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”戦略的あいまいさ”はアメリカの敗北なのか?

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:オバマ大統領時代の”戦略的忍耐”とは何か。アメリカの戦略的あいまいさという駆け引きの巧みさと難しさ。戦略的あいまいさはアメリカの国力の弱体化かもしれない、論。

バイデンの勇み足

きのうバイデン大統領が、「中国がアタックしてきたら、台湾を助ける」とうっかり口を滑らした一件を紹介しました。

これがアメリカが近年堅持する、”戦略的あいまいさstrategic ambiguity”です。

アメリカは台湾問題について、はっきりその立場を示していません。

中国が攻め込んできたら、すぐ駆けつける、などとはアメリカは一言も言ってません。

戦略的あいまいさのルーツはオバマ

アメリカ外交に詳しい方は、”戦略的あいまいさ”と聞くと、オバマ大統領の”戦略的忍耐(strategic patience)”を思い出されるでしょう。

https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwww.asahi.com%2Farticles%2FASN643RRSN64UHBI011.html&psig=AOvVaw0yHZP7KMU1nCZWTEKnqUlG&ust=1648731446292000&source=images&cd=vfe&ved=2ahUKEwiYoOGy8e32AhX9y4sBHf41D5YQr4kDegUIARDbAQ

そうです、この言葉は2013年あたりに出てきたのですが、アメリカの北朝鮮に対する、新しい政治的スタンスを言い表したものです。

これは核保有国に対して事を構えることを避けるための知恵、とも言うべき苦肉の策でした。

https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwww.at-s.com%2Fnews%2Farticle%2Fnational%2F1007045.html&psig=AOvVaw1rvMl3yw6krDMdNEtO4I-I&ust=1648731556848000&source=images&cd=vfe&ved=0CFoQr4kDahcKEwjg3I6F8u32AhUAAAAAHQAAAAAQAg

要するに”何もしない”っていうことです。

下手に手を出すと、全面戦争になりかねない、核戦争を引き起こしかねないからです。

「積極的に介入したいのはやまやまなんだけれど、核持ってる独裁者の国とどうやって対峙すりゃいいのよ、アンタ?」

筆者解釈

という、批判を封じ込める絶妙な落とし所を備えた、まさに文字通りの戦略的な、天才的マジックワード、これが”戦略的忍耐”だったのです。

これが必ずしも野呂のたわ言ではないことは、当時のロイター発の分析からも読み取れます。

The policy of “strategic patience” took hold, essentially launching a diplomatic waiting game in which Washington focused on sanctions and condemnation while leaving the door open to easing North Korea’s isolation if it behaved better. ”戦略的忍耐”政策が功を奏しつつある。つまり、これは”外交的待ちのゲーム”で、ワシントンは北朝鮮を制裁も糾弾もする用意はあるけれど、同時に北朝鮮の孤立を防ぐために交渉のドアは開けておく、という政策なのだ。

Analysis: North Korea tests Obama's "strategic patience"By Matt Spetalnick, Anna YukhananovAPRIL 10, 2013

これが、戦略的あいまいさのルーツかな、と。

アメリカの軍事力にすがる世界

まあでも、僕は個人的にはオバマがなにもしない言い訳でしかないな、と、彼に失望しましたけれどね。

戦略的忍耐の名のもとに、アメリカがなあんにもしてくれないから、北朝鮮がやりたい放題で、日本は今日もミサイル飛んでくるのを恐れなくちゃならない。

https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwww.yomiuri.co.jp%2Fpolitics%2F20210915-OYT1T50215%2F&psig=AOvVaw1rvMl3yw6krDMdNEtO4I-I&ust=1648731556848000&source=images&cd=vfe&ved=2ahUKEwiegr3n8e32AhUK7JQKHfYPDfEQr4kDegQIARA7

戦略的あいまいさのもとに、ロシアにもはっきり軍事演習とかで力を誇示しないから、ウクライナに侵攻したんだ、こういう声はThe Wall Street Journal等に散見されます。

でも、アメリカはもう唯一の超大国、ではないんです。

戦略的あいまいさはアメリカの現実

”戦略的忍耐”以来、アメリカはアフガニスタン、中国、ロシアに対しても同様のスタンスをとっていると思われます。それが”戦略的あいまいさ”です。

アフガニスタンについても、統治するとか、放棄すると明言しないうちに、突然の米軍撤退は世界を驚かせました。

https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DDs_IFp5LCPg&psig=AOvVaw2f8UrLn7_65KLTeefVtHMy&ust=1648732051101000&source=images&cd=vfe&ved=2ahUKEwjZ6ZPT8-32AhVwz4sBHdVIBM8Qr4kDegUIARDEAQ

台湾の中国帰属についてはNoと明言しても、中国が戦力で台湾併合を試みた場合についての態度は、はっきりさせていません。

そして今回のロシアによるウクライナ侵攻。ロシアの対外紛争についてのスタンスも明らかにしてないのです。

この戦略的あいまいさは、アメリカ経済の弱体化であり、世界の警察の役割を担えない現実の反映だという説があります。

僕もそう思います。

アフガニスタンの復興は米軍でやる、台湾有事は助ける、ロシアが理不尽な他国攻撃するなら止める、とはっきり言ったら、どんだけ国防費がかかるかわかりません。

世界の警察をになってきたコストは膨大です。

たとえば、世界中に米軍基地を保持する費用は、とんでもないものになっているでしょう。

中国の武装が進む中、通常の防衛費も増加させなくてはならない。

そのつけが、アメリカ最大の国内問題である、二極化、国民の分断です。

https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwebronza.asahi.com%2Fpolitics%2Farticles%2F2020030200004.html&psig=AOvVaw3ZJ-lGsOiGTxJq-059OoNY&ust=1648732857924000&source=images&cd=vfe&ved=2ahUKEwjHs_DT9u32AhXFA94KHccIBtoQr4kDegUIARDoAQ

その結論として、”戦略的あいまいさ”というキャッチフレーズで、アメリカは他国の問題に干渉しないことにしたわけです。

これはロシア、中国に対しての、アメリカの精一杯の牽制です。

ロシア、中国はアメリカの弱体化は感じ取ったものの、アメリカが実際どう出るかはわからない、という不安は残ったはずです。

はっきりさせない=あいまいさ、の価値はここにあります。

コストを削減しながら、脅しはかけ続ける。

これが戦略的あいまいさの知恵ではないでしょうか。

国のトップのリーダーシップが問われてる

だから、バイデンさんは、よけいなことを言ってはいけないのです。

しかし、中国には、台湾有事の際には米軍が介入してくることを知られてしまった。

ロシアには、プーチン政権排除がアメリカの真の目的だと悟られてしまった。

戦略的あいまいさは、国のトップの口が固いことを前提として成り立っています。それなのにバイデンときたら・・・

https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fbokete.jp%2Fboke%2F75505462&psig=AOvVaw0EOd0utz4qF1DX-8zClqK-&ust=1648732331006000&source=images&cd=vfe&ved=2ahUKEwiJ9M_Y9O32AhXgxIsBHWR9CNgQr4kDegQIARBZ

きのうはバイデンのアドリブはいい、と持ち上げたのに、今日はくさすのか、叱られると思うのですが、あくまで”戦略的あいまいさ”というアメリカ国策の観点からはどうか、という問題提起をしてみました。

今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

では、また明日お目にかかるのを楽しみにしています。

                              野呂 一郎

               清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー

 


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