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速読するなら日経よりThe Wall Street Journal

行間が“聞こえてくる”The Wall Street Journalの書き方

The Wall Street Journalを読んでいると、確かに記事を読んでいるのですが、その記事じゃなくて、行と行の間から、もっと強い呼びかけが聞こえてくることが多いのです。

これが文字通り、行間を読むということなのでしょうか。いや、行間を読むより強く、書かれていない言葉が聞こえてくるのです。具体的に言いましょう。

The Wall Street Journal5月27日号の一面記事、見出しはExon, Shell suffer defeats on climateエクソン、シェルが気候の件で負けをこうむる、とあります。続く本文はこうです。

Exxon Mobil Corp. and Royal Dutch Shell PLC suffered significant defeats Wednesday as environmental groups and activist investors step up pressure on the oil industry to address concerns about climate change. 

(エクソン・モービル株式会社とダッチ・シェル株式会社が水曜日手痛い敗北をこうむった。なぜならば環境グループ及び運動家の投資家が気候変動に関する懸念に対応するため、石油業界に対してのプレッシャーを強めているからだ。)

The Wall Street Journalの書き方の妙
でも、行間はこう聞こえるのです。

石油大手のエクソン、シェルは環境問題なかんずく気候変動は科学的な根拠がなく、本音では一顧だににする価値はないと思っているのだが、感情的に環境クレイジーになっている反対派がやいのかいの言ってきて、圧力をかけてきている。

びっくりするのは、我々の会社の株を買ってくれる投資家の皆さんさえ、環境環境ってうるさいことだ。会社の存続のために、仕方ないから、本音は抑えて世論とやらに付き合うよ。

どうしてもこう読めてしまうのです、というよりも、この行間のメッセージのほうが強く聞こえてきてしまうのです。

なぜこう聞こえるかというと、一つには私の中に正しいものも、正しくないものも含めて環境問題に対する知識があるからです。それは一言で言えば「理由なき熱狂」というところでしょう。

もう一つの理由は、The Wall Street Journalのチョイスした、たった一つの単語が、私を行間で読んだような読み方に強く誘導したからです。

言葉一つで読者に全体のトーンを伝える
今日のテーマは実は環境問題ではありません。書き言葉のコミュニケーションのお話です。

書き方一つ、いや言葉の選び方一つで、文章は読み手に書き手の立ち位置を伝え、スピーディな理解と、複雑なニュアンスと、インパクトを与えることができる、というお話です。

このThe Wall Street Journalの書き方は、日本語のように奥歯に物が挟まった言い方、ハッキリしない言い方、間接的な言い方、というのとはまた違います。言葉の選び方一つで、読者に文章のトーン、筆者の立場、主張を伝える書き方です。

ポイントはsufferという単語

Sufferは痛い、という意味ですが、sufferの意味はexperience or be subjected to (something bad or unpleasant) 悪いもしくは不快な何かに抵抗できない状態を経験する、です。自分は正しいのに、悪いやつから不当な被害を受けている、というニュアンスがあります(出典:Oxford Languages)。

このたった一言の言葉のチョイスで、石油大手は環境問題のネガティブな盛り上がりについて不満を持っていることが分かるし、書き手もこれら大手石油メジャーの肩を持っており、投資家や環境運動家に対しても困ったものだと嘆いていることが伝わってくるのです。

ニュアンスを含む単語を一つ使うことで、より書き手の立場と主張が伝わってきます。The Wall Street Journalはダラダラと強い言葉を羅列しないでも、言葉の選び方一つで、強いメッセージを届けることに成功していると思います。

速読に向いている欧米のクオリティ・ペーパー
この書くコミュニケーションの妙は、日本語ではおそらくありえないでしょう。それはなぜかというと、英語の単語、特に動詞は日本語のそれより、ニュアンスが豊かだからです。被害を被ることを表現するのでもHave とsufferではニュアンスが違います。

見出しのたった一語を目にすれば、たちどころに全体の記事のトーンが分かる、そんなことは日本語の新聞ではありえないでしょう。

読者の皆様も毎日のご多忙の中、必死に情報収集に努めてらっしゃることでしょう。おそらく日経を手にして。

しかし、素早く価値ある経済情報や分析を手にしたいと思ったら、私は日経よりもThe Wall Street Journalに軍配を上げますね。

英字新聞なんてめんどくさいもの読んでられないよ、これが大方の反応でしょう。しかし、実はそれは逆なのです。

コロナ時代のリーダーの条件は、価値ある情報を一秒でも速くとり、それを消化し、実践に活かす能力だと考えます。実践的速読能力、と言ってもいいでしょう。The Wall Street Journalを始め、New York Times, USA Todayなどの欧米のクオリティ・ペーパーは意外にも速読に適しています。

今日もお読みいただきありがとうございました。
また明日お目にかかりましょう。

野呂一郎

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