見出し画像

米宅配戦争にみる「労働力確保」という大問題

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:アメリカ宅配戦争の顛末。労働組合と企業。コロナで業界環境が一変した理由。これからの企業は労働力をどう考えるべきか。以上についての考察。

UPS対フェデックス宅配戦争

コロナの影響でアメリカの荷物配達業界は、ドライバー不足に悩んでいます。その中で大手のUPS(United Parcel Service)とフェデックスの明暗が分かれています。

画像2

BusinessWeek2021年11月7日号P13-14は、UPS is winning the delivery wars (UPSが配達戦争に勝利)と題し、UPSがこの分野で一人勝ちの現実を報じています。

画像1

サブタイトルにはFedEx’s nonunion workers and contractor drivers were supposed to give it an edge. Nope (フェデックスの非組合労働者と契約ドライバーというビジネスモデルが有利のはずだったが、それは間違いだった)とあります。

記事の内容はまさにサブタイトルにあるように、UPSのドライバーは労働組合に加入しており、賃金は業界最高でフェデックスの2倍、方やフェデックスは労組のない企業で、ドライバーは組合に加入しておらず、一部のドライバーはこれまた非労組の契約ドライバーというシステムです。

画像3

しかし、利益には差がついています。昨年1年の売上は両者とも大体840億ドルでしたが、営業利益はUPSが77億ドルに対して、フェデックスは59億ドルでした。

フェデックスは今人で不足に苦しんでおり、それさえなければUPSに勝てると言いたいところですが、実は両社のパフォーマンスの違いはそれ以前からあったのです。

UPSはドライバーにフェデックスの2倍の給料を払っているにもかかわらず、投資利益率もフェデックスの2倍なのです。

コロナ前は機能していたフェデックスの論理

フェデックスの戦略は、面倒な要求をする組合員ドライバーは雇わずに、車、燃料等全部自分持ちで配達してくれるローカル業者に頼る、というものでした。

この考えは、コロナ前、荷物が法人関係中心だったときはうまく行ったのです。

しかし、コロナで在宅ワークが主流になり、個人の集荷が中心になり、ローカル業者頼みの経営はコスト高になってしまったのです。

画像4

5600もの契約業者は、これまでは固定ルートで運行していましたが、個人の荷物が多くなると、長距離を余儀なくされたり、次の配達地点が遠すぎたりで結果コストがかさんでしまい、そのつけがフェデックスに回ってきたのです。

業者はパパママストア、つまり家族営業の小さな所帯がほとんどで、効率的な経営ができないことも理由です。

ドライバー不足が深刻なフェデックスは、必要とされるドライバーの65%しか補充できておらず、1日60万個の荷物を処理するため、配達ルートの変更を余儀なくされ、そのためコストがかさみ、非効率が増すばかりです。

労働力不足が企業の信頼度を傷つけている

賃金を上げて、パートタイムのドライバーを募集していますが、このコロナのビジネス再開でどこも人手が足りず、集まりはよくありません。

一方UPSは労働力確保を第一に、賃金を業界トップに据えてきたこともあり、十分な労働力をキープしています。

Shipmatricsというデータ分析会社によれば、フェデックスの荷物がオンタイムに到着する率が85%に対し、UPSは95%です。

画像5

労働力確保の度合いが顧客や投資家の信頼度に影響していることが、数字でも確かめられた形です。

UPSは5年ごとに、労使交渉があります。そこで決裂すればストライキの可能性もあるわけで、こちらもリスクがないわけではありません。

労組はいま、どうあるべきか


今日のおはなしはアメリカ労組復活、外部の契約業者やパートタイマーに頼る経営は危険、コロナで激変した業界環境に対応できない企業は負ける、などとまとめることもできますが、そう単純ではないですね。

しかし、バイデン政権は労働組合復活を狙っていることだけは確かで、この文脈で今日の記事を読むことはできるでしょう。

画像6

アメリカの労組率は1983年の20.1%から、徐々に低下しており、現在では13%強と言われています。バイデン大統領は今年4月に労組を強化する大統領令を出しました。

バイデン氏は、「権力を労働者の手に戻す。組合は労働者の健康、安全、高賃金、セクハラに対して労働者がより強い主張をできるようにする」との強い決意を見せています。

これは労働者階級の賃金を上げていわゆる中産階級の復活を狙っているとされます。

労働力不足の時代の企業の戦略とは

僕は今回の話は、企業が労働力に関して、従来の必要なだけ確保すればいい、という考えを変えつつある一つの例だと思うんです。

AIの発達でロボットが人間を駆逐する、ここ数年そんなことばかり言われてきました。

画像7

しかし、自動運転の宅配トラックなんて一台も走らないし、ロボットがカフェで注文をとることもありません。

アマゾンの配送センターみたいにAI自動化が進んでいる現場もありますが、AI化が進むほど人が必要で、アマゾンは労働力確保に必死です。

ビジネスとは人と人を結ぶ営為です。ロボットが進化したところで、人がインターフェイスとして存在する限り、労働力としての人は機械やロボットに置き換わらないのです。

これからの企業の課題は、いかに人を恒常的に確保し、働かせるか。そしてアイドルタイム(人が仕事をしない時間)をどう活かすか、ではないでしょうか。

今日も最後までお読みいただきありがとうございました。

ではまたあしたお目にかかりましょう。

                              野呂一郎
               清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?