チップ不足を逆手に取るフォード新戦略で考えるトヨタの偉大さ
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:チップ不足を克服したフォードの新戦略、自動車業界の利益構造、コストにフォーカスした販売戦略。自動車メーカーとディーラーの連携
ディーラーが車を売らない?
半導体チップ不足が、車メーカーの戦略に大きな影響を与えています。The Wall Street Journal8月18日号はフォードが販売戦略の変更を余儀なくされたことを伝えています。(Ford to test new way of selling carsフォードが車の新しい売り方をテスト)。
これは、ディーラーの店頭に新車をなるべく並べないという戦略です。並べたくても並べられない事情は各社とも同じですが、しかし、モノを並べなければ売れないわけで、各社のディーラーは表向き新車のラインアップは店頭に揃えています。
しかし、フォードは、ディーラーに車を並べるのは最小限にして、お客さんから工場に直接コンタクトを取ってもらい、6-8週間後に納車というやり方にしているのです。
現在、全ての受注の半分が、お客さんが工場のウェブサイトを通じ予約するやり方で、車を手に入れています。これまでは、工場に直接受注はゼロでした。
フォード新戦略の裏にGMあり
フォードは海外のオペレーションを改革している最中で、これにお金がかかっています。また、アメリカ国内では度重なる品質問題がなかなか解決せず、これがライバルGMに収益で遅れを取っている原因です。チップ不足の中で、フォードはなんとしても利益を上げてGMを巻き返したいのです。
新戦略のメリット
ディーラーの在庫コストを削減できます。車を展示することは当然広告費がかかります。あとは車のローン(car financing)です。購買者に渡るまでの間はローンと利息は販売店の負担になるからです。
新戦略のデメリット
ディーラーに車がなく、工場に注文で何ヶ月も待たせるスタイルは、忍耐力のあるお客さま向きです。他のディーラーがすぐ買いたい車やSUVやトラックを揃えていれば、普通のアメリカ人ならそっちに行ってしまうでしょう。
しかし、どこも事情は同じ。ディーラーにたくさんの車を並べる余裕はありません。
車の需要は堅調ですが、チップ不足が各メーカーを悩ませています。
苦肉の策でフォードが生み出した工場直接オーダーは、カスタム・オーダー(custom-ordering)と呼ばれています。
それでもなぜ、米自動車メーカーは空前の収益なのか
フォードCEOのジム・ファーレイ(Jim Farley)氏は「工場への直接注文が全売上の約4分の1になってくれれば、今までは75日かかったのが、50から60日でディーラーに届けられる」と、戦略の合理性に自信を見せます。下の動画はバイクにまたがるアクティブなファーレイさんです。
チップ不足で生産が滞る中、多くの自動車メーカーは、史上最高益をあげています。それには3つの理由があります。
1.新車ブームの爆発
2.チップ不足のせいで、生産が思うようにできず、需要と供給が偶然うまくバランスされた結果、在庫コストが劇的に軽減されたこと
3.チップ不足を理由に価格に転嫁しても、消費者は喜んで買ってくれる
チップ不足はあと数年は続くという見方があり、今のアメリカ自動車メーカーは、苦しみながらも、つかの間の晴れを楽しんでいるだけなのかも知れません。
まとめ:トヨタのカンバン・システムのすごさ
フォードのカスタム・オーダーは苦肉の策ですが、コスト的に合理性が十分あります。チップ不足で生産が滞っているから、自動車業界はどれほど大変か、と思っていましたが、多くが最高益をあげています。
それは、ひとえに「在庫を抱えるロス」がいかに大きいかという業界の特徴を物語っています。
その意味で「かんばん方式」英語ではジャスト・イン・タイム・システムと呼ばれていますが、という在庫を極限までにゼロに近づける画期的な方式を50年以上前に開発した、トヨタの先進性を思わずにはいられません。
今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
また明日お目にかかりましょう。
野呂 一郎
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