめていく人も多いのよ。でもコロナの影響もあるわね。この苦境でソウル・サーチング(自己分析)っていうか、「私は本当は何をやりたいんだ」って悩む人達が増えたこともあると思う。

以上かなり意訳というか、野呂の解釈をいれました。私の感想としては、やはり記者の鋭い追及は日本の記者にはできないな、とまず思いましたね。

鋭い質問にどう返すかで試される経営者の器量

大坂なおみが記者会見を拒否して社会問題化しましたが、失礼はともかく、ジャーナリズムはこの記者のように切り込んでいかないと。社会の公器なのですから、相手を怒らせるくらいの質問をしていいのだ、私はそう考えますね。

ホブソンさん、実に横綱相撲というか、嫌な質問もそれを逆手に取ってスターバックスの利益につなげていた感じがします。これも合気道、です(笑)。

多様性について、アメリカでは企業の社会的評価に関してこれほど重要なのだ、という理解も得られました。

エクゼクティブの離脱に関しては、アメリカの大企業はどこもそうで、偉くなればなるほど他社が黙ってないですものね、それに頭を痛めているというスターバックスはかわいい(笑)というか、人を大事にしている企業ではないかというイメージはあります。

コロナで社会はどう変わったか

僕がこの記事で一番注目したのは、最後のくだり、エクゼクティブがやめていく理由です。彼女が言っているのは、「コロナでみんな生きるって何、自分って何、仕事って、生きがいって何ってなっちゃった」ということです。

私は、「コロナで人々の意識が変わった。それを把握したものが次の覇権を握る」なぁんて言っていますが、彼女の言葉は大きなヒントになった気がしました。

今日も長くなりました、最後までお読み頂きありがとうございました。

また明日お目にかかるのを楽しみにしています。

                              野呂一郎

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